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✿『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと -   作者: 設楽理沙


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13/25

『愛が揺れるお嬢さん妻』13◇興信所


 ◇興信所



 ミラって誰? 

 夫との馴れ初めなどあれこれ考えているうちに朝になってしまった。


 眠れなくて寝返りを打ったりしてモソモソしている私の横で目覚めた夫が

背中越しに腕を回してきて、耳元で『おはよ』と囁いた。


 いつも触れてくるわけでもないのにこんな日に限って甘い声で囁いて

くるなんて、なんてこと。


 『ミラって誰なの?』

と訊いたら夫はどんな顔をするだろう。



 完全なるクロならなおさらだけど、グレーだったとしても私は

そんな質問をすること自体、嫌だ。


 この後、いろいろ考えなければならないこと、やらなければならないことを

思うと憂鬱になる。


 今までならやさしい抱擁と甘い声は私に至福の時をもたらせてくれた

けれど、もしかするとこれが最後の至福の時になるかもしれない。



『おはよう』

 私は身体を反転させ、夫の胸に顔を埋め片手を脇に滑らせ

彼を抱きしめた。


          ◇ ◇ ◇ ◇


『これが最後の抱擁になりませんように』と願いながら。


-


 たまには送迎時、ちらっとでも瑤ちゃんに会えないかなとしばらくの間

期待して、朝な夕なに眞奈の登園やお迎えに行くたびキョロキョロしていた

けれど、やっぱりたまにお見掛けするのは比奈ちゃんのおばあちゃんで。



 園でおばあちゃんに会うと少しお話することもあるけれど、

最近はほんとに挨拶程度。


 何をお話すればいいのかお互い分からない感じ。


 他にもおばあちゃんがお迎えに来ているお家があって瑤ちゃんのおかあさんは

その人と懇意になられたみたいで、もっぱら立ち話はその人とが多い。



 比奈ちゃんの預かりがなくなると何を話ていいのかも分からず、結局

こちらからメールするのも憚られ、瑤ちゃんにいつ会えるのかなぁ~なんてね、

彼女のことばかりを考えていたのに……。


          ◇ ◇ ◇ ◇


 呑気に瑤ちゃんのことばかり考えてもいられなくなっちゃった。


 とにかく胸のモヤモヤをどうにかしないと前に進めない。


 興信所を探して依頼するまでに、いろいろと迷いに迷い、10日間くらい

掛かってしまった。

-


 おそるおそる口コミで比較的評判の良い探偵事務所に電話を入れた。


 地元では浮気調査をしてくれる所は、名称がほとんど『探偵事務所』

となっている。


 小説や2ch掲示板などで『興信所』と書かれているのをちょくちょく

目にしていたので、浮気調査に『探偵事務所』というネーミングは

なんだかなぁ~。



 私のチョイスしたLYT探偵事務所は電話の対応も良かったし、

最初の事務所での対面ではベテランと中堅どころの女性離婚カウンセラー

資格保持者ふたりが細やかに私の話をとても丁寧に聞いてくれたことも

良かった。



 そして最後の決め手は一番不安に思っていた料金のこと。


 見積以上の請求はしない、とのことで、後から追加請求がないことが

担保されているということで安心感半端なく、私はここへの依頼を即時

決めた。


          ◇ ◇ ◇ ◇



 調査を行う前の打ち合わせもしっかりしてもらえて、調査当日は

リアルタイムで報告を入れてもらえるそうだ。


 私は夫英介の週末、土日の行動を4回分追跡してもらうことにした。

-


 そんな中、瑤ちゃんに会えないかなって思いながら眞奈の送迎を

していた時には一度も会えなかったのに、瑤ちゃんに会いたいなぁ~なんて

考えられない状況になった途端、久しぶりに午後からのお迎えで

ドンピシャ瑤ちゃんに会えちゃった。



「お久しぶりぃ~」


