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取り憑かれた仮面令嬢

 戦いに勝ったサリーは倒した相手が蘇生するのを見ながら呼吸を整えた。その様子は実に気味悪いものだが、自分が殺したという事実を消し去ってくれていると思って我慢する。


「ナイアがノーカンだと言っていた気持ちがわかりましたわ」


 本人が実際にどの程度まで考えているかは不明だが、サリーは心の均衡を保つためにそう思い込むことにした。


 ある程度呼吸が整うとサリーは自分の状態を確認する。まずは無傷で切り抜けられたことに安堵した。負傷していては連戦できない。


 また、今の攻防で滅びの杖を素人の自分でも熟練者並に扱えることが確認できた。リトルキッドは嘘を言っていなかったわけだ。


 しかし、技術を無理矢理底上げされただけなので、体力などそれ以外がまったく追いついていない。これがかなり厳しかった。


 落ち着いてきたところでサリーは周囲に顔を向ける。すると、ちょうどルナがアラン王子を殴り倒したところだった。あちらも勝負がついたようである。


「やったわ! これであたしの勝ちね!」


 飛び跳ねてから決めのポーズをとるなどルナが勝利を手に入れてはしゃいでいた。


 これで終わったと安心したサリーだが、リトルキッドの表情が冴えないことに気付く。


「リトルキッド、どうかしたのですか?」


「王子に悪霊が取り憑いていると思ったんだけど、ルナが殴ったときの様子だと滅ぼせていないように見えたんだよね」


「つまり、王子には取り憑いていなかったと?」


「そんなはずはないんだ。途中までは禍々しい気配を感じていたし、あの暗黒剣は悪霊が取り憑いていないと出現させられないから」


 何やら雲行きの怪しい説明を聞いたサリーは眉をひそめた。このまま見失ってしまうとまた一からやり直しだ。


 一体どこに行ったのだろうとサリーが首をかしげたとき、ルナが地面から何かを拾い上げた。それは小さく透明な石で、まるでダイヤモンドのように輝いている。


「あ、宝石見っけ! やった、今日はツイてるわ!」


「宝石? こんなところに落ちていたのですか?」


 あからさまに怪しい話をサリーは訝しんだ。そんな高価な物がグラウンドに落ちていて誰も気付かないと思えなかったからである。


 なんと声をかけようかサリーが迷っていると、リトルキッドが叫ぶ。


「ルナ! 早くそれを捨てて! そこに悪霊が潜んでる!」


「え? ああ!?」


 忠告を受けたルナが呆然とリトルキッドを見上げたとき、突然苦しんだ。そして、宝石を持っていた右手から黒い煙が発生し、ルナの全身を覆う。


 その煙はすぐに晴れた。そこには先程までと変わらない姿のルナがいる。しかし、雰囲気がまるで違った。倒したばかりの王子たちと同じなのである。


「あははは! やっと自由になったわ! ああ、窮屈な生活だった! このときをどんなに待ったことか!」


「ルナ、どうしたんだい?」


「このクソ妖精! よくも今まで散々こき使ってくれたわね。お礼にぶっ殺してあげるわよ! あんたのくれた、こ、れ、で、ね!」


「待って、悪霊に屈しちゃいけないよ」


「なーにが悪霊よ! こんなに素晴らしい力を授けてくれる存在が悪いわけないじゃない! 本当に悪いのはそこの悪役令嬢よ!」


「ああもう、完全に乗っ取られてるじゃないか!」


 最悪の事態を目の当たりにしたリトルキッドが困り果てた声を上げた。最後の最後で欲望に突き動かされたせいで、まさかの仮面令嬢乗っ取りを実現されてしまう。


 ひとしきり高笑いしたルナはサリーへと向き直った。そして口元を歪める。


「さて、とりあえず悪役令嬢を退治しなくちゃね。そうそう、浄化なんて期待しちゃダメよ? この杖、悪い子は復活させるけど、良い子はその限りじゃないの。知ってるでしょ?」


「悪役令嬢と呼ぶのに良い子扱いとは矛盾しているではありませんか」


 どうしてそんな微妙な性能なのか不思議だが、ともかく裁きの杖で撲殺されて復活&浄化されるのは悪い子だけだ。つまり、今のサリーは殴られると死んでしまうのである。


 奇しくもゲームとは立場が逆になる形で避けたかった事態が実現してしまうとはサリーも予想外だった。こうならないように頑張ってきた今までの努力がすべて水の泡だ。


 膝から崩れ落ちそうになるのをこらえながらサリーは滅びの杖を構える。それを見たルナも不敵な笑みを浮かべながら裁きの杖を構えた。


 こうなってはもはやどうにもならない。サリーは己の生存を賭けた戦いに挑むことになった。

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