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たぶん悪役貴族の俺が、天寿をまっとうするためにできること  作者: 嶋野夕陽
面倒ごとがやってきそうかも、多分ね
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探偵ごっこ

 俺は今日、久々に街へ出ている。

 屋敷へ帰ってきてからは、エヴァやルークと散々遊び、レーガン先生に治癒魔法をかけ、父上やクルーブと訓練をして、モニカちゃんとは適切な距離を保って挨拶を交し、クレア先生とは往年のルドックス先生との話をするという、実に充実しまくりの毎日を過ごしている。

 ではなぜ街にでたか。

 極めて重要な用事があるからである。


「おい、なんで私まで付き合わなきゃいけないんだ」

「瞬時に考察を任せるために決まってんだろ。肉体労働は俺、頭脳労働はお前」

「お前の首から上にのってるものって、馬鹿なこと喋るためにしか使えねぇの?」

「静かにしろよ、ばれるだろ」


 振り返って注意をすると、イレインはいかにも不満ですと言う表情をして俺を睨んでいた。

 まったく、こいつ任務の重要性をわかっていないな。

 そう、今日の俺たちは町人に扮して、街を歩くクルーブをつけているのだ。

 

 こいつ最近なんかやたらと一人で街へ出ていくのだ。

 時折女性の香水のにおいまでつけて帰ってくるものだからけしからん。

 ミーシャがいるというのに外で遊び歩くなんて俺は絶対に許さない。


 まぁ、俺も鬼ではないから現場を押さえて注意をして家に連れて帰るつもりでいるんだけど。一度の過ちで全てを決めるのはちょっとよくないからね、うん。


「なんでお前って家族とミーシャさんのことになるとちょっとIQ下がるんだよ」

「下がってないし。じゃあお前、クルーブが何しに出かけてるかわかるのかよ?」

「あのな、クルーブさんにも付き合いとか仕事とかあるだろ」

「……ま、そうだろうな」


 散々内心で疑っておいてなんだけど、俺もクルーブが浮気してるなんてことは小指の先くらいにしか思ってない。ルドックス先生の杖を持ち出したり、熱心に先生の遺産である本を読んだりしてるから、何か魔法の仕事があるんじゃないかと思ってる。

 忙しいなら手伝おうかと声をかけたのに『折角家にいるんだから、家族との時間を大切にしなよぉ』と流されてしまった。

 ありがたい話だけど、あまり忙しくてミーシャと出かける時間が減っているのはちょっと気に食わない。ミーシャもクルーブも家族みたいなもんなんだから、俺に手伝えることがあるなら、手を貸して時間を作ってやりたかった。

 なんだかんだ言って、ミーシャってもう二十代半ばなのだ。

 元の世界だったらまだまだ若いけれど、この世界ではこのくらいの年の子は大体結婚をして子供を作っている。クレア先生だって七歳のモニカちゃんって子供がいるけど、まだ三十になったばかりだ。

 ミーシャは俺が一人前になるまではと言ってくれてるけど、俺としては早くクルーブと一緒になってもらいたいと願っている。ミーシャのことが大好きだからこそ、俺のことばかり気にして結婚を遅らせてほしくない。


 そんなわけで、クルーブにはミーシャと仲良くしてほしいのである。


「じゃ、なんだよ」

「え? お前頭がいいんだからわかるだろ」


 俺がしゃべるのをさぼろうとすると、普通にグーで肩を殴られた。

 急に暴力を振るうのやめてほしい。


「いや、クルーブが忙しそうなのに手伝わせてくれないから、無理やり現場に乗り込んで手伝ってやろうかと思って。最近一人で出かけてばかりで、ミーシャとデート出来てないじゃん」

「私必要なくないか?」

「お前も、籠ってばかりだと窮屈だろ。たまには街に出て羽伸ばそうぜ。クルーブの件が終わったら、なんだっけ、あのボードゲームやってるとこでも探して遊んでっていいから」


 クルーブが遠くで角を曲がってしまったので追うために走りだすと、ため息が一つ聞こえてすぐ後ろにイレインがついてきた。

 父上も母上も優しいし、妹たちも懐いてるけど、それでもイレインは普段から演技をしている部分が大きい。不安定な立場もあるし、たまにはこんな日もいいだろってね。


 ちなみに俺はこの年になってようやく好き勝手街に出てもいいようになった。

 学園に入る前に、クルーブと一緒にダンジョンのある街で暮らし、そこで何もトラブルを起こさなかったことから両親の信頼を得ることができたのだ。

 本当は色々問題が起きてたの秘密にしてただけだけど。

 まぁ、報告しなきゃわからないからね。

 街であった孤児の奴ら元気にしてるかな。


 色々と考えながらも、プラプラと街を歩くクルーブの後を追いかける。

 あいつ一人で歩いてる時もあっちにフラフラこっちにフラフラしてるんだなぁ。

 女の人に声をかけられてもへらへらと躱しているのは偉いけど。


 そんなこんなで人の少ない通りにやってくると、クルーブは手を上げて誰かに挨拶をした。ばれないためにかなり距離をとっているからよく見えないけれど、どうやら合流した相手は女性だ。

 並んで仲良さげに歩く二人は、やがて古びた大きな屋敷の中へ消えていく。

 その屋敷の庭は整備されていないけれど、玄関までの道だけは草がかられていた。


「……イレイン、まさかだよな?」

「いや、違うだろ、多分」


 女性と二人きりで古びた屋敷へ入っていくクルーブ。

 イレインもちょっと不安になってるけど、これ、……信じていいんだよな?

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