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たぶん悪役貴族の俺が、天寿をまっとうするためにできること  作者: 嶋野夕陽
面倒ごとがやってきそうかも、多分ね

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怪しい案内人

 チップの山の前で悩んでいると、頭をそり上げた強面の警備員のおいちゃんが袋片手にやってきて、ざらざらとチップを袋に入れてくれる。

 めっちゃ気が利くじゃん。

 見た目はめっちゃ怖いけど。


 イレインと一緒に頭を下げて礼を言うと、傷だらけの顔面を歪ませて軽く手を振ってくれた。たぶん笑っているのだと思うけれど、薄目が開いてる上に見えてる部分が白目だけなので夢に出そうな恐ろしい笑顔だった。

 どれだけ笑い慣れてないとあんな顔になるんだよ。


「悪いねー」


 軽い調子でクルーブが礼を言って、肩をポンと叩こうとすると、その警備員は急に機敏な動きで手を振り払い、三白眼でギロリとクルーブを睨みつける。


「は?」

「気安いんじゃボケ。いたいけな子供をこんなとこに連れてくんじゃねぇよ、バラしちまうぞ」


 こわ……。

 多分こっちが本性だろ、この人。

 暴言を吐いた上に屋内の床に唾まで吐き捨てたけど。


 どちらかと言うと人からちやほやされるタイプのクルーブは、あまりの驚きにぽかんとしてしまっている。間抜け面で面白い。


「早く来ないと置いていってしまうよ」


 戻ってきてひょこりと顔を出すゾーイ様。


「クルーブさん、行きましょう」

「坊ちゃんと嬢ちゃんは気を付けるんだよぉ」

「ありがとうございます」


 怖いから一応ちゃんと礼を言っておこう。

 変な人には挨拶をして威嚇するのが大事って昔聞いたことがある。

 イレインは完全に気後れしてるっぽい。

 怖いよねぇ、近づかないように気をつけようねぇ。


「いつまで見とるんじゃ気色悪い。お前はさっさといね」


 また一瞬恐ろしい笑顔になった警備員は、直後クルーブに向けてまた暴言を吐く。

 なんでそんなにクルーブのこと嫌いなの?


 ぽかんとしているクルーブの背中を押して歩きだすと、途中で急に我に返ったクルーブが「あいつ殺す」とぼそりと呟いた。


「そうですね、後で殺しましょうね。今は忙しいので」

「八割殺す。顔覚えたし」

「誰だって一目見れば忘れないと思います」

「なに、僕が何の悪いことしたの? なんであんなひどいこと言われなきゃいけないの?」

「いや、知りませんけど……」


 おかんむりのクルーブを連れてゾーイ様を見失わないようについていく。

 今日のクルーブは災難だなぁ。

 俺に内緒でルドックス先生のお弟子さんとかと会ってたからバチが当たったんじゃなかろうか。


 外へ出て角を二つばかり折れる。

 途中で同じく警備員らしき人が仁王立ちしている場所があったが、支配人らしいお姉さんと一緒なのでこちらもスルー。

 普通ならばごちゃごちゃと物が落ちていそうな路地裏に入っていく。

 物は多いのだがやけにキッチリと整備されており、酔っ払いの一人も眠っていない。


 その中程までに進んだところで、女性が左手側にあるドアを開けた。

 殺風景なそれほど広くない個室。

 一応応接室のような形で作られている。

 出入口は一か所しかないので、外を固められてしまえば逃げることは難しいだろう。


 こんな細い路地に入ってきた時点で今更だけど。


「さぁ、おかけください」

「うん、じゃあ失礼するよ」


 堂々と真ん中に座ったゾーイ様。

 俺たちは一応その後ろにずらりと並んで立っておく。


「君たちは座らないの?」

「このままで大丈夫です。ありがとうございます」


 俺とイレインに向けた言葉を丁重にお断りする。

 こんなところでのんびりくつろげるほど神経が太くないんだよな、俺たちは。

 座って初動が遅れるくらいなら、まだ向こうのマッチョ警備員さんたちと正面から見つめ合ってる方がましだ。


「さて、急にお呼びたてして申し訳ございません」

「うん、そうだね。何の用かな?」

「……随分と賭け事がお上手なようですね。わざと話に上がるように、派手に動いてらしたようですので、噂話もご存じなのではないかとお声掛けした次第です」

「うんうん、そうだね」


 そうだねじゃないよ。

 何の噂話の話だ。

 案内してくれたお姉さんも、ゾーイ様が適当な返事しかしないからちょっと困ってるし。


「……もっと大きな額を動かしたいと思ったことはございませんか?」


 ほら、探り入れられちゃったじゃん。


「そのために待っていた。君の言う通りだね。案内してもらえるかな、もっと稼げる場所に」


 我が意を得たりとばかりにお姉さんがにこりと笑う。


「わが目が確かで安心いたしました。ただ一つだけお約束していただきたいことがございます。中で起こったことは全て内密に。お話しが漏れればそれなりの対応をせざるをえませんので、それだけはご了承ください」


 そんな口約束でいいのかと思ってしまうけれど、逆に言えばそれだけ巨大な黒幕が控えているか、組織としての実力に自信があるのだろう。

 俺たちは態々やってきたりしたけれど、そもそも貴族なんかはこんな下品な場所を訪れたりしないはずだ。バックにいるのは豪商たちかな?

 ゾーイ様もその辺のお金持ちのお嬢様くらいに思われてるのかも。


「分かったよ。さ、早く案内してもらえないかな」


 まぁそもそも俺たちの目的は遊ぶことでも金を稼ぐことでもない。

 さっさとマーヴィンさんを見つけ出して、あまり遅くなる前におうちに帰らないとな。

 俺たちまだまだ子供だから、夜更かしすると成長の妨げになるしさ。

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― 新着の感想 ―
子供には優しい警備員さんおもろい
おやおやまさかのインビテーションでしたか
賭博場側の人達はルーサーとイレインのことを「御貴族のお子様の社会科見学」くらいに思っているんだろうな。 「将来のカモ」とか思っているのならいきなり裏へは連れて行かないだろうし。
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