「あぁ、久しぶり……元気だった?」



 えっ、何ていう挨拶。


 瑤ちゃんったらぁ、ほんとにもう、どうして私の胸を

ブルブル震わせることを言うんだろう。


 今の瑤ちゃんには英介さんのこと、少し距離があり過ぎて話せないや。


「うん……まぁ元気かな。瑤ちゃんも元気そうだね。

 送迎頼める人ができて、少しゆとりができたから良かったね。

 私は会えなくてちょっと寂しいーけど」





 瑤は苺佳の『寂しい』発言を聞いてほっと胸をなでおろした。



 昨年の比奈の預かりをしてもらっていた夏に、嫌われるようなことを

やらかしていたからだ。



 後で謝罪して受け入れてもらったものの、嫌われちゃったよなぁ~と、

ずっと気に掛かっていた。



 嫌いな相手に寂しかったなどとは言わないだろ?





「ほんと、私たち随分と会ってないな」


「うん、比奈ちゃんとおばあちゃんとは時々顔を合わすけど。

 その……」


「ン?」


「……仕事忙しいの?」


「う~ん、忙しいけど、そこは去年と一緒? まぁ相変わらずだよ」


「そうなんだ」


瑤は苺佳の問い掛けに『もう比奈の送迎はしないのか?』と

訊かれているように感じた。



「週に何度かさぁ……」


「?……」


「比奈のお迎え、私が行くよって母親に言うだろ? そしたら

『仕事で疲れてるのにわざわざお前が行かなくてもいいのよ。

私が行くから』って返してくるんだよなぁ~。


 あれよぉ、歩くのは健康にいいし、孫と連れだって話すのも楽しいらしい。


 でな、私の睨んでるところでは、同世代の保護者がいてその人と

気が合うらしくて、週に何度かその人と立ち話するのを楽しみにしてる節が

ある。


 送迎するのに3つも理由がある人に私、太刀打ちできなくてさ」




「そっか、そんなことになってたんだ。私、知らなくて。

瑤ちゃんが死ぬほど忙しいのかと心配してた」



「おぅ~、スマヌ」



          ◇ ◇ ◇ ◇



 その話を聞いて苺佳の胸に灯った感情を瑤は知らない。


『瑤ちゃんのおかあさんが断固として比奈ちゃんの送迎に園に来る

理由の中に、ここでできた同世代の友人と会って話がしたいというのがある。



 瑤ちゃんには、私と会ってたまには話したいっていうおばさんほどの

強い意志は……ないのかー。凹む』

-


 そんな風に嘆いている苺佳の気持ちなど知る由もない瑤だったが、

苺佳だって瑤が悩ましく心中複雑でいることを知らない。


 ――――― 瑤だってたまに会ってみたいと思うものの、会えば自分が

苦しくなるだけだから、母親から比奈を迎えには行かなくていいと言われた

言葉に、有難く乗っからせてもらっているのだ ―――――



          ◇ ◇ ◇ ◇


「瑤ちゃん、まだ先だけどまた今年も七夕祭りの日、お泊りあるよね? 

その日、瑤ちゃん来れる?」


「流石にその日は参加するよ、母じゃなくて私が。

 もし母が譲らなかったら、先生に頼んでふたり参加にしてもらって

2人で来るよ」


「えーっ、お母さんお泊りも来そうな勢いなんだ」


「なんかな……勢いあるっ」


「「ははは」」


「先だけど7月のお泊り、楽しみにしてるね、じゃあ、また」


「おぅ、私も苺佳にそう言ってもらって……なんか元気でるねー。

 じゃあ、苺佳も元気でな」


「うんっ」


          ◇ ◇ ◇ ◇


『久しぶりに立ち話ができて嬉しかったよ、瑤ちゃん』


 瑤の後ろ姿を見送りながら、呟く苺佳だった。


          ――――――――――――――――――――


 その後、待ちわびた探偵事務所から苺佳の元へ連絡が入る。


 

 週末を狙い撃ちして4回分。


 先月から今月にかけての調査が20日に完了したようで一週間後に

大まかな説明を受けたあと、まとまったレポートと動画を渡されるとのことで

苺佳は数日間待ったあと、再び事務所へ脚を運んだ。



 部屋に通されるとすぐにカウンセラーと調査員から大まかではあるが

丁寧に夫の行動と相手女性の素性などを聞かされた。


 

