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ウォーレン伯爵ってどんな人

 最近は母上がエヴァに付きっきりなので、夜の執務室には父上と俺の二人だけになることが多い。赤ん坊が眠っているところでしゃべると目が覚めてしまうし、泣き出してしまっても仕事の妨げになる。

 父上は邪魔だとかは言わないだろうけど、泣いてたら気もそぞろになりそうだ。

 二人とも仲良しのオーラがめっちゃ見えるから心配はしてないんだけどね。

 俺としてはもっとたくさん下の兄弟ができてもいいよ、かわいいし。


 父上も深夜まで仕事をすることは少なくなってきた。

 やっぱり王都に移って、やり取りが楽になったのが良かったんだろうなぁ。

 書類を片付け始めた父上を目で追いかける。

 そろそろ話しかけても邪魔にならないかな?


「父上は学校で陛下とウォーレン伯爵と仲が良かったと聞きました」

「そうだな。仲は……まぁ、良かったな」


 懐かしむような表情をしているから嘘はないんだと思う。実際話してて気安い感じだったし。だからウォーレン伯爵と父上が仲が良いってのはわかるんだけど、なんで仲良くなったのかがわかんないんだよな。

 俺の見えてない良いとことかがあるのか? 単純に子供に厳しいだけで、他には優しいとか?

 みたいな疑問が溢れてきての質問である。

 父上割と何でも答えてくれるからね。考えてるより聞いた方が早い。


「なんで仲良くなったんです?」

「……確か、プラックから声をかけてきたんだったと思う。今よりも明るい性格をしていてな、成績が伯仲してけん制し合っていた俺と陛下の仲を取り持ってくれたんだったか」

「陛下とけん制って……」

「いや、私は気にしないでいたのだけれど、それがかえって気に障ったらしくてな。でもそれは2位争いでな。座学でも剣術でも1位はプラックだったよ。もしかしたら、あいつも仲を取り持つ気はなかったのかもしれない。……いや、今思えば間違いなくそうだな。剣術で俺より成績の悪かった陛下が私に突っかかってきてた時、あいつなんて言ったと思う?」

「わかりません、なんです?」


 語る父上はずいぶんと楽しそうだ。

 本当にいい思い出なんだろうな。


「『ふーん、お前たち2位で満足なんだな』だ。気にもしてなかったのに、それで私もやる気が出てしまった。陛下も目の前の私よりもいけ好かない奴を見つけたと、プラックのやつに突っかかるようになった」

「友人、というよりライバルですね」

「そうだな、でもいつの間にか仲良くなっていた」


 すっごい青春っぽい話だ。

 子供の俺たちがあれだけ関係に気を使ってるのに、父上の世代って案外自由だったんだなぁ。


「結果座学では陛下とプラックが、剣術では私とプラックがトップ争いをするようになった。……きっかけはそんなところだ」

「……そういえば学園って、魔法の講義はないんですか?」


 剣術と座学だけってことはないと思うんだけど……。貴族って魔法が使える人が圧倒的に多いらしいし。


「いや、ある。ただな、魔法ではかなわないものたちが多かったんだ。例えば推薦を受けた探索者(シーカー)。それからもう一人、ヴィクトリア=オートンという女傑がいて、魔法に関しては張り合おうという気が起きなかった」

「……そんなにですか?」

「ルーサーは魔力量が多いだろう? 私はそれほどでもなくてな。ただ、そのヴィクトリア、いや、オートン伯爵はな、魔力量がとにかく多かった。それに飽かせて、第三階梯までしか使えないというのに、独自の第六階梯の魔法を持っていたぐらいだ」


 あ、俺その人知ってる。

 【皆殺し平原】とか呼ばれてるやばい地名作った人だ。西に住んでいる、この国唯一の女性貴族ね。あー、父上と同じ世代だったんだ……。


 北はウォーレン家、東はシノー家、南にセラーズ家、西にオートン家。各方面へにらみを利かせる王国の伯爵家だ。王都であるプロネウスは国土全体を見たとき南寄りにあるから、セラーズ家が一番近いんだけどね。

 ……そんなことより今はウォーレン伯爵についてだった。


「ウォーレン伯爵は戦争をよくされると聞きました。北には敵が多いのでしょうか?」

「なんだ、イレイン嬢の心配か?」

「ええ、まぁ……」


 心配っちゃ心配だけど、多分パパンが考えているような心配ではないよ。

 父上は少し難しい顔をして、とんとんと書類をまとめ終えてそのまま引き出しの中へしまった。


「……北は、多いな。馬を駆るのが得意なものが多く、冬になると食料を求めて南下してくる。統一性なくばらばらと攻めてくるから、交渉をするのが難しいと聞く」


 あー、なんかどっかで聞いたような話だ。ここまで話を聞くと、ウォーレン伯爵もそこまで無茶苦茶なことをしているわけではないようにも思えてくる。


「ルーサーから見てプラックはどうだ? 怖い奴か?」

「……厳しい方のように見えました」

「……そうか。やはりあれ以来あいつはちょっと変わったな」

「あれとは?」

「……あと一年で卒業という頃に、戦争があってプラックは自領に戻ることになった。その時に当時のウォーレン伯爵が亡くなって、プラックが家督を継ぐことになったのだ。……思えば、私たちの世代が早くに家督を引き継いだのも、あれがきっかけだったな」

「詳しく聞かせてもらえませんか?」

「そうだな……、いや、止めておこう。もう夜も遅いし、いくら賢いとはいえ、お前にはまだ難しい話だ。ほら、ミーシャが待っているから一緒に部屋へ戻りなさい。お前が休まないとミーシャも休めないのだから」


 めーっちゃ気になるところでやめるじゃん。

 これしかも、父上に聞いてもちゃんと教えてもらえなさそうな気配がする。母上も、無理だろうなー。そもそもエヴァの前で小難しい話したくないし。

 だとすると、ルドックス先生とか? あー……、眼鏡マッチョ先生とか案外いいかもしれない。そうだ、あの人に聞いてみよう。


 父上に抱き上げられて運ばれながら結論を出した俺は、そのままミーシャに連れられて自室へ戻ると、すぐにベッドにもぐりこんで夢の中へと旅立ったのであった。

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