6話「いつからか」
その後も精霊に力を借りてルトレー防衛を進めた。
それが私の役割。
たとえ負担はあっても迷いなくその道を進める、それは、この道で間違えていないと思えるからだ。
「レルフィア様! お疲れ様です! りんごをどうぞ!」
「ありがとうございます」
「レルフィア様、こういうのはどうです? お好きかしら、猫に似せた梨です」
「まぁ! とても美味しそう!」
私は次第に皆から愛されるようになって。
そして最近はいろんな人たちから気を遣ってもらえるようになっている。
今、私を悪く言う人はほぼいない。
そんなある日、私の前へ、憎しみしかない人物二人が現れた。
「お姉さま、お久しぶり」
「レルフィア、久々だな。驚いたぞ、こんなところにいたなんてな」
レブスとミルキー、元婚約者の王子と実の妹だ。
「今日は頼みたいことがあって来た」
「お聞きする気はありません」
「聞く気がなくとも言うさ、聞けよ。拒否権なんぞない」
「……何ですか」
「君、我が国へ、オロレットへ戻れ」
レブスは信じられないことを言った。
オロレットへ戻れ、と。
一度は残酷なやり方で切り捨てたのに。
「お断りします」
はっきり言おう。
あの国とはもう無関係でありたいのだ。
「あーはっはっは! お姉さまったら、断れると思っていらっしゃるの? 愚かね、無理に決まっているじゃないの! だって貴女、王子の妻の姉なのよ?」
この時私は初めて知った。
レブスとミルキーが結婚したのだということを。
狙いはそれだったのだろう、最初から。
「そういうことだ、オロレットへ戻れ」
「いいえ、戻らないわ」
睨んでやる、彼らは敵だ。
「オロレットが何をしてきたか、ここへ来て知りました。ですからそちらへは戻りません。私はここで生きてゆくと決めたのです」
精霊を呼び、それに刃を突きつけさせる。
「帰ってください。それができないなら、ここで仕留めさせていただくことになります」
淡々と言い放ってやる。
負けたりしない。
「貴様っ……!」
「なんて酷い……! お姉さま……!」
レブスとミルキーは不快そうな顔をする、が。
「まぁいい! 貴様のような裏切り者とは縁を切る! 帰るぞ、ミルキー」
「お姉さま最低ね、死ねっ」
二人は去っていった。
何とか帰ってもらうことができた。
ひと安心。
だが、嫌いであろう私に力を借りようとするということは、オロレットもきっとなかなか厳しい状況となっているのだろう。
その後聞いた話によれば。
オロレットは今、これまでとは逆に隣国から侵略され、国内までも少しずつ破壊され始めているそうだ。
そしてそのこともあって国民らも混乱。
さらに人々の動揺と不安によって国の治安も悪化。
今では統治者である王家への不満も高まってきているらしい。
「レルフィア様! 聞きましたよ、王子が来たって……大丈夫でした?」
「ええ、大丈夫です」
レブスらが来たと聞き、ロヴェンはすぐ駆けつけてくれた。
彼は私のことを心配してくれていた。
それも真っ直ぐに。
「本当ですか!? ああ、でも良かった……安心、しました、良かった……」
「心配かけてしまってすみません」
「何かされていたら、と……ああ、本当に、汗だくになってしまいました……」
「ごめんなさい。ロヴェンさん、大丈夫ですか」
「あ、いえ! レルフィア様のせいではありません! 申し訳ありません」
ロヴェンはいつも優しい。
そして真っ直ぐで温かい。
いつからか、そんな彼に惹かれ始めている私がいる。