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『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと -   作者: 設楽理沙


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『愛が揺れるお嬢さん妻』18◇瑤の恋愛事情

18


◇瑤の恋愛事情


 医大生だった頃、恋愛感情や性愛感情が男女どちらにも向く性癖の同級生、

長渕孝介と付き合っていたことがあった。


 その長渕からの告白を当初2度断ったものの、頻繁にラブコールを受け、

同じ教室で授業を受ける同級生ということもあり、当時別段好きな相手も

おらず特別嫌いな相手でもなかったことから、なし崩し的に付き合っていた

相手だった。



 とはいえ、根は真面目な瑤のこと、徐々に心を許し、ちゃんと長渕に

向き合っていたつもりだったのに、就職先で可愛い彼女を作るとあっさりと

元のただの同級生に戻ろうと言ってきたのだった。



 瑤からしてみれば、初彼で初めての恋人だったわけで、いきなりそれは

ないだろうとは思ったが、まぁひとりで熱してひとりで勝手に熱を冷ますような

相手のことなどおかまいなしの身勝手なヤツはこっちが願い下げだと、

冷静に振られたことを受け止めた。



 -そんなふうに身勝手な振舞いをしておきながら平然とその後も

ちょくちょく長渕は友達面して連絡を寄こしてくることがあった。


 当然だがそんな輩を瑤がまともに相手をすることはなかった。-


 そんな長渕がここのところ、頻繁に連絡を寄こすようになり、瑤は

うんざりしていた。


 おそらくご執心だった友ちゃんに振られでもしたのだろう、

寄りを戻そうとするような内容のメールや電話まで

かかってくるようになった。


 そしてのらりくらり相手にせず上手く躱す瑤に焦れたのだろう、ついには

自宅にまで押しかけて来たのである。


 何という厄日。

 おまけにうっかりドアを開けてしまった。

-


『適当にあしらってるんだからいい加減気付けよ、バカ長渕。

 もうこっちは一切付き合いなどしたくないんだよ』



「なんで家まで押しかけてくるかなー、止めてくれないかな」


「瑤、俺の話を聞いてくれよ」



「聞いても私の気持ちは変わらない、同じだよ。

 一度はこちらも武士の情けでお前の気持ちを受け入れてるんだから、

もう勘弁しろよー」



「あの時の俺はどうかしてたんだよ。もう一度やり直してほしい」



「あのさ、友ちゃんだけが女ってわけでもないだろ? 

 お前ならすぐに次の可愛い子が見つかるから、私に固執しなくていいから」



「いやっ、俺分かったんだよ。俺には瑤じゃなきゃだめだって。

 友美と付き合ったからこそ分かるんだよ」



「あのさぁ、うち、子供いるんだよね。帰ってくれないか」



 玄関の中まで入って来てよりを戻そうと必死になっているこの男を

なんとかしないと比奈が怖がるだろうから、そう思いひとまず

玄関から押し出した。


          ◇ ◇ ◇ ◇


『えっ? なんで?』



 玄関を出て私の視界に飛び込んできたのは、私に気付き破顔一笑する

袋を下げた苺佳の姿だった。


 どうすりゃぁいいんだ、このシチュエーション。


 固まった一瞬を突かれ、瑤は長渕に抱き縋られてしまった。


 流石にこの構図はまずい。



 瑤は咄嗟に手を伸ばし『苺佳!』と苺佳の名を呼んだ。


 すると呼応するように苺佳が持っていた袋を、伸ばした瑤の手に持たせて言った。



「瑤ちゃん、比奈ちゃんと食べてね」


 それだけ言うと踵を返し、苺佳は足早に帰って行った。


          ◇ ◇ ◇ ◇



「長渕、お前、何てことしてくれんの」


「えっ?」


「消えて! 消えろ! 私の前から消えろ!」


「そんな……」


「人の気持ちを考えられないようなヤツとはパートナーどころか

友達にもなれないっ、つってんだよ」



 私は抱き付いてた長渕を引き剝がした後、袋を家の中に持って入り

比奈を呼んだ。



「比奈ー! 緊急事態発生ー! 今から眞奈ン行くよー」


「比奈も行くー」


 どうせ苺佳の行き先は自宅だろうからと、心を落ち着かせ

比奈を車に乗せて家を出た。


          ◇ ◇ ◇ ◇



 私は意気消沈した面持ちでトロトロと歩いている長渕を車で追い越した。

-


 苺佳の家の前の道幅の広い道路に駐車して苺佳の家の駐車場に目をやると

もう帰宅しているみたいだった。


 眞奈を連れてなかったから寄り道はしないだろうとは思ってたけど、

まぁ予想通りでよかった。


 ほっとした途端にハタと気が付いた。

 苺佳は私たちに何を持って来てくれたんだろう?


