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たぶん悪役貴族の俺が、天寿をまっとうするためにできること  作者: 嶋野夕陽
面倒ごとがやってきそうかも、多分ね
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ゾーイ様のお試し

「賭博場に入れるのは日が落ちる頃からだろう。ふむ、まだ時間があるようだね」


 ゾーイ様が空を見上げて思案する。

 今からならまだしも、日が暮れてからの調査となると、一度家に帰って母上に知らせておく必要がある。


「僕たちは家へ戻って夜の外出許可を」

「それがいいだろうね。じゃ、行こうか」


 ゾーイ様もまだどこかに用事があるのか?


「待ち合わせ場所は、先ほどであった広場でも?」

「うん? 待ち合わせ?」

「もしかして、一緒にいらっしゃるおつもりでしたか?」

「そうだよ」


 遠慮しろよ。

 国全体から見ればセラーズ家はかなり面倒な状況に陥っている。

 そんな場所に訪ねてくるなんて、王の血をひくものとして許されるのか?


「……よろしいのですか?」

「何がだい? 私が行くと何か危害でも加えられるのかな?」


 嫌な言い方に少しばかり腹が立った。

 父上も母上もお優しい方だし、プロネウス王国に忠誠を誓っている。

 政局に疎いのだとしても挑発が過ぎる。


「そんなことはありえません」


 俺が答えるとゾーイ様が口元に手を当てて小さく笑った。

 何がおかしいんだ。


「いや、なに。セラーズ家は立派な嫡男を持ったのだなと思っただけさ。君ほどの年の子が、何のためらいもなく誇りのために憤れるのだから、セラーズは私が知っているセラーズ家のままであるようだ。イレインを預かっている家がどんな場所か試したのだよ。二人の仲の良さを見ればなんとなくわかったけれど、一応な。失礼を謝罪しよう、悪かった」


 あー、俺ちょっとこういう頭良さげな人苦手かもしれない。

 研究とかばっかりやってる変な人だと思ってたけど、王族だけあってなかなか曲者だぞ。


「試されているとは知らず、僕の方こそ失礼いたしました。では、また後程。待ち合わせの場所は……」


 とにかく、俺の内心を引きずり出すための交渉だったってわけだ。


「ついていくのは本気だよ」

「……そうですか」


 勢いでうやむやにできなかった。

 やっぱり本気でついてくる気だぞ、この人。


「君の家へ一度行ってしまえば、イレインも『王立研究所』へ来ることを遠慮しなくなるだろう?」


 イレインに対する執着も結構ありそうだ。

 良かったな、知的な美女から大人気だぞ。

 イレインの横顔を見ると、ぎりぎり嫌そうな表情を隠せていなかった。

 当然その気持ちはゾーイ様にも伝わっているだろうけれど、平気な顔をして悠々と返答を待っている。


「……私も学園で過ごしておりますので、頻繁にとはいきませんが」

「ふむ。寮に入っているのかな?」

「……はい」

「では、休みの日は来れるね。『王立研究所』は学園の裏手だ。裏門を通れるように兵士には話を通しておこう」


 珍しくイレインが墓穴を掘った形だな。

 というか、もう逃れられないとわかって観念したのかもしれない。

 へー、『王立研究所』って学園の裏にあるのか。


「学園内であっても人気のない場所の一人歩きは避けたいので、ルーサーも一緒で良ければ」


 あ、こいつ、俺を巻き込みやがった!


「こちらから迎えを……いや、ふむ。そうだな、ではルーサーも歓迎しよう。特別だぞ」

「……ありがとうございます」


 全然嬉しくない。

 俺は頭いい系の人間じゃないから、小難しい話ばかりする人の中にいると叫び出したくなるんだ。

 もし行ったとしても外で素振りでもして待ってることにしよう。

 ああ、あと肝心なことを聞いておかなきゃいけないんだった。


「すみません、ゾーイ様。あちらの、少し距離を置いてこちらを窺っていらっしゃる方は、ゾーイ様の護衛で間違いありませんか?」

「よくわかったね」

「遠くから観察されているとそわそわするので、普通についてくるよう言ってもらえませんか?」


 気づかないわけないだろうが。隠密にはマジでむいてないぞ、あの人。

 先ほど暴れた男の側頭部を、棒でスコンとついて気絶させた女性だ。

 肌は濃い茶色をしており、白っぽい髪を編みこんだ上、男物の正装をしている。


「ノクトゥラ、今からセラーズ家へ向かうから一緒に行こう」


 ノクトゥラさんはこくりと頷くと、長い足で素早く近寄ってきて、ゾーイ様の右後ろにぴたりとついた。

 なんだか達人の気配がすごいんだよなぁ、この人。

 未だ俺は信用されていないのか、イレインに対してはない警戒心を向けられているのを感じる。そんなピリピリしなくたって俺はゾーイ様に何も危害を加えたりしないって。


「それでは、ご案内いたします」


 結局距離を縮めたところで、背中に緊張を覚えながら案内することになってしまった。色々と訓練を積んだおかげで気配に敏感になったけど、こんなデメリットもあるんだなぁ……。



 家へ着いたらまず、迎えに出てくれたメイドさんの一人を捕まえて、ゾーイ様の来訪を母上に伝えてもらう。

 それからいつもきれいに掃除されている庭のテーブルセットに腰かけていただき、母上がやってくるのを待つことにした。


 父上のお出かけ中は母上が屋敷の主だからなぁ。

 俺の友達が遊びに来たわけじゃないんだから、一応手順はちゃんと踏まないと。


 母上は随分と驚いた様子であったけれど、すぐに歓待の準備をし、許可をとってゾーイ様と同じ席に座る。

 俺たちはゾーイ様に敬意をもって接するけれど、一応公的に爵位を持ったりしているわけではないので、割と気軽にお茶会ができるみたいだ。その辺の作法も、俺の場合はうろ覚えだからなぁ。


 俺たちはゾーイ様の相手を一時的に母上に任せて、一時退散。

 理由としては、今日の分の勉強をまだ終わらせてないので、という子供らしいものにしておいた。


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