3話「警戒されながらも」
オロレット王国は魔族の国というものを認めない。
そして異なる血筋を尊重もしない。
その生命をすべて都合の良い自国の労働力とするべく圧をかけ、魔族である彼ら彼女らを支配しようとしている。
――魔族の国ルトレーに移り住んで初めて知った。
「あの子、人間なんでしょ? ここへ入れて大丈夫なの?」
「何でもあの国の王子の婚約者だったとか。精霊遣いで協力するとか言っているみたいだけれど、実はスパイじゃないのかしら」
そんなところへ飛び込んだのだ。
皆私を警戒していた。
けれどもそれは当たり前だと思うし仕方のないことだと思う。
「信じますぉーよぉー、だって、ロヴェン様が連れてこられたのですぅーくぁーらぁー」
「あんた呑気過ぎ」
「ですぅーけーどぉ、ロヴェン様を信じるすぃかぁー」
「もういいって! あっち行きな」
「うほほほぉぉぉぉぉーいぃぃぃぃ……ぃぃぃんぐぅぅぅぅ……泣きそぅですぅ……」
「いちいち騒がないの、しつこいわねぇ」
「黙ってなさい」
オロレットにいた人間として、申し訳なさを感じる。
直接は関係していないけれどそれでも一言謝りたいくらいだ。
「色々言われるやもしれませんが、どうか、お許しください」
「いえ、気にしていません」
「そうなのですか?」
「ええ。あちらでは非がなくてもボロクソに言われていました、ですからあれこれ言われることには慣れています」
するとロヴェンは抱きついてくる。
「レルフィア様……お可哀想に!!」
いきなり抱きつかれて困惑。
けれども殴り返したりはしない。
そのまま時の経過を待つだけ。
「ロヴェンさん、ところで、重要な話って?」
「あ、それですが」
「はい」
「……僕と! 結婚、してください!」
間があって。
「えええ!?」
思わず叫んでしまう。
「あの、それは一体? 話が違います!」
「あ……前後間違えました……」
「ええっ」
いや、前後ということは、完全な間違いではないのか。
今言う気ではなかっただけでいずれは言う気だったのか。
……驚いた。
「まずは、先に、精霊に頼んでこの国に攻め込むオロレット軍を消滅させてほしいのです」
「いきなり豪快ですね」
「す、すみません! お礼はきちんとしますので! お金? とか? 美味しい料理、とか? どうですか!?」
「そんなそんな、お礼はいいですよ」
「それは駄目です! お礼はきちんとしなくてはなりません!」
妙に頑固だった。
「しかしレルフィア様の金髪はとても美しいですね、まるで女神のようで――って、その話じゃなかった!」
どじっこにもほどがある。
「精霊に力を貸してほしいと頼んでください」
「ええ、分かりました」
できるかどうかは分からない。
でもやってみよう。
――少しして、私は意識を現実世界へ戻す。
「交渉できました」
「本当ですか! さすが麗しきレルフィア様!」
いちいち言葉が多い……。
恥ずかしいのでやめてほしい……。
「戦いの精霊にお願いしました、この国を護ってほしい、と」
「そうですか! それで?」
「協力してくれるとのことでした」
「本当ですか!」
ロヴェンは嬉しそうだった。不思議なことだけれど、その顔を目にしたらこちらまで嬉しくなった。幸せそうな顔をしている彼は、純真な子どものようで、とても可愛らしい。そして、見ている者の心まで温かくしてくれる。まるで、彼こそが天使であるかのようだ。
藍色の肌で、角のようなものも頭部から二本生えていて――私たち人間とは異なった部分が多い容姿だけれど、それでも愛おしさを感じる。
きっと容姿なんて関係ないのだろう。
重要なのは心。
そしてその美しさ。
それこそが種族を越えた絆を生む。