 ここで初めて私は彼女から手渡されていた袋の中を覗いてみた。


 食べ応えのありそうな大粒の無花果イチジクがたくさん

詰め込まれてた。


 さっきの誤解も解かなきゃあいけないが、お礼も言わないとな。


 横から覗き込んだ比奈が「わぁ~、無花果、比奈食べたーい」と

喜びの声をあげた。

-

「うん、美味しそうだな。苺佳が持って来てくれたんだ。

 家に帰ったら食べよう」


「うん」


「比奈、ちょっとだけ待ってて。

 苺佳に話があるんだ。これのお礼もあるしな」


「比奈も一緒に行ってお礼言う」


「そっか、分かった。

 じゃあ、行こう……っと、その前にちょっと待ってな。

 連絡入れてみるから」


「……」



          ◇ ◇ ◇ ◇



『苺佳、瑤。

 さっきは重いのにたくさん無花果持ってきてくれてありがとう。

 今苺佳ン家の前。

 無花果のお礼とさっきのことちゃんと説明したくてね。

 今から会いに行っていいだろうか?!』

-

          ◇ ◇ ◇ ◇


 びっくりしたぁ~、男の人に抱き付かれてたよ瑤ちゃん。

 なんかむちゃくちゃ衝撃的で、ドラマか映画のシーンのようだった。


 所謂イケてる人たちの絡みっていうの?


 ドギマギしちゃって、無花果をいきなり渡すだけ渡して急ぎ足で帰ってきたものの、びっくりしてドキドキした後に今度は瑤ちゃんのこと遠くに感じて

不安になって、次に襲ってきたのは悲しみだった。


 泣いてたら家の前に来てるよって瑤ちゃんからのLINEが届いた。

 さっきの説明がしたいって。



 聞きたいけど、聞きたくないような。

 聞きたくないのに聞きたいような。


 私の胸の内ではげしい葛藤が繰り広げられた。


 すぐに話をしに来てくれた瑤ちゃんに会わないわけにはいかないし、

話を聞かないわけにはいかず、私は玄関のドアを開けた。


 家の前の道路に路駐して比奈ちゃんと立ってる姿が見えた。


 私の姿を捉えた比奈ちゃんがスマホ画面を覗き込んでた瑤ちゃんに

教えてくれたみたいで瑤ちゃんも私のことを確認すると二人でこちらに

やって来た。



「瑤ちゃんわざわざ来てくれたんだね。

 ごめんね、ちょっとびっくりしちゃって声も掛けずに帰っちゃって。

 散らかってるけどどうぞ、比奈ちゃんもいらっしゃい」


「苺佳ちゃん、無花果ありがとー」



「たくさん食べてね。

 眞奈はおばあちゃん家行ってていないんだけど、絵本やブロックで

遊んでていいからね」


「はーい」


「瑤ちゃん、コーヒー淹れるね」



「あぁ苺佳ありがと。だけどすぐに帰るから気使わないで。

 話もすぐに済むし。

 座って……。

 まずはわざわざ無花果重いのに持ってきてくれてありがと。

 うれしいよ、比奈も私も好きだからね」



「喜んでもらえて、よかった」



「苺佳、さっきのおぞましいシーン見たくなかっただろうけど見たよな?」


「うん、見ちゃったね」



「あれ、忘れて」


「どうかな?」



「アイツはね、医学生だった頃に少しの間付き合ってた相手で、浮気者で

裏切り者なんだ。

 ある日いきなり私との付き合いを止めると言ってきたんだ。


 その時にはもうすでに少し前から二股してたみたいで、別の女と

付き合うから私との付き合いは止めるって一方的に宣言してきた

酷いヤツなんだよ。


 その時の彼女に振られたんじゃないのかな、急によりを戻したいと

言ってきて。


 今日家に来たのも不意打ちで、抱き付いてきたのも不意打ちだったんだ。


 私の意志は微塵も入ってないから。これだけは苺佳に話しておきたかった」




「瑤ちゃん、今日見たの忘れることにする」



「そっか、ならよかった。じゃあ、帰るよ」


「うん、気をつけてね」


          ◇ ◇ ◇ ◇



 私にわざわざ会いに来てくれた瑤ちゃんは比奈ちゃんと一緒に

帰って行った。


 今日はとても疲れた。

 感情の振れ幅が半端なかったせいよね。


 忙しいのに瑤ちゃんは直接会いに来て説明してくれた。


 なんとなくだけど、私は大切にされてるんだなぁと感じて幸せって思えた。


 ありがと、瑤ちゃん。

-

 瑤の昔の恋愛事情を知ることになった苺佳だったが、このことで

瑤から自分が大切に想われていることを再認識することができた。


 7月の中旬頃には、日差しの強さなどすでに夏めいていたけれど、時は

夏本番を感じさせる8月にいよいよ突入しようとしていた。


 保育園に通う子供たちにとっては7月の七夕祭りに続き、またまた

楽しいイベント続きの月である。


 夏の日の夕暮れに園に集まり、おもちゃで遊んだりおやつを食べたり

シャボン玉や水鉄砲をしたりと楽しい遊びが続く、たそがれ保育。


 

 ドキドキが止まらない星を見ながらの夜のお散歩。

 翌日にはラジオ体操と公園での遊びが予定されているお泊り保育。


 眞奈や比奈ちゃんにはワクワクが止まらないイベントが待っている。



 幸いにしてイベントが続いていることもありで、あれからも

 英介さんが変に気を遣って家族サービスを言い出さないよう、娘が

保育園の行事だけで充分満足しているということを丁寧に伝えている。


          ◇ ◇ ◇ ◇



 そんな日々の中で英介さんから義父が経営する会社の経営状況や

合併の話を聞かされることになった。

 

        

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