7話「危機にはその力を」
オロレット王国、城内。
「何だと!? 拒否された!?」
広間に国王の声が響く。
「はい……父上、申し訳ありません」
頭を下げているのはレブス。
王子とはいえ父親の前では大きな顔はできない。
それに、己の勝手な婚約破棄が招いたことゆえ、なおさら小さくなっているしかないのだ。
「役立たずが! これで万が一我らが滅ぶようなことがあったら、すべては婚約破棄したお主のせいだぞ!」
国王は激怒している。
今にも倒れそうなくらい。
顔を真っ赤にして。
「……ですが、彼女は悪女です。共に生きることなどできはしません。裏でこっそり妹を虐めていたような女ですよ」
「関係ない!!」
「なっ……」
「姉妹のいざこざなどどうでもよいのだ! 国が平和なら、いや、我らの身が無事であれば何でもいい!」
「……父上、それはさすがに」
日頃は厳かな空気の場所だ。けれども今はそんな空気ではない。非常に刺々しい空気で満たされている。それこそ、一歩進むたびに足裏から血が吹き出そうなほどに。それほどに、間を満たす空気には鋭い棘がある。
「それに! その件が事実という証拠はないのだろう!」
「ミルキーが嘘をつくはずがありません」
「そういうところが馬鹿だと言っているのだ! 勝手によく分からぬ女を信じ込みおって!」
「彼女は嘘など言いません、嘘をついているのは姉です」
「もうよい! だが……彼女を呼び戻せねば、この国は、いや、我が家の地位すらも危ない」
国王はもやもやいらいらしていた。
「レルフィア殿をこの国へ連れ戻せ」
「え」
「それすらできぬのなら縁は切る!!」
「父上……」
「いいな、では、そういうことだ。さっさと働けぃ」
◆
その日、私は、いつもと変わりなく道を歩いていた。
すると物陰から急に人が現れて。
魔族らしい特徴は何もない男数名が私の口を塞ぎ縄で身を縛った。
「は、離してください……!」
訴えてみるけれど。
「わりいな嬢ちゃん、これは仕事なんだ、だから無理だ」
「捕まえろって上から言われてるんでね」
上から?
捕まえろって?
……何の話だろう。
上、ということは、偉い人から命ぜられているのだろう。
でもロヴェンは関係ないはず。
彼はこんな危険なことを発案する人ではないだろうから。
……だとしたら、オロレット王国?
「オロレットからの命令なのですか!?」
思いつきで言ってみると。
「ああ、そうだよ」
そう返ってきた。
「レブス王子からの命令さ」
「嬢ちゃん、あの人のことよく知ってんだろ? 何か因縁があんのか? ま、俺らはなーんにも知らないけどよ」
ああそうか、やっぱり。
何となく思う。
レブスはまだ諦めていなかったのか、あるいは、あの後国王から何か言われて行動に移したのか。
「とにかく捕まってくれな」
「暴れちゃ危ないぜ? じっとしてな」
このままではオロレット王国へ連れ戻されてしまう。
あの忌々しい地へ帰ることになる。
しかも己の意思などまったくもって関係ない状態で。
そんなのは絶対に嫌――だから私は精霊に頼ることにした。
戦いの精霊を呼び、解放してくれ、と頼む。
お返しなら何でもするからと付け加えて。
すると突如光が発生。
そして目の前に幻影にも思えるような白銀の存在が現れる。
『解放、しよう』
直後得体のしれない光の爆発が起きた。
そして気づけば周囲の男たちは燃え尽きて消えていた。
「ありが、と――」
礼を言おうとして、私は意識を手放してしまった。
目の前の精霊に礼を言いたい。
そう思っていたのに。
最後まで言葉を紡げなくて。
◆
「――様、レルフィア様!」
次に目が覚めた時、私は、知らない場所にいた。
ここはどこだろう?
それより、私は何をしていたのだろう?