『今は動揺されていて、この先のことをすぐには決められないと思うので、

ご自分がどうしたいのか、心が決まれば私の気持ちに添ってこれからのことを

決めていきましょう』


と言ってもらえた。


          ◇ ◇ ◇ ◇


『すぐに結論を出さなくてもいいのですよ。じっくり考えて

どのようにするのが奥様にとって一番いいか、時間を掛けましょう』と。



「離婚、別居となると、それに伴う慰謝料の請求や婚費のことなどが

ありますから、わたくしどもの方で弁護士もご紹介できますので

また何かありましたら気軽にお申しつけ下さい」



「ありがとうございます。またお世話になるかと思います。

その折には宜しくお願いします」

-

 電車に揺られて帰る道すがら、先ほど足早に出て来た事務所で見せられた

報告書の中にある画像と共に、説明を受けた夫の不倫相手の姿が思い浮かぶ。


 モデルのようにスラリと背が高くスタイルの良い女性だった。


 名前は夫の寝言から出て来た『美羅(ミラ)』でビンゴだった。

 覚悟していた名前なのに私は動揺した。



 山波美羅33才、英介さんより年上で大学の先生みたい。

 准教授と書かれているけれど、私にはよく分かんないや。


 教えるだけじゃなくて自分でもちゃんとイラストなどを描いてるみたいで、

イラストレーターとしても活躍していて、おまけにバイヤーもしているらしい。



 もちろん、旦那さんもいて既婚者だ。


 そして驚くべきことに遊び相手は英介さんだけではないようで、

独身のイケメンモデルとも腕を組んでホテルから出て来る姿が撮影され

報告書にあがっている。



 彼女はこんな風に3人の男と楽しく人生を謳歌できる強者で、調べた

ところによるとイケメンモデルは仕事柄英介さんより後に出会った相手で、

美羅のほうが積極的にアプローチして交際に持ち込んだようだ。




『彼女の気分次第で旦那さんは案外早く奥様との生活、家庭に戻られる

可能性が大きいですよ』

とカウンセラーの木下さんから慰めの言葉を掛けられた。



 慰めてくれるのは有難いけれど、でもそれっ、ぜんぜん慰めに

なってないし。


 女に相手にされなくなって戻ってくるなんて、なにー、それー、だわ。


          ◇ ◇ ◇ ◇



 事務所で簡単に説明を受けたけれど、心が千々に乱れて平静を保つのが

精一杯だった。


 あれこれ考えているうちに気がつくと車内からプラットホームが

すぐそこに見えた。



 最寄り駅に降り立ち、改札口を通ってタクシー乗り場で車を待つ間、

乗っている間、家の玄関に立つまでの間、さまざまな感情の渦が苺佳を襲った。

-



 英介さんが他の女性と一緒に密な時間を週末の都度に過ごしていたって

……本当のことだったんだ。


 私の妄想であってほしいと願っていたのに。


 予感はありつつも、やはり自分は心のどこかで夫を信じていたかったのだということに気が付いた。



 推測している時間も苦しかったけれど、実際に知らないどこかの美しい女性と一緒に食事しているところ、ホテルに入っていく姿を写真で見てしまい、堪らなかった。



 どうして私がこんな残酷なものを見せられなければならないのか。


『英介さん、酷いよ……酷すぎる』


 やさしい眼差しや振舞いのその裏で、平気で私や娘を欺いていたのね。


 私は玄関ドアを開けると急いでリビングに駆け込み、テーブルに書類を

広げた。


 まず事務所で見せられたものと見てなかった写真をじっくりと1枚ずつ

丹念に見ていく。



 やはり、先ほどはテンパっていて気が付かなかったことを見付けた。


 夫が山波美羅と食事している店は数か月前に家族で行ったことのある

あの串カツ屋だった。


 夫のお気に入りの店で出会ったのだろうか? 


