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錬金術師エマの道中記  作者: 鶏つくね
2/2

寄り道の錬金術師

展開、考えるの難しいですね。ワンフレーズごとに思いつきはしても繋がらなかったり、そのお話には合わなかったり。

それでも読んでいただけると嬉しいです。

 私は、生まれ育った村を出たあと、地図上で最も近くそれなりに大きい都市フルールを目指して、木々の生い茂る山の中を歩いていました。

「はぁ、疲れたなぁ。たしか近くに小さな村があったはずだし、そこで少し休ませてもらおう……」

 上を見上げると、自由に空を羽ばたく2羽の鳥がいて、あんなふうに空を飛べたらなぁ、などと出来っこのないことを思ったりしてしまうのです。

 時折小休憩を挟みつつあまり景色の変わらない道を進み続けること十数分。ようやく視界が開けて、目の前には休憩地と決めた村があったのです。

 そこは、多くの人が住んでいるようには見えませんでしたが、民家のような建物は、小さな村にしてはそこそこ数がありました。

 私は村に立ち入り、休息をとるために宿屋を探すことにしました。しかし見ただけでは、どれも似たような見た目の建物ばかりで皆目検討がつかないので、村の人に聞いてみることにしました。

「あの、すみません。少しお尋ねしたいんですけど……」

「はいはい、何かしら?」

 私はたまたま近くにいた、人の良さそうなおばさんに話を聞くことにしました。

「この村に宿ってありますか?」

「宿? えぇ、あるわよ。そこを真っ直ぐ行ったところに大きな気が1本、生えているでしょう? その下にベンチがあって、その方向に少し進むと建物がいくつかあるけど、真ん中が宿屋よ」

 おばさんが言うには、扉の上に看板がついているから行けば簡単に見つけられるはずだ、という事でしたので、丁寧に教えてくれたおばさんにお礼をして、早速言われた通りに歩いていきました。

「あ、ほんとだ」

 言われた通りに歩くと、確かに看板が付いた建物があって、そこには『宿屋ルポ』の文字。

 まだ少し日は高いですが、今まで長い距離を歩くことがなかった私は、慣れない足の痛みに耐えきれず、早々に宿屋の扉を開けました。しかしそこには誰もいなかったのです。

「あれ、誰もいない。すみませーん、1晩泊めて頂きたいのですがー」

 受付カウンターの奥の部屋に続く扉が少し開いていたので、聞こえるように少し大きな声で呼びかけてみました。すると、

「あぁ今行くから少し待っててくれぃ」

 とお爺さんの声が返ってきました。それから5分程経った頃でしょうか、お爺さんは腰に手を当て、もう片方の手で壁を支えにしながらようやく現れました。

「今晩泊めて頂きたいのですが、いいですか?」

 改めて要件を伝えると、紙に名前を書くように指示され、言われた通りにすると部屋の鍵が渡されました。

「困り事や聞きたいことがあったら、いつでも聞くからの」

 そう言ってお爺さんは、また壁を支えにして奥の部屋へ戻ろうとしました。それを見いて、つい思わず聞いてしまいました

「あの、腰が痛むんですか?」

「あぁ、歳のせいかね……体も思うように動かんくなってきとるわい」

「あ、あの、ちょっと待っててください」

 腰が痛いと聞いて、宿屋から飛び出して、さっき通った山の中まで戻ってきました。私が錬金術の練習をしていた時、村の人がお母さんに、体の痛みを和らげる薬を頼んでいたことを思い出したのです。

