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『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと -   作者: 設楽理沙


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23/25

『愛が揺れるお嬢さん妻』23◇心震える瞬間+◇大切な人

23


◇心震える瞬間


「え~と、私、トイレに行こうかな」


 そう言うと瑤ちゃんがベッドから抜け出して私の側に立った。


 私はなんとなくそう言って部屋履きに形の良い素足を入れた瑤ちゃんの

足元を見ていた。


 ン? 動くはずの足が動かない。

 私は視線を上に上げた。



「苺佳、辛かったな」


 そう言うと瑤ちゃんが私をやさしく包むようにして抱きしめてくれた。


 こんなに瑤ちゃんからやさしくされていいのかな?

フニャってなりそうだよ。


 悲しい時にやさしく癒してくれる人がいるって有難い~。


 私はお言葉に甘えて瑤ちゃんの背中に手と腕を回し数分間の尊い時間を

過ごした。


 あんまり長い時間瑤ちゃんを立たせておくのも忍びなく、本当はもう少し

寄り添っていたかったけれど瑤ちゃんを想う力で欲を振り捨てて、

瑤ちゃんが私から離れ易いように言葉を掛けた。


「瑤ちゃん、ありがと。病気に障るといけないからトイレに行ってきて」


「苺佳……トイレはまだ行かなくて済みそうだ」


「じゃあ、しばらくこのままでいいのかな?」


「うん」


「瑤ちゃん、慰めてくれてありがとね」


 私がそう言うと少し身体を離した瑤ちゃんがやさしい眼差しでじっと

私を見つめてきた。


 え~っと、どうしよう。

 ドキドキして自分の胸の鼓動がほんとに聞こえてくる。


          ◇ ◇ ◇ ◇



「ひとりになって不安だろうけど私が苺佳の支えになるから」

 -


 ものすごい殺し文句を聞かされ、舞い上がりそうになりつつ、

『ありがとう』と口を開きかけた私に瑤ちゃんの柔らかな唇が

私の口元にそっと触れた。


 えっ、えっ? これってキスだよね。


 落とされたキスの場所は唇じゃなくて口元で、唇を僅かにそれてた。


 唇にされたわけでもないのに頭がジンジンクラクラしちゃった。


 思いもよらない出来事に目をウルウルさせて固まってたら

瑤ちゃんの手が頭の上に降りてきてやさしく撫でられた。


 『私が苺佳の支えになるから』っていう言葉を聞いただけで

胸がいっぱいになったのにキスまでされて~からの頭ヨシヨシですか。


 瑤ちゃんってもしかしたらそうかもって思ってたけどほんとに

人たらしだったんだ。


 でも保育園限定とはいえ、普段の瑤ちゃんは他のおかあさんたちには

そっけない。


 私にだけ限定の人たらしだったらうれしいな。


 私はどう反応したらよいのか上手い言葉が見つからず今度は自分から

瑤ちゃんに抱きついてみた。


「瑤ちゃん!」


 掠れ気味の甘えた声で名を呼んだ。


 これはわざとじゃない。

 私はそんなあざといことはしない。


 自然とそういう風な声音になったのだ……と思いたい。

 自信、ないけど。


 瑤ちゃんの名前を呼んだ後、思ってた以上に甘え気味になってしまい、

胸のうちで知らず知らず何故か葛藤していたんだけど、そんな私に……。

 -

◇大切な人


「苺佳、覚えといて。私が苺佳のことを大切に思ってるっていうこと」


「うん、記憶喪失になったって忘れないよ」


「「あっ!」」


「私ったら……」


「それはちょっと無理があるよね」



「そ、それくらい忘れずに覚えておきますっていう強い気持ちが

あるっていうことで」

思わずしどろもどろ言い訳した私に……。



「分かってる」の言葉をくれた瑤ちゃん。



 私たちはこの後もぷちLOVEな会話をしばらく続け、やっぱり

瑤ちゃんはトイレへと向かった。



 戻って来た瑤ちゃんに汗してるだろうから身体拭こうかって訊いたら

シャワーするよってことで、シャワーを浴びて着替えた瑤ちゃんは、

体力使ってまだいっぱいいっぱいだから食事は一度寝てからにすると言い、

すぐに寝てしまった。



 ごめんね、瑤ちゃん。

 私を慰めるのに余計な体力使わせちゃったんだよね。


 申し訳ないと思いつつ、ベッドの側にコンパクトなミニスモールテーブルが

付いているのでそこにスプーンだけ追加して口に入れられるものを並べておいて

私も自分用に買ってきてたサンドイッチと紙パックのコーヒー牛乳を

お腹に入れてからシャワーを浴びた。



 それから瑤ちゃんと同じ部屋で瑤ちゃんのベッドに対してL字型に

寝袋を敷いて私も横になった。


 さきほどの余韻にしばらく浸っていたくて、私は天井を眺めた。


 優しい人に包み込まれ、泣きたいほどうれしくなった。


 泣きそうな状況を幸せあふれる瞬間に変えてくれたかけがえのない人。

 私は瞼を閉じて、瑤ちゃんに相応しい人間になろうって想いを込めた。


          ◇ ◇ ◇ ◇


 そして私は自分にあることを確認した。


『瑤ちゃんが男の人だったらもっと良かった?』

 答えはどちらでもいい、だった。



 今現実に側にいてくれる瑤ちゃんが、人としての瑤ちゃんが好きだから。


 私は生まれてはじめて性別を越えて人を好きになれたことにある意味、

最高に感動していた。



 女性が男性ではなく女性しか好きになれないっていうのとは、少し

違う気がする。


 それを否定するわけではないけれど、自分の場合は違うような気が

するのだ。


 私の場合は女性が好きなのではなくて瑤ちゃんだから好きなのだ。


 なんていうんだろう、異性を好きにならないといけないとか

同性しか好きにならないとか、いろいろあると思うけどシンプルが

一番じゃないのかな。



 好きになった人が異性でした。

 好きになった人が同性でした。


 恋愛は自由だよ。

 好きになるのに理由なんかないのよ。



 だって『恋は落ちるもの』っていうでしょ。


 しかし、私と瑤ちゃんの出会いって考えてみればみるほど不思議だよね。


 微塵も好きになれる要素なんてなかった……のに。


 睡魔に襲われ夢の世界に入ろうとした直後そんなことを頭に浮かべながら、

私は眠りについた。



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