 別の日の写真にも串カツ屋にいる夫の姿があり、私は別の衝撃を受けた。



 この日夫の前に座っているのは美羅ではなく、私の良く知っている

女性だったから。


 どういうこと? なんてこと? 


 誰か説明して……教えて……ください。



          ◇ ◇ ◇ ◇


「あーっ、いやぁーっ」


 私はリビングでひとり、何かの役を演じている人のようにぎゃあぎゃあ喚いた。



「もう~なんでよ~ばかぁ~、酷い~ばかぁ~信じらんない~、なんでよ~

なんでぇ~」



 誰もいないことをいいことに、しばらくの間理性をかなぐり捨てて騒いだ。


 そして……泣いた。

-


 やだなもう。

 自分がヤンなっちゃった。

 

 責めたい……罵りたい……なのに、口から出てくるのは大した言葉じゃない。


 そんなボキャブラリーの少ない自分の言語能力に打ちのめされる。


――――― 夫の前に座り、食事している1枚の女性の写真。

     それは、瑤ちゃんだった ―――――




 探偵事務所のスタッフは誰も瑤ちゃんのことには触れてこなかった。

 どういうことなのか?



 事務所の人たちは英介さんと私と瑤ちゃんの繋がりを知らないからなのか。


 こんな偶然なんて、ないよね。


 英介さんのことを瑤ちゃんは知ってる。


 英介さんはおそらく瑤ちゃんのことは知らないはず。

 ……ということは、瑤ちゃんのほうから夫に近づいた?


 夫は女性2人と付き合ってるっていうの? 

 しかも1人は私の知り合いで娘を通じて繋がってる保護者なのよ。



『最低、あんたたち、さいていっ』

私は泣けてきた。


 私は英介さんのことを信じてた。

 瑤ちゃんのことだって特別な友達だって思っていて心を許してたのに。


  一体私があなたたちに何したっていうの?

 何でこんな酷い仕打ちを受けなきゃいけないの?



『英介さん、瑤ちゃん、教えてよー。もう~いやぁ~』


 私はふたりに向けて文句を垂れ流しつつも、知らず知らず気になることがあった。


 答えがすでに出ているにも関わらず、どちらが先に誘ったのだろうか、と。


 英介さんはほとんど瑤ちゃんのこと知らないのだから、いわずもがなの

こと。



 瑤ちゃん教えて。


 仲良しさんって言いながら私の夫を誘惑してンの? 私を欺いて。


 好きな人からの裏切りなんて耐えられない。

-

 英介さんと山波美羅のツーショットは香ばしいものが何枚もある。



 瑤ちゃんとのは、この串カツ屋で食事をしている時のものが2枚あるだけ。


 この2枚の写真を見たことで私の中の気持ちが大きく動いた。


 あれほどあった山波美羅憎し、英介憎しの気持ちがしぼみ始めたのだ。


 瑤ちゃんが英介さんと関わっているという事実、それは余りにも衝撃が

大き過ぎた。



 その為いつの間にか美羅と夫のことなど頭の片隅にあるものの、

どこかへいってしまった。



 今の頭と心の混乱が収まるのを息を潜めて待とう、そう決心した。


          ◇ ◇ ◇ ◇



だけど『瑤ちゃんのばかっ。バカバカ』という思いだけは、いくら

振り切ろうと思っても上手くいかなかった。

-


 その前にあった怒りや悲しみが次の大きな波ですっぽりと覆われてしまい、

上書きされるかのように、あれほどあった夫とその相手の女に対する憎しみが

薄ぼんやりとぼやけていくような感覚を体感した。



 少し気持ちが落ち着いてきた頃、実家に預けていた娘を

迎えに行くことにした。


『英介さん、眞奈を迎えに行くついでに久しぶりに実家に

泊まってこようかと思うの。いいですか?』と書いた文面の最後の

『いいですか?』の文言を消してLINEを送信した。



 もはや自分の思うこと、したいことは自分に決定権を持たせるのだ。


 お伺いの文言などいらないよね?


