9話「私に嫌な思いをさせた彼らの末路は」
情報が入った。
オロレット王国は隣国によって支配され、王家であったオロレット家は潰されたらしい。
国王と王妃は拘束され後に処刑。
王女らは敵国の者たちから玩具として扱われ、王子たちはそれぞれ違った恥ずかしい目に遭わされた後に首を落とされたそうだ。
ちなみにレブスはというと、服を剥がれた状態でオロレット王国だった場所を這うようにしてじっくり一周させられその無様な姿を国民に見られた後に処刑されたそうだ。
憐れなレブス、その最期の言葉は「死にたくないよぉ」だったそうだ。
鼻水、涙、涎――すべてを垂れ流しにしながらそんな言葉を発して死んでいったようだ。
きっとあまりに情けない最期だったのだろう。
国民から笑い声も起きていたらしい。
この目で確認したわけではないけれど、そういう情報がいろんな媒体で流れていた。
で、ミルキーはというと、嘘をついて処刑から逃れようとするも侍女だった人たちから「その女は嘘つきよ!」と言われたうえそれまでついてきた嘘をすべて暴露され、敵国の者に『存在価値がない嘘つき』と判断されその場で生命を絶たれたそうだ。
こうして、レブスもミルキーも、どちらも命を落とすこととなったのである。
その話を聞いた時、私はちっとも悲しくなかった。それどころか嬉しささえあったくらいだ。ミルキーは一応実の妹だけれど、彼女のことでさえ悲しくはなかった。
私を陥れた奴らが死んだのだ。
もう何も言われなくて済む。
こんな嬉しいことがこの世にあるだろうか。
オロレット王国は、これから、隣国に入り再び動き始める。
どんな道が待っているか定かではない。
けれども、きっと、国民たちはその場所でそれなりにやっていくのだろう。
◆
「オロレット王国、滅んだようですね」
お昼時、自室となっている部屋で寛いでいると、そこへやって来たロヴェンが声をかけてくる。
いつもとは少し違った、明るくない雰囲気。真面目な話をしています、と言っているかのような調子で言葉を発している。やはり、話題が話題だからだろうか。生まれた国を失った私に気を遣ってくれているのかもしれない。
「そうですか」
どのみちあそこへ戻る気はなかった。
だから滅ぼうがどうなろうが正直どうでもいい。
心ないと言われるだろうか?
だとしても、あの国への良い想いはとうに潰えている。
「……悲しいですか?」
椅子に座っていた私の顔を覗き込むようにして訪ねてくるロヴェン。
「いいえ、まったく」
「はっきり仰いますね」
「ええ、だってそれが本心なんです」
「そうですか……」
彼へ目をやり。
「幻滅しました?」
問えば。
「いえ、それだけのことがあったのですよね」
彼は首を左右に振った。
「そういうことなのだろうと思います」
「心ない女ですよね、すみません」
「いえ! 心ないなんてことありません。だって! レルフィア様は僕たちの国のために力を貸してくださったではないですか! 凄く心優しかったです。なのに! 心ない、なんて! そんなこと、思うはずがありませんよ!」
ロヴェンは熱のこもった調子で勢いよく言葉を大量に並べた。
「それで、レルフィア様、これからどうなさるのですか?」
「これからですか?」
いきなり話題が変わる。
「はい。だって、オロレットへはもう戻れませんよね? 王子たちがいなくなったとしても、国そのものがあの状態では」
少し考えて。
「そうですね」
短く返した。
そうだ。
あの国へは帰れない。
他国に支配されることになった土地へ今さら帰っても良いことなんてない。
もっとも、最初から戻る気なんてないけれど。
「どうなさいます?」
「ロヴェンさん」
「え? 何でしょう?」
きょとんとするロヴェン。
彼はきっともうすぐ私が言う言葉を読んでいないはず。
「結婚、しませんか」
唐突過ぎるとは思うけれど。
でも今しかない。
言う機会なんて無限にはないのだから。
言える時に言ってしまわなくてはならないこともあるのだ。