「えっと材料は……あった」

 至る所に自生している薬草をいくつか摘み、次は村で布切れを探すことにしました。ちょうど、外で洗濯物を干している人がいたので、その人に打診してみることにしました。

「あ、あの、突然で申し訳ないんですけど、もう着ない衣服や、使わない布切れはお持ちでないですか?」

「あー、あったような気がするねぇ」

「本当ですか!? それ、買わせてください!」

 小さな村だと布は貴重なもので、都市や糸を作る村からの行商人が来なければ基本は手に入らない代物だったので買おうとしたのですが……。

「いいのよお金なんて。どうせもう使わないんだし」

 対価として用意していたお金を村人は断り、家から頭を覆えるくらいの布を持ってきてくれました。この村の人には助けて貰ってばかりですね。

「本っ当にありがとうございます!! それでは!」

 私は親切なその人に手を振りながら、宿屋を目指しました。

「おまたせしました、お爺さん」

 宿屋に着いた後、貰った布切れを手のひらくらいの大きさで切り取り、これと先程採った薬草を、調合用の布で包み魔力を込めました。

「むむむ……できた!」

 そうして出来上がったのは布を体に当てることで薬効成分が作用するもの、つまり湿布でした。

「こりゃ驚いた……お嬢ちゃん、錬金術が使えるのかい?」

「えへへ、そうなんです。これ、良かったら使ってみてください。きっと痛みを和らげてくれると思います」

 そう言って、なおも腰を摩るお爺さんに湿布を使ってもらいました。

「おぉ、おぉ……たしかに楽になったわい。ありがとうねぇ」

「いえいえ、痛みが良くなったようで、良かったです。これ、予備です。今の布がダメになった時に使ってください」

 私はさらに2枚の湿布をお爺さんに渡し、ようやく自分の部屋に入りました。

「ああああーー、足いたーーーい!」

 部屋に入るなり私はベッドに転がり込み、足をバタバタさせたり揉んだりしながら、次の日の予定を考えることにしました。

「明日は何しようかなぁ。ここ、他にもいろいろありそうだし、もう少し見ていこうかなぁ。でも進みたい気もするしなぁ……」

 そんなことを考えてながら地図を眺めていると、ある事に気が付きました。

(この村からフルールまで結構距離あるなぁ…集落みたいなとこもなさそうだしどうしよう…)

 旅に出たくて出たのはいいものの、15歳の少女の体力はたかが知れています。私は、日が沈む前に村で寝袋の代わりになるものを探そうと決めました。受付のお爺さんに少し外出することを伝えカギを預け、宿屋を出ました。

「さてと、てきとーに歩いてみよっかなぁ」

 そんなこんなで歩き始めること数十分。宿屋の前に戻ってきてしまいました。どうやら、この村は円形の中に十字という形になっているようで、ただまっすぐ進んでいた私は、村の外周を1周して帰ってきてしまったのでした。

「うーん、宿屋の前に戻ってきてしまった。次は真ん中の木のほうに行ってみよう」

 村のシンボルともいえるくらい大きな木に向かう途中、ある1軒の建物に目が留まりました。特に看板とかは無かったのですが、開け放たれている扉の向こうにたくさんの本が見えたので、ここは本屋さんということなのでしょうか。私は興味に抗えず入ってみることにしました。

「お邪魔しまーす、誰かいらっしゃいますかー?」

 とても静かな屋内に声をかけてみても、返事はありません。もう一度呼び掛けてみても、やっぱり返事はありませんでした。

 外出中なのかと諦めて外に出ようとしたその時でした。奥の方から、ドサドサと物が落ちる音が聞こえてきたのです。

「えぇっ、だ、大丈夫ですか!?」

 勝手ながら奥に入らせてもらい様子を見に行くと、そこには私とそこまで年が変わらないであろう見た目の女の子と、散らばっている本がありました。

「あのー、大丈夫ですか……?」

「う~ん……はっ、ここはどこ、私は誰?」

「あ、大丈夫そうですね。よかったです」

 事故から目覚めたときの常套句を言う彼女を華麗にスルーして手を差し伸べると、なにやら「少しはノってくれてもいいじゃないですか」と文句を言いながら私の手を取り立ち上がりました。

「先ほどはありがとうございました。それで、あなたは誰ですか?」

 落ち着いた彼女の質問に、私は名前と、旅をしていて立ち寄ったのだと伝えた。

「旅、ですか? このあとのご予定とかは?」

「とりあえず花の都と呼ばれるフルールに行こうかと。明日か明後日出発するつもりです」

 そのあと少しの間お話に花を咲かせていると、実は彼女も錬金術師で、後ろにあった書物を取るのにめんどくさがって椅子を傾けたらバランスを崩して倒れてしまったのだと話してくれました。

