就活トラブル
訓練場へ向かうと、諸先輩方が深刻な顔をして円陣を作っていた。
妙な気配があったので、派閥の生徒たちにはいつも通りやるよう言ってから、そちらへ駆け寄っていく。
見れば天パことシグラト先輩をはじめ、俺との戦いで好成績を残している先輩に限って渋い顔をしたり、頭を抱えたりしていた。
「何かありました?」
「あー……、いや、何でもないからお前はあっち行ってろ」
しっしと俺を追い払おうとしたのはシグラト先輩だ。
そんな顔をして何でもないもないだろうに。
「何でもないのならあっちへ行く必要もありませんよね。何があったか知りたいのですが」
「しつこい奴だな……、こっちは真面目な話してんだよ。子供はあっち行けって」
「何か役に立てることがあるかもしれません」
「ねぇよ、あっち行けって言ってんの!」
シグラト先輩にしてはやけに余裕がない。
こりゃあマジで問題が起こってるっぽいな。
逆に引けないだろ。
黙ってシグラト先輩と睨みあっていると、アウダス先輩が間に入って俺たちの視線を遮った。
「なんですか」
「ほら、こいつだって引っ込んでろってよ、べろべろばー」
この先輩マジで子供か?
馬鹿にした顔で舌まで出してきやがった。
「……ルーサー、一人で突っ走らないなら、話を聞かせる」
「おいおいおい、俺たちのことだぞ、勝手に決めんなよ」
「シグラト先輩。ルーサーは恩や義理を大事にする。自分たちの問題にかかわらせたくないのは分かるが、ここで突き放すと勝手に調べて無茶をするぞ」
「あー……、するか」
「する」
変なところで信頼を得てるなぁ。
まぁ、アウダス先輩は俺のことをよくわかっているってことで。
「まあそうか……、仕方ねぇなぁ、話しに入れてやるか」
「どうしてお前はそう偉そうなんだ」
手招きしたシグラト先輩に、ジャイル先輩が注意をする。
こちらの先輩も今年で卒業で、俺との戦績はほぼ五分。
シグラト先輩のように背は高くないけど、守りの硬い堅実な戦い方をする人だ。
今年の卒業生の中じゃ、この二人が実力トップツーだろう。
「いやな、俺もジャイルも騎士団に受かってたはずなんだけど、なんだか知らんがここにきて入団に難癖付けられてるらしいんだよ。まぁ、身分の低い家じゃよくあることだってよ」
「よくあるんですか……?」
「ああ、それで入団できなかったような奴らもいるってさ。ま、駄目なら駄目で別の仕事を探す。だが理由もわからねぇのは気にくわないって話をしてたんだよ」
「騎士団は実力主義ですよね?」
騎士団と言えば、強いものを集めて王都を守る最強の盾であり矛のはずだ。
それがそんな身分で強い奴弾くようなことしていいのかよ。
「そうだと信じてぇけどなぁ……」
シグラト先輩はちらりと別の先輩の方を見る。
その先輩は気まずそうに目を逸らしつつ口を開いた。
「俺は普通に受かってるんだよ。こいつらは俺より強いが、言っちゃ悪いが家柄は良くない。……シグラトは結構人と話す分、恨みも買ってそうだしな」
「こいつは?」
「お前と仲いいから巻き添え」
「俺のせいかよ!」
「いや、知らねぇよ。多分そうなんじゃないのか?」
先輩たちは深刻そうではあるのだが、やり取りはいつもと変わらない。
なんにしたって気にくわない話だし、何とかならないものかと思う。
シグラト先輩も、ジャイル先輩も、騎士団に受かったことを嬉しそうに話していたのだ。昔からの憧れで、そのために剣を握り続けてきたって話だった。
かなり不愉快な話だ。
とはいえこれ、俺にできることってあるのか?
騎士団に伝手があるわけでもねぇし……。
レーガン先生にこんなこと本当によくあるのかだけでも聞いてみようかな。
「とにかく、結果を待つしかねぇんだよ。ルーサー、お前にできることは特にないから、妙なことを考えずに黙ってあいつらの世話でもしとけ」
「……まぁ、そうですね」
振り返って、さて、どうするかと考える。
何かできることねぇかなぁ。
とりあえずイレインとレーガン先生に相談してみるとして……。
「ルーサー、あまり勝手なことをするなよ」
「……はい、もちろん」
振り返ってにっこり。
アウダス先輩は相変わらず仏頂面だ。
こちらに関しては全然信用されてなさそう。
「…………どうしても何かするときは教えろ」
「わかりました、よろしくお願いします」
いやぁ、案外誤魔化せないものだなぁ。
とりあえず今日の訓練が終わったら行動開始しよう。
走り込みを続けている派閥の生徒たちに交じる。
それにしてもこいつらも随分体力がついてきたよなぁ。
剣の振り方もいっちょ前になって来たし、卒業するころには結構強くなってるかもしれない。
そうなったら派閥として結構面白いことになったりしてね。





