賭け事の才能
「全然それらしい人いませんね」
暫く賭場の中をうろついていたが、それっぽい人は全然見当たらない。
そもそも俺はマーヴィンさんの顔しらないしなー。
「さっきのゾーイ様の言い方からして、おそらくこの賭場の中にはいませんよ」
「まずは資金調達、とか言ってましたね。そういうことですか?」
「分かりにくい言い方する人だよねぇ。僕割とあの人苦手だよ」
何となく元気がないクルーブ。
変なやつには変なやつをぶつけると有効らしい。
ちなみに俺も、ゾーイ様と合流してから動き難くて仕方ないけど、これは多分普通に変な奴に圧倒されてるだけだ。
そういうことならと、あっち行ったりこっち行ってギャンブルのルールを確認してみる。
勝てそうな奴があったらクルーブにお金をもらって一勝負しようかと思ったけど、
何を見ても今一つなにをしているかわからない。おそらくあのカードの絵をそろえてるんだなとか、ルーレットの数字とか色とかをあててるんだなってのが分かるくらいだ。
もともとギャンブルとは無縁の生活をしてきたし、こちらの世界に来てからもずっとまともに貴族教育を受けてきたので、こんな場所で遊んだことはなかった。
結局クルーブがちょこちょこ遊んでいるのを子供二人でジーッと眺めるという、社会見学のような状況になってしまっている。大人たちが時折奇異なものを見るような視線を向けてきたが、絡んでこないのは、あちらこちらにいかつい警備員が立っているからだろう。
ちなみにお金をチップに変えたクルーブは小一時間遊んで、勝つでも負けるでもない普通の結果だった。
多分ギャンブルの才能はないのだろう。
「地味ですね」
「じゃ、ルーサー君がやってみれば?」
退屈になってきて呟くと、クルーブがむっとした表情で言い返してくる。
学園の教師が生徒にそんなこと言っていいのか?
連れてきてる時点でマイナスだけど。
「良いんですか?」
「良いよ。イレインちゃんもどうぞ。掛け金一緒のスタートで、五回勝負。誰が一番お金を増やすかで勝負ね」
クルーブがやっていたのはルーレット。
色とか列とかで賭ける場所が決まってるみたいだ。
よく分からないけど、とりあえず赤と黒の二択のところに適当にチップを置いておいた。意外と自分でやってみるとわくわくするものだ。
ギャンブル。意外とはまっちゃうかもしれないぞ。
「二度とやりません」
「僕ももうやらない。面白くない」
「それがいいと思います」
五回勝負の四回目で素寒貧になった俺。
クルーブは順調にお金を減らして、何とか最後に取り戻した。
澄ました顔をして倍くらいに増やしたのはイレインである。
全体でみるとトントン。負けてないだけまだましか。
あまり元気のないまま、ゾーイ様を探してうろついていると、何やら人だかりができている場所を見つけた。
俺とイレインが顔を見合わせて嫌な予感を共有する。
とりあえず肌面積が広いお姉さんの方を見ているクルーブの背中を叩き、「あっちへ行きましょう」と提案。
そもそも昼間の会合で疲れているのか、ギャンブルにあまり興味がないのか、クルーブは今一つやる気がなさそうだ。巻き込むのならばともかく、他人のペースで動かなければならないのも嫌なのかもしれない。
人ごみをかき分けていくと、チップを山のように積み上げたゾーイ様と、その後ろに凛と立っているノクトゥラさん。正面には額にたらりと冷や汗を流す胴元の男性の姿があった。
「あの姉ちゃん、大きく張った時は絶対勝ってるぜ」
「勝率自体はめちゃくちゃ高いわけじゃねぇのにな」
「なんか最初の方、何度か胴元に声をかけてたんだよな」
ざわつく声を聞くと、ゾーイ様がどのように勝ってきたのかがわかる。
いやー、結構えげつない勝ち方してるっぽいなぁ。
ざわざわとしていると、奥の方から警備員を引き連れた細めの女性がにっこりと微笑みながらやってくる。
たぶんここの関係者なのだろう。
見学客が道をあけるのに乗じて、俺たちはゾーイ様の横まで移動する。
「お客様、少々よろしいでしょうか?」
「ん、もちろんよろしいよ。まずはこのチップ、お金に変えてくれればね」
「もちろん変えさせていただきます。しかしその前に、お客様にとってより良い話がございます。場所を変えさせていただいても?」
「うんうん、いいよ」
「では」
連れてきた警備員にチップを回収されそうになると、ゾーイ様は手を伸ばしてそれを遮る。
「うん、これはお付きの子たちに運んでもらうので、君たちは手を触れないように」
「あ?」
屈強な警備員がゾーイ様に指示を出されて額に青筋を立てる。
これ多分お付きの子って、ノクトゥラさんじゃなくて俺たちのことだろ。
まぁ、それで今後の動きに同行できるならそれでいいんだけど。
「そう警戒されると悲しいですね」
「いや? 折角連れてきたのだからお仕事をさせてあげなければと思ってね。そちらの申し出に応じているのだから、こちらの気持ちも汲んでほしいな」
知的な女性と怪しげな女性の、言葉の裏に色々なものを含んだやり取り。
なんか怖いので、男の子は大抵こんなやり取りが得意ではない。
クルーブも俺も、ついでにたぶんイレインも、死んだような目になって経過を見守っていた。
「……ま、良いでしょう。どうぞチップをもってこちらへ」
しばし黙って見つめ合っていた二人だが、先に折れたのは相手方だった。
……このチップの山、マジで俺たちが持ってくの?
8月末に本作2巻が発売されます。
表紙ももう見られるようになってますので、是非アマゾンなどでご覧くださいませませ!
内容精査して4-5万字ほど加筆もしてますので、ご購入いただけますとめちゃくちゃ嬉しいです……!