「そういえば、ここって本屋さんなんですか?」

 私がここに立ち寄った理由を聞くと、彼女は頷き、ここにある本は特定のもの以外はすべて売り物と教えてくれました。

「エマさん、なにか見ていきますか?」

「そうですね、できたら錬金術に関する本が欲しいんですけど……ありますか?」

「あーありますよ。ところで旅をしてるって言ってましたけど、錬金術を使う時ってどうしてるんですか?」

 彼女は錬金術に関する本をいくつかピックアップしながら、そんなことを聞いてきました。私は、懐から布を取りだし、これを使っていると答えました。

「えぇー!? そんな小さい布でどうやるんですか」

 かなり驚かれたので、これに材料を包んで錬成するのだと説明をすると、大きな物や精密な物を錬成したいときはどうするのかと聞かれてしまいました。

「うぐっ、実家にはそれらを錬成できる道具があったんですけど、それを持っていくとお母さんが困るので、どこかで見つかるまではと思って諦めていたんですよね……」

 そういうと、彼女は少し悩み、便利が箱があったはずだと教えてくれました。その時私はふと思い出したのです。お母さんが、1つだけ物を収納できる小さな箱を持たせてくれたことを。

「それって、たぶんこの箱のことですよね」

「そうそう、それです……え!?」

 彼女はきれいな2度見をして、この箱があるならと、奥へ引っ込んでしまいました。取り残された私は、どうすることもできないので、とりあえず何気なく目についた本を読んで待っていることにしました。数分後、彼女は何かを引っ張って戻ってきました。

「あー重たい。お待たせしました!」

 本をどけて差し出してきたのはそこそこ大きな釜のようなものでした。彼女はこれと同じものをなぜか2つ持っているから1つ譲ってくれるというのです。

「これをその箱に入れて持ち歩けば荷物にもならないですし、大きなものを錬成するときも役に立てると思います。ほんとは家にあっても邪魔なだけですけど」

「えぇ……。でも、私何もしていないのに何かを貰うなんてできないですよ」

 私がそう言うと、彼女はそれならばと、釜の代わりに錬金術に関する本をもう2冊ピックアップして「この本を買うと、おまけでこの釜も付けちゃいます!」と言うのです。そんなに邪魔なんでしょうか。

 私は呆れながらも、実際困ることは確かにあると思ったのと、彼女のなおも押してくる根気強さに根負けして、本を3冊(おまけ付き)を買うことにしました。

「ありがとうございます〜! お陰で家の中が少し広くなりますよ〜」

 なんて恥ずかしげもなく言うのですから、彼女は相当図太いなと思うのでした。

「そう言えば、私寝袋が欲しいんですけど、この村でそういうのって売ってますか?」

 宿屋から出た本来の目的を思い出し、貰った釜を箱に収納しながら尋ねると、この村でその類のものは売ってないと言いました。

 私は寝袋を諦めて、お礼をして帰ろうとした時、そういえば彼女の名前は聞いていないと思いました。

「なんか色々ありがとうございました、えっと……」

 名前を言えずに言葉に詰まっていると、彼女は察したように口を開きました。

「私の名前、言ってませんでしたね。私はイース、イース・ライラと言います。また会いましょうね、素敵な旅人さん」

 イースは手を振って見送りをしてくれたので、私も手を振り返して本屋さんを出ました。建物の間から見えた空は赤くなり始めていて、少し長居しすぎてしまったと、その場で少し反省しました。

 私は買った本を抱え宿屋に戻り、ベッドの上でその本を読んでみることにしました。

 最初のうちは夢中になって読んでいましたが、気がつくと空は明るくなっていて、顔を洗うために鏡の前に立つと、頬の辺りに綺麗な横一文字の痕が付いていたのと、もうベッドの上で本を読まないと決めたのは、秘密のお話です。

ここまで読んでいただきありがとうございました。この先が気になった方は、ブクマ登録などよろしくお願いします。

では、ここまで読んでくれたあなたの1日が、良い日とならんことを。

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