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『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと -   作者: 設楽理沙


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『愛が揺れるお嬢さん妻』20◇自宅脱出

20


◇自宅脱出


 両親に英介さんとのことを話に行った後、少しずつ荷物を段ボールなどに

まとめて自宅脱出の準備を始めた。



 英介さんのいない週末に赤帽さんに荷物を取りに来てもらい、それから

眞奈を連れて電車に揺られ実家に戻った。



 私は『実家に帰ります』とだけメモを残し、暮らし慣れたお気に入りの家をあとにした。



 しばらくは実家で世話になり、眞奈と住む家が見つかり次第

そちらに移るつもり。





――この後、英介が苺佳や眞奈と会うことは叶わなかった。


『なんてことだ、俺としたことが』


 そうつぶやく英介が、昨日のうちに苺佳が娘を連れて

実家へ帰っていたことを知ったのは月曜の朝のことだった。

-


 まだまだ山波美羅とのお熱い付き合いが続く中、それでも時々

思い出したように娘や苺佳に『どこかへ行こうか』と誘うものの、

『友達と約束があるから』とか『実家へ行く用事があるから』とか、

その都度理由をつけて断られるため最近では休日に罪悪感を持つことなく

美羅との逢瀬を楽しむ英介だった。



 美羅と会えない日はちょうど身体を休めるのに都合よく家でまったり

することにしている。


……とはいえ、

 もはや妻や子から以前のように『パパ、パパ』と纏わりつかれたり、

妻からその週にあったできごとを聞かされることも、気が付けば

なくなっており、他に気を取られている英介だったが、あまりの家族の

素気なさに以前からなんとなく気づいてはいたものの、ここにきて更に

『どうしたっていうんだ』と気になるのだった。



 たまに『どこかへ行かないか?』と誘っても苺佳が行きたそうにしない。


 以前ほど家族から求められることがなくなり、少し寂しさを感じて

しまうのも本当だが……。


 今は娘も妻も保育園でできた友達との交流に夢中のようで、自分は

以前ほどじゃないにしても恋人に溺れている状態なのである意味都合がいい

のもほんと。


 恋愛の賞味期限は3年と聞く。



 蜜月期が過ぎたなら、家庭にも今よりはずっと向き合えるように

なるだろうし、まだまだ俺たち夫婦のこの先は長いのだから、

もう少し先で家族とは以前のように仲良く密な関係に戻れるだろうと、

そんな風に恋人美羅にのめり込むも、少しも苺佳との離婚など

考えたこともない英介だった。

-


 鯉のぼりをちらほらと目にするようになる端午の節句より少し前のこと。


 アレルギーが出て夜に咳込むので俺を起こしてしまうのが申し訳ないから

と苺佳が寝室で寝なくなった。


 あれからから4か月ほど経つがそのままになっているものだから

昨夜は深夜の帰宅だったため、シャワーを浴びて寝室に直行して寝た。


 だから苺佳のメモも読んでなかったのだ。



『実家に行ってきます』ではなく『実家に帰ります』と残された

苺佳の文言に、そういうことだったのかと英介が気付くのは少し後のこと。




          ◇ ◇ ◇ ◇



 苺佳に連絡を入れると、母親の体調がすぐれずしばらく実家に滞在する

とのことで、英介は快く了承した。



 一方苺佳の父親は、娘苺佳の離婚をスムースに進める為と予定を変更する

ことになった合併の話をスムースに進める為、しばし多方面にわたり

奔走した。




 そしてなんだかんだと多忙な苺佳の父親が影山家の面々との面談を

セッティングしたのは、翌月の半分を過ぎた頃となった。



 古家氏は、自分の方はずっと右腕となり自分の力になってもらっている

遠縁の村元に同席を頼んでいた。



 対峙するにあたって来てもらったのは英介の父、影山徹氏と兄の恵介、

そして古家製紙(株)の社員でもある英介の3名だった。


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