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孫子の兵法に説かれている戦略についての概説

作者: 八神あき

 孫子で繰り返し説かれているのは事前の準備の重要性である。具体的には彼我の戦力の考察、情報収集、軍事の充実、戦争計画の構築がある。

 戦力の考察、と情報収集については地形編10、用間編13に詳しい。

 地形編10の末尾にこうある。「我が卒のもって撃つべきを知るも、而も敵の撃つべからずを知らざるは勝の半ばなり。敵の撃つべきを知るも、而も我が卒の撃つべからざるを知らざるは勝の半ばなり。我が卒のもって撃つべきを知り敵の撃つべきを知るも、而も地形のもって戦うべからずを知らざるは勝の半ばなり。

 故に兵を知るものは、動いて迷わず挙げて窮せず。故にいわく、彼を知りて己を知れば、勝すなわち危うからず。地を知りて天を知ればすなわち勝、全うすべし」

 要約すれば自軍の活用法を知り、敵の状態を知り、さらにいつどこで戦うのが有利かを知っていれば勝てる、ということになる。

 また用間編13では敵状について知るには経験・統計による予想や、理論的な推測ではなくかならずスパイを放って直接情報を得るべきだと説く。

 これらの情報を鑑みて勝算があるかどうか、あるならどう戦うかを考える。そして戦う前に絶対に勝てる状況を整えておく。無為無策のまま戦えば負けるし、もし勝てたとしても泥試合の末の勝利になり、戦争は国家の利益を追求する事業である以上、損耗が大きい勝ち方では勝ったとは言えない。

 そして国家の利になるかどうかの損得勘定によって開戦するか否かを決めるべきで、感情で戦争をするべきではないと解く。フランスとドイツの不仲に起因する世界大戦も、孫子的な考えから言えば愚行でしかない。

 さて、開戦したあと重要になる要素は形、勢、虚実の三つだ。

 形とは軍の配備のことだ。例えばチェスだとポーンやビショップといった駒が互いを守り合うようにしながら、駒を展開していく。駒同士が守り合うことによって敵につけいる隙を与えない。逆に相手の駒の連携が悪ければそこにつけいって攻撃する。

 戦争とゲームは同じではないが、共通する要素はある。チェスの、自身の隙を作らず駒を展開しながら、敵に隙が生じるのを待つというのはその一例だ。

 また、駒同士で守りを固めたとき、すべての駒が守るために配置していては攻めることができないので、攻めるための駒も必要だ。形編第四の冒頭文にいわく、「孫子いわく、凡そ用兵の法は先ず勝つべからずをなしてもって敵の勝つべきを待つ。勝つべからずは己にあるも、勝つべきは敵にあり。ゆえによく戦う者は、よく勝つべからざるをなすも、敵をして勝べからしむることあたわず。ゆえに曰く、勝は知るべし、しかしてなすへからずと。

 勝つべからざる者は守りなり。勝つべき者は攻めるなり。守りは即ち足らざればなり。攻むるはすなわち余りあればなり」と。

 必勝の形をなしたならば、あとは勢いのままに押し切ることができる。同じく形編第四末尾にいわく、「勝者の民を戦わしむるや、積水を千仞の谷に決するが如き者は、形なり」

 生じた勢いを殺さないためには軍隊を統率し、臨機応変に対応する必要がある。さらに敵に付け入る隙がなければそれを作らなければならない。そのためには偽の情報を流すなどして撹乱し、敵の動きを誘導する。敵の兵力を分散させ、こちらは集中することで敵の防御を突破する。

 兵力の充実と分散、防御の硬い場所と薄い場所、勢いのある場所とない場所、加えて意識の向いている方向と疎かになっている方向、これらはすべて虚実という言葉で表されている。自身の実によって敵の虚を討つ。自身に虚を作らず、敵に虚が生じるよう誘導する。

 形を成して勢を生じ、実をもって虚を討つ。これが戦争の勝ち方だ。

 以上の理論的な戦略に加え、戦場における観察眼、地形の特徴の理解、火攻めの活用、スパイの活用を併せて戦うことで勝利を確実にする。これが孫子の説く戦い方だ。

 最後に、戦争における知略の重要性について述べる。

 孫子の冒頭文には、戦争を行うときに重要な要素として五つをあげている。一に政治、二に地形、三に時、四に将軍、五に法律。そして将軍に必要な要素は、智、信、仁、勇、厳の五つだと説く。すなわち、智は五つの要素のひとつの、さらに五つのうちの一でしかない。今日ではやたら智略を重視する風潮があるが、戦争とは本質的に力の支配する場であり、智は力を発揮する際の補助的要素でしかない。

 イタリア・ルネサンスの誇る知者、ニコロ・マキャベリは軍事についても学び、自身軍事書まで書いている。しかし実際に軍を率いれば惨敗だった。対してマキャベリと同時代の人、チェーザレ・ボルジアは頭脳ではマキャベリより遥かに劣るが、戦場では強かった。

 ちなみに、チェーザレの勝因について孫子の文中にある言葉で説明すれば次のようになる。「兵の情は速を主とす。人の及ばざるに乗じて不愚の道により、その戒めざるを攻むるやり」

 兵の運用は速さが第一。人の行動が追いつかないように、相手の予想しない進路をとり、警戒していない場所を攻撃する。

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