4話「進展は早速」
「ロヴェン様!! 報告があります!!」
私とロヴェンは出されたお茶を飲んで喋っていたのだが。
戦いの精霊に国防をお願いしてから一時間ほどが経った頃だろうか、二人きりだった部屋へ青い顔をした女性が駆け込んできた。
「何です?」
女性に向けて言葉を放つロヴェンはどことなく凛とした雰囲気がある。
私と喋っている時の彼とは少し違う。
丁寧語を使っているところなんか変わっていないのに。
「国境付近にて、精霊による敵軍への謎の攻撃が発生している模様です!!」
「なっ……もう!?」
「あ、あの、ロヴェン様、何かお心当たりが?」
怪訝な顔をする女性、その髪は白くもこもこしている。
若そうな見た目なので老化によって頭が白くなったわけではないのだろう……多分。
「実は、精霊遣いのレルフィア様に頼んでもらったのです」
「何をですか?」
「オロレット軍の消滅を」
「ええっ!」
女性は両手で口を隠すようにしながら驚いていた。
どうやらその件は皆が知っていることではなかったようだ。いや、だって、そうでなければ女性が驚くはずがないだろう。だが、私は、正直意外だと思った。彼はすべてを周りに話しているのだろうと思っていたのだ。まさか周囲には秘密にしていたなんて思わなかった。いや、まぁ、もしかしたら女性が関係の薄い者だからなのかもしれないけれど。それでも驚きだ。
「そう、でしたか……」
女性は戸惑ったようにこぼす。
それからこちらへさりげなく目をやって。
「それは……ありがとうございました」
気まずそうな目をしていた。
人間である私を嫌っている? いや、そういう目ではない。憎しみとか恨みとかは特にはなさそうだ。でも、だからといって親しげでもない。初対面だから、というには、何とも言えぬ色がある。複雑な想いを抱えている、とか? だろうか?
「ではこれで失礼いたします」
「はい、報告ありがとうございました。また何かあれば」
「承知いたしました」
一礼し退室する女性。
その後ロヴェンは教えてくれる。
「彼女は以前、オロレット軍の人間に捕まったことがあるようなのです」
「そんな……」
「あ、でもですね、特に何かされたわけではなく無事救助されたようなのですが」
何もされなかったから良い、なんて、言えるわけがない。
実害はなくてもきっと怖かっただろう。
人間の行いによって嫌な想いをしたことに変わりはないはずだ。
「だから人間に複雑な想いを?」
「そうですね、この国にはそういう者がたまにいます」
「そうですか……では私は隠れていた方が良さそうですね、皆さんのトラウマを蘇らせてしまってはいけませんし」
「あ! お気遣いなく!」
「ですが」
「レルフィア様のことは僕が『偉大な女神』ときちんと伝えていますので!」
「女神、て……」
思わず、ふふ、と笑い声がこぼれてしまって。
「僕、おかしなこと言いました!?」
おろおろさせてしまう。
「いえいえ。でも、少し笑えてしまって」
「笑え……?」
「そうです。だっておかしいでしょう? 偉大な女神、だなんて、さすがに大層過ぎじゃないですか」
「は、はは……そうですか……ですが! 僕にとってはそうなんです!」
「本気、ですか?」
「はい!」
ああ、彼は、本当にそう思ってくれているのだな。
しかも変な意味とかお世辞とかでなく。
本当に、真っ直ぐに、純粋にそう思っているのだろう。
彼の目を見れば分かる。
そんな気がする。
「でも、女神とかは、恥ずかしいのでやめてください……」
「ええっ」
「私はあくまで精霊遣いですので」
「すみません。では! そう伝え直しておきます!」
ロヴェンは素直だった。