『愛が揺れるお嬢さん妻』4◇お迎え
4
◇お迎え
翌日のお迎え時は午前中晴れていたのにお日様が顔を隠して
どんより曇り空だった。
眞奈は比奈ちゃんと砂場で遊んでいた。
「ママ、もう少し遊んでてもいーい?」
「いいよぉ~。比奈ちゃんちのママが迎えに来るまでね」
そう言って大林さんを待っていたけれど、1時間過ぎても
彼女は現れなかった。
「眞奈、お買い物して晩御飯の用意もしなきゃいけないから
ぼちぼち帰ろっか」
「はーい。じゃあ、比奈ちゃんばいばいっ」
「ばいばい」
ちょっと比奈ちゃん、寂しそうだ。
一度は眞奈と帰りかけたんだけど、なんか気になって比奈ちゃんに
訊いてみた。
-
「比奈ちゃん、ママいつもは早く迎えに来てるのかなぁ?」
比奈ちゃんは答えず、首を振った。
「眞奈、少しだけここで待ってて」
私は娘にそう言い残し、先生を探しに行った。
◇ ◇ ◇ ◇
「先生、私大林さんとは少し面識があるのですが、比奈ちゃんのお迎えは
いつも何時頃来られてるのでしょう?」
「あぁ、眞奈ちゃん比奈ちゃんと仲いいですものねぇ。
今も、しばらく一緒に遊んでて。
大林さんはフルタイムのお仕事をされているので大抵19時ギリギリまで
お預かりしてます。
それで有給取られてたりする日はお休みさせてますね。
お家でゆっくりされてるんだと思います」
「他にも19時まで残ってるお家の子はいるんでしょうか?」
「週に2、3回遅くなる子はいますけど、19時までっていうのはないので、
最後は比奈ちゃんひとりになってしまうんですよね。
でも私たちがいますので大丈夫ですよ」
「あぁ、そうですよね。
先生方がいらっしゃるのに込み入ったことを訊いて失礼しました。
あの、今日もお世話になりました。失礼します」
「さよなら。お疲れ様です」
-
私ったらバカ?
大林さんってれっきとした医師なんだよ。
16時のお迎えに来るってなると少なくても14~15時に
病院出ないとだめでしょ。
無理に決まってるじゃない。
でも、おばあちゃんとかおじいちゃんとかご主人とかが迎えに来る
っていうことも考えられないこともないけど。
先生の話からすると、そういう助っ人はいない……ってことよね。
よしっ、決めた。
明日は用事を早めに済ませて19時まで比奈ちゃんといよう。
-
そして翌日の時間外保育の時間になり、予想通り眞奈が比奈ちゃんと
遊ぶというので、買い物など済ませていた苺佳は大林が迎えに来るまで
比奈といようと、文庫本を手にちらちらと子供たちの様子を見ながら
時間をやり過ごした。
◇ ◇ ◇ ◇
「あっ、瑤ちゃんっ」と口にするや否や、比奈ちゃんは
大林さんの来る方へと駆け出した。
『やっぱり親子だね~、気にして待ってたんだ』
「こんにちは。お疲れ様です」
「あぁ、こんにちは。どうし……ですか?」
「比奈ねぇ、ずっと眞奈ちゃんと遊んでたんだよ」
「そっか、良かったな。じゃあ、帰ろっか、カバン取ってきな」
「はーい」
そう言いながら、彼女も比奈ちゃんのあとを付いて行った。
もうこれ以上話すこともなさそうだったので、私も眞奈を促して
そのまま帰ることにした。
あ~あ、なんか取りつく島もないって感じ。
こういう予感がしなくもなかったが、世間話でもいいのでもう少しは
会話があると思ってたんだけど……やっぱり大林は大林だった。
折角子供同士が仲いいんだから親も少しはね、って思う
私はおかしいのかな。
そんなふうに気落ちして帰ったのが週末で、大林の態度に気落ちして
しまった苺佳は翌週からはまた、眞奈が比奈と居残って遊びたいと言えば
遊ばせたけれど、大林とバッティングしないよう比奈のお迎えがありそな
時間の15分くらい前には眞奈を連れて帰るようにした。
-
月曜日から木曜日までやはり18時45分時点で大林が比奈を迎えに
来れることは一度もなかった。
比奈が寂しそうな顔をするので5分延長して18時50分まで
粘った日もあったのだが。
小さな子の寂しそうな顔、境遇など見たからには、知ってしまった
からには、とても耐えられない苺佳は大林にコテンパンにやられるかも
しれないことを覚悟してある提案を申し出ることにした。