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たぶん悪役貴族の俺が、天寿をまっとうするためにできること  作者: 嶋野夕陽
面倒ごとがやってきそうかも、多分ね
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特別な友人

 平民男子寮にアルフレッドくんの呼び出しを頼んだところ、裏で素振りをしていると教えられた。ぐるりと建物を回り込んでいくと、日陰の涼しい場所で、アルフレッドくんが汗を流しているのを発見。


 型はあまり整ってないけれど、剣筋はちゃんと鋭いんだよなぁ。剣の先が描く放物線のずれの少なさは、アルフレッドくんが普段からどれだけ素振りに時間を割いているかを示すものだ。

 最初からこれ見てりゃ、こいつ頑張り屋なんだなぁって思えたかもしれないけど、出会いが悪かったよな。

 先輩相手に喧嘩売ってる勇者候補だもん。

 どうしたってお近づきになんてなりたくなかった。


 足を止めてしばらく眺めていると、イレインが拳で肩をどついてくる。顎でクイっと『さっさといけ』と指示を出す。

 人を顎で使うな、王女様め。

 付き合わせておいて黙って突っ立ってる俺も悪かったけど。

 イレインにしてみれば、平民の男子寮付近の、しかも人目につかない辺りをうろうろしてるなんて、悪い噂の種になりかねない。さっさと場所を移すか用事を終えてしまいたいのだろう。

 近寄っていくと気づいたアルフレッドくんはすぐに素振りをやめて、駆け寄ってくる。


「どうだった!?」


 どうどう、落ち着きたまえよ。


「レーガン先生は学校を辞めるそうです」

「……そうか、ダメだったか」


 うん、ダメだったかっていうか、最初からそれは諦めてたけどね、俺は。あれだけのことして残留は流石に無理よ。


「でも生活の保証はしてきました。足もできる限り僕が治します。悪いようにはしないから安心してください」

「……そっか、ありがとな」

「いえ、ご希望に添えず……」

「やれるだけやってくれたんだろ」


 いや、学校に残らせてくださいとはお願いしてないです、すいません。

 でも、まぁ……。俺なりにレーガン先生が再起できるための環境を整えて見たつもりだ。マッチポンプみたいなところはあっても、アルフレッド君を守るために命を張ったレーガン先生に俺は敬意を持っている。

 ヘラヘラと喧嘩の間に入り込んで間抜けにも命を落とした俺とは大違いだ。

 イレインの方へ視線を向けると、スーッとそらされる。おい、お前も作戦一緒に考えたんだから一蓮托生だろ。

 せめて気持ちだけでも俺に寄り添えよ。


「……そうですね」

「お前がやってダメならしょうがねぇよ」


 なんだその絶大な信頼は。

 俺はスーパーマンじゃないぞ。ちょっと自分の利益も考えて身内に引き込んだ悪い奴だぞ。

 そんなイノセントな目で俺を見るな。


「随分と評価してくれるんですね」

「だってお前すごいじゃん」

「……いや、別にそんなことは」


 ものすごい罪悪感と、素直に褒められた恥ずかしさで感情が微妙な感じにシェイクされてる。

 酷い環境で育ったのに随分素直じゃねぇか。絶対亡くなった友人君もいい奴だっただろ。

 俺がぐちゃぐちゃの感情に整理をつけていると、急に隣からくぐもったような音が聞こえてきた。

 見るとイレインが済ました顔で、肩を揺らし、時折鼻からフスフスと息を漏らしている。

 こいつさては笑ってるな?

 俺が照れて困ってる顔見て笑ってるな、この野郎。


「そういや隣の誰だ?」

「……ああ、こちらは隣国の王女様です」


 わざと曖昧なことを言って黙ってやった。

 ちゃんとやれみたいな視線を向けてきているが知ったことか。

 俺のことを笑っておいて、全部人任せでいられると思うなよ。自己紹介くらい自分でするんだな。

 

「……イレインです」

「さっきからルーサーと目でやりとりして、仲良いんだな」


 互いにチラリと顔を見てから、言われたばかりの行動をしていたことに気づく。

 あー、癖になってるんだな、これ。

 どうしてミーシャはじめ家の人たちが、俺たちを仲良い仲良いと言ってくるのかがようやくわかった。

 そんなにしょっちゅう二人きりで喋ってたわけじゃないのにみんなが生暖かい目で俺たちを見てたのはこれが原因だったか。

 クルーブとかよくニヤニヤしてたし絶対にわかってて黙ってただろ。

 誰か一人くらい教えてくれてもいいじゃんか。


「まぁ、小さな頃から一緒にいますから」


 先に調子を取り戻したイレインが俺の代わりに答えた。

 まぁ、本当にそれだけだ。

 唯一同郷の友人。

 数少ない理解者。

 前世でもこれだけ一緒の時間を過ごした友人っていなかったし、よく考えてみれば、そりゃあ仲くらいいいに決まってる。


「いいな、羨ましい」


 アルフレッドくんは変な顔をしてポツリと言った。ああ、そうか、お前はきっと、俺にとってのイレインみたいな友人を殺しちまったんだもんな。

 そりゃあ必死にもなるし、がむしゃらにもなるか。


「なぁ、ルーサー」

「なんですか」

「レーガン先生の足が治ったら、稽古してもらえるかな」

「……できるようにします」

「ありがとう」


 それからほんの少しだけ、請われるがままにイレインと俺の昔話をした。

 アルフレッドくんは楽しそうに、でも寂しそうに、時折頷きながら静かにそれを聞いていた。

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アルフレッドくんがどんどん可愛くなってゆく〜!
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