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たぶん悪役貴族の俺が、天寿をまっとうするためにできること  作者: 嶋野夕陽
面倒ごとがやってきそうかも、多分ね

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見世物

 ゾーイ様は他の客の顔が引きつるまで、見事に勝った。

 最後まで粘っていたきざな男が、ついに額にたらりと冷や汗をたらしたところでゾーイ様は尋ねる。


「一つ聞きたいことがあるんだけどね。有益な情報があれば、代金としてチップの半分をお返しするよ」

「……な、なにかな。まぁ、失ったチップが惜しいわけではないが」


 惜しいだろ、絶対。

 途中でチップ交換しに行ったじゃんお前。

 ゾーイ様に負けるのが悔しくて、絶対今日突っ込んじゃいけないお金まで突っ込んだだろ。


「長身でひょろっとしたメガネをかけた男性、ここで見なかったかな? 数字に非常に強い。賭け事も弱くないはずだ」

「それなら、知ってるとも。そんな情報でいいのかい?」

「うん、私は知らないからね」

「その人ならばステージの前で待っていればそのうちに現れるはずだよ」


 ゾーイ様は数秒だけじっと男の目を見つめて「そう、ありがとう」と言ってチップを半分返した。その男から得たものだけではなく、積んである山から半分だ。

 男がかけた額よりも多い。


「これは、返してもらいすぎだ」

「最初からチップの半分、と言ったつもりだよ。その代わりにその男が姿を現すまで付き合ってもらえると嬉しいのだけれど」

「……もちろんだとも。本当は私が大勝して同じようにして君をデートに誘うつもりだったのだけどね」

「気づいていたよ。でも君の負けだ。デートはお預けだね」

「……負けた上に一緒にステージを見られるのならば役得か」


 なんだこのやり取り。

 めっちゃ大人の世界じゃん。

 俺、こういうの見てるとむずむずしてくるんだよなぁ。


「なぁ、イレイン、すっげぇ大人っぽいな……」

「……そうか?」


 イレインにこっそりと話しかけると、不思議そうな顔で首を傾げられる。

 あ、こいつ最近大人しくしてるから、そっち側の人間だったことすっかり忘れてた。

 クルーブの方を見上げてみると、こっちは眉間にしわを寄せている。

 あ、こっちだったわ、俺の仲間。

 女の人に良く声かけてるけど、案外ミーシャとはスマートなデートとかできてないんじゃないかって気がしてきた。仲良くしような、クルーブ。


「ところで先ほどからあなたの後ろで控えている子たちは……? そっちの人は護衛なのだろうけれど」


 いかにも護衛っぽいノクトゥラさんは除き、クルーブもまとめて子ども扱いされたようだ。

 多分年齢はきざ男君とそう変わらないはずだけど、童顔なので仕方ない。


「ん、こっちも私の護衛だね。なにせ初めてくるところだから」


 聞いてくれるなと言う雰囲気を出しながらのお返事。

 きざな男も金を持っているだけあって空気を読むのが上手なのだろう。

 肩をすくめてそれ以上の質問はしなかった。


 ステージの前に並べられた椅子にずらりと座って待っていると。

 ちらほらと人が集まってくる。

 

「このステージではね、日に五度、先ほどのカードゲームが一対一で行われるんだ。チップは十枚。負けたほうが勝った方に、金色のチップを一枚渡す」

「ほう、それで観客がどちらが勝つかかける形かな?」

「御明察」


 あー、人が馬の代わりの賭け勝負って感じか。

 金色のチップはこの賭場における最も高額なチップだ。

 さっきこのきざだけど金持ちそうな男はゾーイ様に金色チップを三枚取られて冷や汗を流していた。

 ……なんでそんなのにマーヴィンさんは参加してるんだ?


「このステージに立つ人は皆、外で借金のある者や、ここで派手に破産した者たちでね。最初に金色のチップ三枚分の借金を背負い、自分の借金分を更に取り返せた者のみ解放される仕組みになっている」

「チップを全てなくせば?」

「さぁ? 失くしたものを再び見たことはないね」

「なるほどね」


 ゾーイ様は平然と納得したようだけれど、割とえげつないシステムじゃないのか?

 チップがなくなったらどうなるんだよ。

 殺しても金にはならないだろうから、どこかでひたすらに働かせられるのかもしれないけど、碌な人生は待っていなさそうだ。

 というか、今の話だとマーヴィンさん破産してるじゃん。

 何してんだよ、マジで。


「君の探し人はね、勝ったり負けたりしてるよ。勝っても負けても他の人とは違って平然としてるから、この賭場じゃ結構有名だね」

「ふむ、負けることもあるのか」

「それはそうだよ」


 やがて賭場のお姉さんたちがステージに立って、今からステージに立つ二人のことを紹介する。

 一人はがけっぷちの男。

 あと一度負ければチップがなくなってしまうらしい。

 もう一人は不思議な男。

 勝ったり負けたりを繰り返し、心をすり減らすこの勝負に、毎回のように参加を希望する男、だそうだ。

 絶対後者がマーヴィンさんだろ。

 変人の匂いがプンプンする。


 それからここの従業員がトレーをもって回ってきて、それぞれがどちらの勝ちに賭けるかを聞いていく。


「マーヴィンの直近の勝ち負けはわかるかな?」

「いや、そこまで真剣に見てないからわからないな」

「そうか……、では、私は見学だけだ。君たちは自由に賭けてもいいよ?」


 ゾーイ様が俺たちに声をかけてくる。

 ふーん、じゃあ一応かけとくか。


「マーヴィンさんって賭け事強いんですか?」

「多分ね」

「じゃ、一枚だけマーヴィンさんに賭けます。二人はどうします?」

「……なら私は相手方に一枚」

「僕は不参加で」


 クルーブは賭け事には懲りたらしい。

 もともとあまり好きじゃなさそうだもんな。

 意外と堅実な男、クルーブ。


「それだと参加料もあるからマイナスになってしまうな。そうだな……、最近彼は勝っている印象が強いかい? それとも負けている印象が強い?」

「どちらかと言うと勝っている印象が強いね」

「では私は相手方に一枚」


 逆張りか。

 まぁ、でも、流石にマーヴィンさんもそんなわけのわからない賭け事にいつまでも付き合いたくないし、頑張ってくれるんじゃないかな。

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― 新着の感想 ―
これマーヴィンさん本当は毎回勝てるけど、居座るためにわざと負けて調整してねぇか?w
居場所は分かった。 さて・・・
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