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『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと -   作者: 設楽理沙


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21/25

『愛が揺れるお嬢さん妻』21◇修羅場☑

21


◇修羅場☑


 影山コーポレーションの社長である徹氏とその長男の恵介は

直近で出ている合併の話がいよいよ本決まりになり、まずは親戚筋の

自分たちが一番手に決まったというような朗報を

この度聞かされるのだろうと両名の表情は明るかった。



 そして英介はというと影山家の息子とはいえ、現在は古家製紙(株)の

社員、そしてゆくゆくは古家氏の跡を継ぐ者である為、父や兄とは

若干違った心持で席に着いていたのだが。


 ふと英介は違和感を感じた。


 それは座っている面々の席の位置だ。

 所属している会社別ではないということに。


『考え過ぎなのか?』

 そんな風にも考え直したりしていると、古家氏が口火を切った。



          ◇ ◇ ◇ ◇


「お暑い中、影山さんたちにお越しいただいたのはいろいろ

これからのことで大きな変更が生じてくることになるからです」


「と申しますと、例の合併の件でしょうか?」

親父が呼応するかのように訊いた。


「以前それとなくはお伝えしていたので、本来なら合併するにあたり

縁戚筋にあたる影山コーポレーションさんには1番に入っていただこうかと

思っておりましたが……」


 ここまで話した古家氏が苦渋の表情でしばし間合いを取った。

 この間合いの意味するところは、よもや……。



「残念ですが影山コーポレーションとの合併はないものとご承知おき下さい」

-


「合併の1番手だったうちが落とされるというのは、合併の案そのものがなくなるということでしょうか?」


 親父が問う。


「いえ、そうではありません。

 このような話驚かれるのも無理はありません。

 今からその理由を説明させていただきます」



 古家氏が言うや否や、村元さんから茶封筒が向かい合わせに座っている

俺たち親子3人に配られた。



「その茶封筒の中のものを見ていただきましたら自ずと理由が分かるかと

思います。どうぞご覧になってください」



 茶封筒の中には調査報告書と写真が数枚入っていた。

 俺と山波美羅との写真だった。


 親父は天を仰ぎ、横に座る兄貴は憤怒の形相で俺を見てきた。


 今、親父と兄貴の会社がどれほどの業績不振に見舞われているのか

定かではないが、それ如何によっては俺自身詰むだけでは済まず

とんでもないことになるかもしれない、そう瞬時に俺は理解した。



「ご覧のようにわたしどもの婿殿は娘を裏切り続けてるような状況でして、

娘の意向でやり直すという道もない為、縁戚という繋がりも

なくなりましょう。


 娘の夫が浮気をして離婚になるというのに夫側の身内の会社と

合併などしようものなら、物笑いの種以外のなにものでもありませんな。


とまぁこのようなことから、合併の件はご承知おきください。


 英介くん、何か申し開きはあるかね?


 仕事はそれなりに貢献してきたということで退職金は出すとし、

この機に退職を申し渡すこととします。


 また退職金は娘への慰謝料と相殺とする。

 よろしいかな?


 不服があるというなら、手元にまだまだ未公開の資料もあるので

こちらはそれを提出する用意があるが、どうだろう?」

-


 裁判をするとまでは言われていない。

 これはもう相殺にしてもらえるだけでも有難いと思わなければいけないな。


「社長、申し訳ありません。ご指示の通り退職致します。

 改めて後日お詫びに参ります」


「折角だが、娘はもう君とは会わずに別れたいと希望しているので、

このまま何もせず退職してください。


 娘の父親として私も思うところはあるが、君を非難することは

娘の望むところではないのでね、この場をもって私も君と言葉を交わすのは

最後にしたいと思う」


「……」

 

          ◇ ◇ ◇ ◇



 古家氏と村元さんが退室した後で残された俺たち3人は……。


「お父さん、この度のことはすみません」


「英介、何故なんだ。

 愚息の俊介が古家さんに泥を塗った時、お前が代わりに古家に入ってくれると

言ってくれて本当に私はうれしかった。


 だけど今頃になって、家業が潰れるかどうかのここ一番の瀬戸際で

よもやお前に梯子を外されるとはな」



「お父さん、何とか古家さんに謝って合併してもらえるよう

お願いしてみては?」


 

