『愛が揺れるお嬢さん妻』22◇瑤の緊急事態
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◇瑤の緊急事態
苺佳が家を出てから2か月余り後のこと、すんなりと離婚が成立した。
その日、保育園へ眞奈を迎えに行った帰り道のこと。
「苺佳ちゃん、今日比奈ちゃんお休みだった」
「えっ、そうなの? どうしちゃったんだろうね。
後で瑤ちゃんに聞いてみるわ」
『こんにちは。今日比奈ちゃんお休みだったみたいだけど明日は
登園できそうですか? 私も眞奈も心配してまーす』
帰宅後すぐに瑤ちゃんにLINE送ったけどすぐに返事は来なかった。
取り込み中かな。1時間後瑤ちゃんから返信があった。
『比奈は元気なんだ。
私が風邪を引いてしまって寝込んでる。
母親も今日は用事があって手が離せなかったんだ。
子供と年寄りにうつすといけないから比奈はこのまましばらく
母親に預かってもらおうと思ってる』
『じゃあ比奈ちゃん、しばらく保育園お休みなんだね』
『そうなるね』
『何か口に入れてる? 私、様子見に行こうか?』
『うつるといけないから止めたほうがいいよ』
『私、風邪に強い体質でうつりにくいし、うつっても寝込むほどには
ならないと思う。行くよ、今から。
何とか這いつくばって鍵だけは開けといて。
その後は私が手厚い看護するから極楽が待ってるよ~』
『分かった、苺佳。最強な女だな』
『そうだよー。ンでは今から看護士そちらに向かいまーす』
今日は離婚が成立した日で、私は寝込んでる瑤ちゃんの家へ
看護するために出掛ける。
こんな悲しむべき日に信頼できる人の側にいられるなんて、私はやっぱり?
ラッキーな人間だ。
◇ ◇ ◇ ◇
瑤ちゃんの家に着くとちゃんと鍵が開けられていた。
-
『おじゃましまぁ~す』眠っているかもしれないのでそっと小声で声を
掛けて家の中に入る。
廊下を挟んで和室と洋室があり、洋室のドアが開けられていた。
覗くと瑤ちゃんは眠っているようだった。
そのまま突き進むと結構広めのリビングダイニングが目の前に広がった。
桃とみかんの缶詰にのど飴、それとレトルト粥は常備してある家からの
持ち出しだけど、ゼリー、ポカリ、プリン、などはコンビニで買い漁ってきた。
それらをキッチンカウンターの上に並べる。
キッチンを使うのは瑤ちゃんが起きてからにしよう。
今日は泊まる気満々で寝袋を持参した。
瑤ちゃんのベッドの側で転がって寝てもいいし、和室を使わせてもらえそうなら
そこでもいいしなどと部屋の中の様子を窺いながら考える。
◇ ◇ ◇ ◇
『瑤ちゃん、起きたら呼んで! 私、リビングにいるから』
そう瑤ちゃんにLINEを送り、私は家から持って来た文庫本を読みながら
王子様が眠りから目覚めるのを待つ。
お姫様って言いたいところだけどゼーッタイ瑤ちゃんはお姫様っていう
キャラじゃないもんね。
どちらかというと断然王子様よ。
王子様が目覚めたらポカリを持って行ってあげよう。
あー、なんか喉乾いてきた。
ポカリは500mlのを3L計算で6本買ってきてるんだけど、
取り敢えず持参してきた水筒の蓋に入れて王子様より先に飲んじゃったよ。
-
『苺佳、今起きた。悪いね、わざわざ来てもらって』
『心配だし、瑤ちゃんの顔見たかったから全然悪くなーい。
ね、お腹空いてない?』
『いや、まだ大丈夫』
ここまでスマホで遣り取りして私は瑤ちゃんの寝室へ向かった。
「こんにちはー、おじゃましてます。瑤ちゃん、ひとまずポカリ、どうぞ」
「あぁ、サンキュー、助かる。ちょうど喉乾いたなって思ってたとこ」
「あのね……」
「……?」
「今日瑤ちゃん家に来たのは心配でお見舞いに来たのと、もう一つ
理由があるの」
「もうひとつって何?」
「離婚が成立したの」
「そっか。家を出たって聞いてたからいつかはって思ってたけど案外
早かったような気もするね」
「早かったのかなぁ? 分かんないけど家を出てから英介さんには一度も
会ってなくて後のことは父が全部やってくれたっていうか……。
自分が修羅場っていうの? 知らずに済んでるせいかまだ実感がないの」




