サフサール君は今どうしてる?
しばらく楽しく家族サービスをした後は、王誕祭の本番がやってくる。
本番一日目、貴族たちとの油断のできない交流が始まる。
去年までは子供たち同士で遊んでいるばかりだったが、今年からは大人たちに交じってちゃんとしたパーティの方に参加しなければならない。
そうは言っても何かをしゃべる必要はなく、むしろ黙って親の立ち回りを学ぶためについて回る形だ。父上は俺を右に、母上がイレインを左につけるような形で、間に挟まれてのパーティ参加。
いくらしっかりしているとはいえ、社交界での俺たちはひよっこだ。
ま、喋らないでじっと押し黙ってるってのも中々しんどいけど。
さて、俺とイレインには一つこの王誕祭での目的がある。
それは、参加者の中にサフサール君を探すことだ。
王誕祭には毎年、近隣諸国の代表者がやってくる。
可能性としては非常に低いが、場合によってはウォーレン王に連れられてサフサール君も顔を出すのではないかと期待しているのだ。
父上たちが貴族たちと気の抜けないやり取りをしているのを聞きながら、落ち着きがないように見られない程度に視線を動かしてサフサール君の姿を探す。俺はまだまだ背が低く、隙間から覗くように探すしかないのがじれったくて仕方がなかった。
日がな一日俺たちはあちこちに目を配ってみたが、どうもそれらしい影は見当たらない。ウォーレン王らしき姿も見つけられなかったので、まだやってきていない可能性もある。
さて、俺たちと同じくらいの貴族の子供たちは、一日中黙って立っているだけなど、なかなか耐えられるものではないらしい。しっかりと教育されていたとしても所詮は十三歳だ。
はじめのうちは元気に背筋を伸ばしていたが、終わりの頃にはすっかり疲れたり飽きたりして、年相応の雰囲気を醸し出していた。
いや、俺たちも疲れたけどね。
俺もイレインも、父上たちに恥をかかせたくないという一心で最後までびしっと耐え抜いたつもりだ。
帰り際に母上が褒めてくれたので、多分うまくできていたのだと思う。
さて、家に帰って休む前に、俺とイレインは二人きりになるのを待って報告を行う。
ありがたいことにセラーズ家の使用人たちは、俺とイレインが仲良しこよしであることを嬉しく思っているようで、寝る前には二人きりの時間を作ってくれる。
毎度微笑ましい視線を向けられるのは正直不本意だが、俺たちにとっては貴重な二人きりの時間だ。
二人きり二人きりって思うとなんか気分悪いな。
ドアがぱたんと閉まるのを確認して、俺とイレインは同時に「どうだった?」と声を発する。そうして互いに見つけられなかったことを悟った。
もしサフサール君を見つけていれば、相手に聞いたりしないはずだ。
「ま、連れてこねぇよな……」
「そもそもウォーレン家の人間自体がいなかった気がする」
「だよな、俺もそんな気がしてた」
「ま、最終日に期待だな」
初日よりも最終日の方がパーティ会場は賑やかだ。
もしかしたら遅れて来る可能性も考えての発言に頷く。
「……元気にしてるといいよな」
「……してるだろ、手元にいる唯一の後継者だぞ」
イレインの返答は願いが込められているようにも聞こえた。
俺たちは一緒にいながら攫われてしまったサフサール君のことを、あの日以来ずっと気にしている。特にイレインは一緒にいたのに気づけなかったことを、表には出さないけれど随分と気に病んでいるような気がした。
俺は俺で、サフサール君を連れださなければよかったって後悔してんだけどさ。
何度思い出したって嫌な気持ちになる。
「今年に限らずこれからは毎年探そう。せめて元気な姿を確認したい」
「サフサール君は唯一の後継者だろ? 流石にいつか社交の場へ連れ出さなければいけなくなるんじゃねぇかな。……まぁ、まず俺たちが他国のパーティに招待されなきゃならねぇけど」
そうなると随分と先の話になるよなぁ。
やっぱり王誕祭に来てくれんのが一番助かるんだけど。
「他国とのつながりか。……ウォーレン王国とのつながりを作るのが一番手っ取り早いんだけどな。私から手紙を送っても返事はなしだ。あの親はいったい何を考えているんだろうな」
「まじでわかんねぇよなぁ……」
ウォーレン王はもともと、サフサール君を差し置いてイレインを後継者にしたいと言っていたくらいだ。普通に考えて、なしのつぶては意味が分からない。
父上のことを究極的に信頼しているともとれるし、それならばなぜ裏切ったのかとも問い詰めたくなる。
とにかくあの情の薄そうな顔を思い出す度、俺は嫌な気持ちになる。
まぁ、イレインもどちらかと言えばそっち系の顔立ちしてるけど、これに関してはもう見慣れた。
「とにかく最終日だ。最終日に見かけたらどう連絡を取る?」
俺たちはもし最終日にサフサール君を見かけた時に、どのようにコンタクトをとるかの相談をする。普段はお互いにあまり思い出さないようにしているから、久しぶりにサフサール君の話をするのは少しだけ楽しかった。
結局、今年の王誕祭ではサフサール君を見つけることはできなかったけど、俺たちは再会を諦めるつもりは毛頭なかった。
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