「恵介、もう私たちにはそんなチャンスはないよ。

 私たちが、私の息子たちが揃いも揃って古家さんと苺佳ちゃんに

2度も道理に反することをしてきたんだ。


 私たちはあの人達を2度にわたり侮辱したのだよ。


 もう一度お願いするということは3度目の侮辱そのものだよ。


 英介、私はね、利発なお前のことだから古家の家に養子に入るということが

どういうことなのか、判ってのことだと思ってたんだが、ま、残念だ」

-


 親父の言葉が終わると続けて兄の非難の言葉が続いた。


「英介、うちは今日合併できないという話を聞くまでは何とかこの不況を

乗り越えていく算段をしていたが、今まで通りどこからの援助もないとなると正直厳しい。


 社員たちを路頭に迷わせたくはなかったが、このままだとリストラも

断行しなきゃあならなくなる。


 もちろんお前を受け入れる余裕もない。


 お前の軽はずみな行いで一体何人の人を不幸にするのやら。


 苺佳ちゃんもそうだ。

 この先相談相手もなく、娘を独りで育てて行かなきゃあならない。


 今は親という後ろ盾があるからすぐには困らないだろう。

 だけど、親はいつまでも側にいてやれないからな。


 あんないい子を泣かせてお前は酷いヤツだよ」


          ◇ ◇ ◇ ◇



「私たちは、お前を頼りにしていたのにな……」


 最後の親父の言葉が身に染みた。


「……」



 そっか、家にはもう苺佳たちは帰って来ないんだ。


 怒涛の一日を終え帰宅したリビングで俺はふたりのいない世界を実感した。


 暇つぶしに考えてみた。


 美しく聡明な女性との楽しくてワクワクする語らい、淫らな

メイキング・ラブ。


 親父と兄貴、1000人近くいる従業員とその家族、そして自分、

一生の深い傷を付けてしまった苺佳、父親を失くす娘の眞奈。


 そんなものを全部まるっとひっくるめて引き換えにできるほどの

ものだったのか? と。


 美羅との結婚など考えたこともない。

 それが答えだった。


 俺に会いたくないと言ってるそうだが、一度深く傷つけた苺佳に

ちゃんと会って謝りたい。


『ごめん、苺佳』


 俺は天使のように可愛かった小さな頃から苺佳を知っている。


 毎年夏休みになると一度は会っていて、苺佳はいつもピカピカ光って見えて

かわいかった。


 結婚してからも慕われていることは知ってた。


          ◇ ◇ ◇ ◇


 どうしてもっと大切にしなかったのかな。

-


 古家氏から今後自分と話す事は何もない話したくないと言われていたが、

俺は今生の別れになるのなら何とか最後に謝罪がしたいと思い時間を

作ってもらった。


 でないと後悔しそうだったから。


           ◇ ◇ ◇ ◇



「英介くん、私はね苺佳の為を思えばこそ家族ぐるみで付き合いもあり

信頼に足りる影山さんところの子息と縁ができれば苺佳が変な男に摑まって

泣かされるようなこともあるまいと、これまで影山家と親睦を深めてきたがね、

よもや君にこうも酷い仕打ちを受けようとは。


 私は娘に申し訳ないことをしてしまったのかもしれない。

 こんなことなら、普通に恋愛を経験し結婚させてやればよかったとね」



「お義父さん、不束者で本当にすみません。

ですが、家庭を壊す気など毛頭なく……」


「いくら君がそう思おうと家庭はすでに壊れておる。

 苺佳と孫の眞奈も、もう君とは暮らさないと言っておるからね。


 一度壊れた茶碗は元には戻らんのだよ。


 苺佳はね、君を問い詰めることも君の言い訳を聞くこともしたくないと

言ってる。


 今まで見たこともない顔、聞いたこともない言葉の羅列、そんなものには

関わりたくないそうだ。


 こちらの勘違いだったと言い訳できない証拠があるからね。


 君も苺佳に会って釈明しようなどとは考えず、離婚届にすんなり

判子をついたほうがいい」



 義父は、苺佳が俺の事を問い詰めることも言い訳を聞くことも

したくないと言ってる、と言う。


 実際それは本当のことなんだろうけど、苺佳と一度も話し合いをすることなく

離婚届けに判を押さなければならないというのは、非常に痛い。


 目の前にはとてもじゃないが取りなしてくれそうもない義父が

今も不快感いっぱいの顔で座っている。


          ◇ ◇ ◇ ◇


 許してもらえるなどとは考えてなかったのだから、いや本音をいうと

ちらっと考えなくもはなかった、がここは引き下がり時と考え、

失礼しますと執務室を後にした。

-


 帰宅途中気晴らしに海岸線沿いに車を走らせた。


 左手に陽の光でキラキラして見える海を臨み、前方にどこまでも続きそうな

湾曲した海岸線を走り抜ける。


 今になってみれば、兆候はあったのだ。


 寝室から消えた苺佳。

 家族サービスを喜ばなくなった苺佳。

 以前のように好き好きビームを発信しなくなった苺佳。


 何となく感じていたのに、美羅に夢中で放置していた。


 そして全てをなくした。



 しばらく走行した後、湾岸線の高架下に車を止めることにした。



 結婚する前の両家で集った夏休みの思い出、結婚してからの日々、

そんな記憶がふわふわと英介の頭の中を駆け巡っていくのだった。


          ◇ ◇ ◇ ◇


 そして……

 翌月末、英介の退職と共に彼ら、英介と苺佳の離婚も成立した。

 

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