 それにおそらく美羅に会ってる夫にとっても、もう私が家にいても

いなくても無問題だろうし。



 もうこの時、私は夫と別れることを決めていた。


 後はそれを『いつ』するか、だけのこと。

 紙切れ一枚で夫なだけ。

 気持ちの中ではすでに他人認定済み。



 お別れの日を迎えるその日まで、妻という役を演じなければならない

というのは少々かったるいところではあるが、今はまだ決戦の時ではない

から仕方ないのだ。

-


『分かった、楽しんでおいで。

 夜は元々外食の予定だったから俺の方は大丈夫だよ』



 フッ、山波美羅と豪華な? 

 お食事をしてその後はお楽しみTimeかな。


 私が家にはいなくて、いつものようにわざわざ家に帰って来なくても

いいからホテルでまったりできて良かったねー。



『もう永久に帰ってくんな!』


 夫のLINEの返事を読んでとっさに放たれた自分の心緒しんしょ



 自分が放った言葉に嫌悪感を覚える。

 私は私であることを放棄しちゃだめだよね。


 私はつまらない言葉を口から吐き出すような人にはなりたくないもの。


          ◇ ◇ ◇ ◇



 その衝撃的で忘れられない日に実家の両親や娘と楽しく穏やかな時を

過ごせたのは幸いだった。


 翌日のことは何も夫に連絡を入れず、夕飯も実家で食べて帰宅した。


 こんなことは初めてのことだった。

-

 ガレージにある車と玄関にある夫の靴を確認してから

「ただいま~」と声を掛けた。



 遅くなった言い訳も、連絡を入れなかった言い訳もせず。


「お帰り~。骨休みできた?」

「うん、できた~」



 私は少し休んでから夫に簡単な夕飯を出した。


 いつもなら夫と少しでも長く一緒にいたくて、少しでもたくさん話が

したくて、同じテーブルにつき、彼が食事を終えるまで側にいるのだけれど、

今日はさっさと入浴を済ませ寝た。



 そして翌日からは

「体調不良で夜中に何度も起きてしまうのしばらく別の部屋で寝るね」

と断りを入れて同じベッドで寝る ことを止めた。



 顔を見るのも話をするのも嫌だった。

 まして隣同士で寝るなんてバツゲームの何ものでもない。


 怒涛の週末を過ごし週明けの月曜日を迎えて思うこと。


 今比奈ちゃんの預かりをしてなくて良かったよ、ほんと。


 瑤ちゃんに対して思いっきりの不信感を持ったまま昨日の今日じゃ

ないけれど、心の準備もなしに夫の浮気相手かもしれない人と会うなんて

平静じゃいられなくて修羅場ると思う。



 七夕祭りのお泊りで嫌な思いをした時も平常心を失くしてしまった。


 ましてや今回のことはあの時の比じゃないぐらい心に大きなダメージを

受けるようなことなのだ。


 私じゃなくたって同じような立場に立たされたら平静じゃいられないと

思う。


 夫婦のいざこざにまさかの瑤ちゃん登場。


 そう、ほんとにまさかよ。

 予想だにしてなかった人物。

 その人は私と交流があり、仲良しさんなのだ。



 山波美羅とは比べようもなくタチが悪い。


 身内に裏切られるっていう感覚。

 信じてた人に裏切られることほど辛いものはない。

-


 結婚相手を探すのに苦労している人たちが大勢いる昨今、自分には

物心が付いた時から決まった人がいて、何て恵まれているのだろうって

思ってきた。



 最初に決まっていた俊介くんが婚約者の座から退いたかと思うとすぐに

英介さんが手を挙げてあれよあれよという間にその席についた。


 両親から大切にされ将来の伴侶にも恵まれ、その上瑤ちゃんという

友人にも娘繋がりでできて、ほらっ、私ってやっぱり幸運の星の下に

生れついてるのよーなんて幸せ気分いっぱいで暮らしてた。



 笑っちゃうわよね。


 思い込み、そうそんなものは私のただの妄想でしかなかったのだ。


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