大人のやり方
当たり前のようにローズと殿下を見つけたけれど、俺は一時それをスルーすることにした。
なぜなら折角二人きりになれてる時間を邪魔して、ローズににらまれるのが嫌だからだ。俺ちょっとずつわかってきたんだよね、ローズは基本的に殿下に押し付けておけば何も問題ない。
殿下とセットでいる分にはかわいらしい女の子でしかないんだ。
もし殿下が助けてって言ってきたら、その時初めてどうするか考えればいいだろう。しばらく二人でイチャイチャしてて。
そうなると残りはウォーレン家の二人か。イレインとかその辺突っ立っててもおかしくない気がするんだけど、意外に見つからないな。
倉庫の前にある木箱の裏を覗いたりして一応探すしぐさをしてから、倉庫全体が見えるところまで下がる。
「いないですねー」
そう言うと、手を両側から引っ張られた。
二人を見ると、視線が倉庫の奥へ向いている。かわいいねこいつら、こっそり教えようとしてくれてるんだ。
とくにヒューズ君、ただのツンデレみたいになってる。さっきまで俺と勝負しようとして待ち構えてたのに、君は本当にそれでいいのかな?
折角教えてくれてるのにあまり探さないのも申し訳ないし、ゆっくり裏手を見てから次にいくか。
「倉庫の裏も見てみましょうか」
わざと声を出してのんびり歩いていくと、小さな声が聞こえてきて、裏手で何かが倒れる音がした。はいはい、上手く俺に見つからないようにぐるっと回ってね。
手を引いたままのんびりと裏手を歩き倉庫を一周。元の場所に戻ってきても、殿下とローズは見つからなかった。今頃二人は一緒に困難を乗り越えたことで結束が高まってるかもしれない。
ローズ、これは貸しにしておくからね。
ここで面白かったのは連れている二人の反応で、ヒューズ君は首をかしげてあれーって顔してるんだけど、ベルは反対周りにもう一周したそうな顔をしている。認知の発達に差があるんだなぁ。
5歳くらいだと早生まれか遅生まれかでだいぶ違うだろうし、個人差も大きそうだ。
「あっちを探しましょう」
それでも俺がそうやっていうと、ベルは振り返りつつも素直に歩き出した。
ずいぶんと物分かりのいい子だ。
倉庫がある角を曲がると、今度は厨房につながる裏口がある。外で管理している野菜とかもあるから、置いてあるものは結構多い。
裏口から厨房の担当者が出入りしているのは、今日の小さなお客様たちのための食事を準備しているからだろう。
その中に違和感を感じて俺は足を留める。俺の姿を見るとみんなが挨拶してくれる中、一人だけ熱心に野菜を別の箱へ移している者がいたのだ。よく見なくても、他の面々よりも幾分か背が小さい。
そーっと近づいて隣に並ぶと、使用人の服を着たサフサール君が手を止めて頬をかいた。
「いい案だと思ったんだけど、ばれちゃったか」
「ここが外だったり、サフサール殿の背がもうちょっと高かったらわからなかったかもしれないです」
「難しいね、かくれんぼって。すみません、お忙しいのに服を借りてしまって!」
いいえ、サフサール君が勝手に難しくしているだけだと思います。かくれんぼっていったら、普通皆みたいに物陰に姿を隠す物なんですよ。そんな探偵とかお忍びみたいな隠れ方する必要はないのに。
うちの使用人は皆優しいからサフサール君が服を返すと「いえいえ」とか「俺たちも挨拶を控えればよかったですね」とか話してる。仲良きことは美しきかな。
こうなると所在が分からないのが、もうイレインだけになる。この先に行くと元居た庭に戻っちゃうから、パッと見渡して分かるところには隠れてないってことになる。
どこ行ったんだあいつ。
サフサール君は挨拶を終えて合流すると、俺が二人と手をつないでいるのを見てにっこりとほほ笑んだ。言わんとすることはわかる。そして口に出さないあたり偉い。
しかしその笑顔でヒューズ君は、はッと気づいたらしく手を放して険しい顔をして見せた。良かったね、ここにはそんな君に意地悪なことを言う人はいないよ。
とりあえずもう一周して、途中で殿下とローズを回収。
一周目と同じように倉庫をぐるりと回り、今度はベルの希望通り反対周りをして見つけてやった。殿下とローズも緊張感が楽しかったらしく、きゃっきゃと声を上げていたのでこれで良かったのだろう。
「ベルは気づいていたんですね」
そう一声かけてやると、ベルも満足げな表情をして、むふーと鼻息を吐いていた。
5歳児皆かわいく見えてきた。
そしてみんなで更にもう一周したというのに、未だにイレインが見つからない。
まさか本気でかくれんぼに臨んでるのか? 今は物静かでダウナーな性格演じてるけど、あいつ多分根っこはそういうタイプじゃないもんな。変なところで童心に帰るなよ……。
中身がかわいくない外身5歳児はどこに行ったんだ。
あまりに見つからないので、仕方なく全員で手分けして探すことにした。いつまでも出てこないあいつが悪い。
そうしてしばらく、池の周りをじっくりと見ていると、訓練場の方から「いましたわ!」というローズの声が聞こえてきた。
走って駆け付けるとローズが、最初にベルが隠れていた箱のふたを持っている。
近くへ行くと、覗き込む俺とローズをイレインが無表情のまま見上げていた。
……こいつ、いったん俺のことやり過ごしてから、わざとベルが隠れてた場所に隠れ直したな。やっぱり本気でかくれんぼしてるじゃねぇか!
「見つかってしまいましたか」
見つかってしまいましたかじゃないんだよ。ちょっと満足げな表情してるし。
「すごいですわね、こんなに見つからないなんて」
「……ありがとうございます」
ローズ嬢、分りにくいけど、そいつちょっと得意になってるからあんまり褒めなくていいからね。