過大評価?
「しかし……、君の言いたいことは理解した」
「そうですか」
感覚的には分からないけど、ね。
そもそも偉い人がいちいち個人の事情に気を配ってたら、政治って回らないだろうしなぁ。結果的に何が正しいかわからないけど、俺がなんとなく嫌だったって話でしかない。
もしかすると先輩たちだって、思わぬ知らせに騎士団に普通に入るより喜ぶかもしれない。俺が勝手に先輩たちの気持ちを考えて、勝手に怒ってるだけだ。
説明して理解したからこそ余計に、ただ俺がガキだってことが分かる。
まあでも、何かを決定する時に、感情面を理解してるかしてないかってのでかいからな。ゾーイ様って賢いから、感情的な部分を理解して、必要に応じてそこをフォローしつつ物事を決めていくことだってできるはずだ。
そうすりゃ今より賢くて手に負えなくなるってわけ。
……やっぱこの人にはあまり近付かない方がいい気がする。
「そして……、新たに疑問が生まれた」
「……なんでしょうか?」
また面倒くさいこと言ってくるんじゃないだろうな。
「私と同じように将来が決まっているはずの君が、なぜそんな感情を理解しているかがわからない。君はそんな感情をどこで学んだ? イレインにしてもそうだ。君たちは、私が……、いや、一般的な貴族や王族が持ちえない価値観を有している。それはどこで学んだのだろうか」
おーう……、そう繋がるのか。
どんどん自分が丸裸にされていっている気がして、めちゃくちゃに居心地が悪い。
どうなってんだよマジで。
「僕は幼いころからルドックス先生や探索者であるクルーブ先生に学んできました。身分を隠して探索者として活動したこともあります。イレインはきっとその影響でしょう」
「どうかな。私が初めてイレインを見初めたのは、私が考えた遊びをしているところだ。まるで似たような遊びを知っているような印象を受けた。それで探りを入れてみたところ、何かを隠すような微妙な反応をしたな。他にもさまざまな実験を見せたり、質問をしたりしたが、イレインは時折私が想像しえない答えを返したり、やはり答えに悩むようなことが幾度かあった」
イレイン……、なんかお前も苦労したんだな……。
気に入ってもらえてよかったね、とか安易に言ってごめんね。
俺、今になって反省してるよ。
しかしそうか。思い出してみると、イレインが最初にゾーイ様に見つかったのは、まだルドックス先生が生きていた頃だ。サフサール君がいて、スバリと一緒に街へ出かけていた頃のことだ。
「……セラーズ家も、貴族家にしては使用人と親しい家柄ですので」
絞り出した言葉に、ゾーイ様は一切の興味を示さず話を続ける。
取るに足らない言い訳、と判断したようだ。
「私よりも賢いのかと考え、そうかもしれない、とも思っていた。実際イレインは賢いのだろう。しかしルーサー君、君もまた、どこかずれた感性を持っているように思える。君の説明では、君たちに対する違和感が拭えない。何かがある。間違いなく何かがあるのだが、それが見えてこない」
何を答えても裏目に出そうだ。
だから嫌なんだって、頭のいい奴。
イレインの方をちらりと見るが、こちらも沈黙が金と考えているのか口を結んだままだ。
ゾーイ様も裏読みしすぎなんだよ。
イレインはともかく、俺はそんな大層なもんじゃない。
「そして君たちは、互いにその理由を理解していて、私に隠している、ように思える。気になる。非常に気になるのだが……、どうやらその様子は、探られたくない、かな?」
うんそうだよ。分かるならもうやめてね。
「これが隣国の王女や、セラーズ伯爵家の嫡男でなければ話は簡単だったのだけれどね」
あ、これもしかして、身分がなかったら消されてるルート……?
とんでもないことを言い出したぞ。
「うん、違うよ」
「何も言ってません」
勝手に心読んで話進めないでね。
「言わなくても分かるよ。そうでなければ、〈王立研究所〉で引き取った、ってだけさ。君たちのような異才のために、この場所はある。殺すものか、勿体ない。私は確かに陛下のために働いているが、人の才能も好きなんだ。だから私は君たちのことも好きさ」
「……その割に、先ほどから追い詰められている気がするのですが」
「そんなつもりはないんだけれどね、悪かったよ。私としては……、君たちが王家の敵でないとわかればいい。そう誓ってくれる限り、行動の邪魔もしないと約束するよ。できることであれば手を貸したっていい。こっそり〈王立研究所〉に、君たちの研究室を用意してあげてもいいよ。うん、それがいい、そうしよう。我ながら名案だ」
「それは、いいかもしれません」
俺が勝手に決めるなと突っぱねようと考えていると、イレインが先んじて受け入れてしまった。
何か考えがあるらしい。
だったらまぁ、俺も受け入れておくか。
「条件を一つ。何か大事を起こす時、大きな決断をするとき。君たちがなぜそれをしようとしているか私に教えてほしい」
「それは……、監視をする、という事ですか?」
「違うよ、私の好奇心。だから最悪急いでいる場合は、事後報告でも構わない」
「……それなら構いませんが」
「では決まりだ。部屋は次回来るまでに用意しておこう」
「ありがとうございます」
これで話は終わりか?
なんかどっと疲れたな……。今日は他の変人さんたちの話を聞く元気は残ってないわ。
「また呼び出したら話を聞かせてほしい」
「……今日のように追い詰めるのはやめてください」
「嫌なことは嫌と言えばいい。ここは学園の延長。身分の差はなく意見を言い合える平等な場所だ」
「……そうですか」
王様の妹相手に自由な意見交換は無理だろ。
変人窟の皆さんなら知らないけどさ。
「なにか言いたげだね?」
「……いえ、流石にいきなり平等と言われましても、難しいなと」
「私はそうしてくれた方が嬉しいのだけれどね」
「努力します」
だったら政治に絡めた話とかしない方がいいと思うよ、俺は……。





