旅の始まり!
拙い二次創作ものを数年前に投稿していただけの私が、初めてほのぼのとした作品を投稿してみます。それも一次創作で。まだまだ拙い文章ですが、何卒よろしくお願いします。
ここは、錬金術という奇跡のような魔法が浸透している世界の、どこにでもあるのどかな村のとある一軒家。そこには、行商人であまり家には帰らない父カールと錬金術師の母ソフィア、一人娘のエマの3人家族がいました。今年で5歳になるエマはとても好奇心旺盛で、気になるものはとことん追いかけてしまいます。そんな彼女には、自分の家の中ですら、広大な未知の世界なようで。ドタドタと元気に走って、表紙が少しボロボロになっている本をどこかから持ってきたのです。
「お母さん! この本はなあにー?」
「あら、これはお母さんが昔旅をしていた時に書いていた日記ね」
ソフィアは娘から本を受け取りパラパラとページをめくって言いました。
「旅!? お母さん、旅をしてたの!?」
「えぇそうよ。今から10年くらい前かしらね」
ソフィアは懐かしそうに、ペラペラとめくっていきます。エマは、母親が一人で読み始めたのが気に食わなかったのか、ふくれっ面で抗議をしました。
「エマにも読ませて!!」
「えぇ、いいけど、読めるかしら? はい、どうぞ」
ソフィアは、きっとすぐに読めなくて返してくるだろうと思い、彼女に渡してみることにしたのです。
「えーと、『今日は……の村に……した。これは、……の……』?? わかんない!」
日記は筆記体で書かれていたり、字が少し霞んでいたりしたので、彼女の予想通り、すぐに返してきました。しかし、少し違っていたようで……。
「お母さん読んで!!」
目をきらきらさせて、エマはそんなことを言いました。
「え?いいけど、寝る前でもいいかしら?」
「わかったー!」
それから毎日、フィリアはエマに、自身の旅の思い出を語って聞かせることにしたのです。
~数年後~
「お母さん!私、旅をしたい!!」
初めて母親の旅物語を聞いた時から各地を旅することに羨望を抱いてきたエマは、突然こんなことを言い出したのです。
「やっぱり言ったわね」
ソフィアは、日記を読み聞かせ始めた時から、いつかそう言う時が来るであろうことを考えていました。
「旅に出ることを否定はしないわ。でも、条件があるの」
「条件?」
彼女が条件を示したのは、ある程度は自分で対処できるくらいの実力がなければ、旅に出た先で苦労することになるのを防ぐためのものでした。
「それはね、旅に出る前に錬金術師として認められるくらい腕を磨くこと。1年間、錬金術を練習して、私が認めるくらいになること」
そうすれば行ってもいい、とソフィアは言ったのでした。
「本当に合格したら旅に出てもいいの!? 私頑張るよ! 絶対合格して旅に出る!!」
その日から、母親の持つ書物を読んで、時々教えを乞いながら、エマは試験に向けて並々ならない努力をするのでした。
~1年後~
「お母さん! 1年経ったよ! 行ってもいい!?」
エマは待ちきれないというように、目をキラキラさせて母親に詰め寄りました。
「気が早いわよ、エマ。私が認めたらって、去年言ったでしょう? だからエマ、これから試験を始めるわ」
そう言って、上着を羽織って彼女は家を出ました。エマは緊張しているのか、何も言わずに母親の背中を追いかけるのです。たどり着いたのは、家の近くにある森を抜けた先にある少し開けた原っぱで、ソフィアはエマと距離を置くように、少し遠くのほうにいました。エマが追いつこうとして駆け出したのを、彼女は手で制して、上着の内側からなにかを取り出しました。それを天に掲げると、それは光りだして、次の瞬間、エマの目の前には、とても大きな岩の巨人が立っていたのです。
「わぁぁっ!?」
「エマ、今まで教えた錬金術の知識を存分に使って、このゴーレムを倒してみなさい。これを突破することが、私からの試験よ」
驚く愛娘をいつになく真剣な眼差しで見つめ、ソフィアはそう言いました。
「……うん! 私、できる限りやるよ。見ててねお母さん!」
あまりに巨大なその見た目に怖気づきながらも、これの後に待っているはずの広い世界を思い浮かべ、ゴーレムに向き合ったのでした。
「まずはこれで…! できたっ、爆弾! えいっ!!」
彼女は懐から取り出した光る布に、材料を詰め込み魔力を込めて爆弾を調合し、ゴーレムの脚に向かって投げつけました。しかし、その大きな爆発の後、煙が晴れたあとに現れたのは、足の一部が欠けただけのゴーレムでした。
「うそぉ!? 今の結構自信があったんだけどなぁ……」
エマは軽く落ち込み、次の調合をしようとしたその時。爆弾を自身への攻撃と判断したゴーレムが、大きな腕を振り上げ、エマに向かって振り下ろしたのです。
「ちょっ!? あぶなっ!」
今までゴーレムが動かいていなかったので、油断していた彼女は、なんとか寸でのところでその攻撃を避けて、ソフィアに抗議しました。
「お母さん! このゴーレム攻撃してきたんだけど! 聞いてないよ!」
「えぇ、だって言ってないもの。誰も攻撃してこないとは言ってないわよ」
「いじわる! もう怒ったからね!」
本気になった彼女は、砕けたゴーレムの破片を拾い上げ、先ほどの爆弾の材料と一緒に布に包みこみ魔力を込め、布を取った彼女の手に握られていたのはハンマーのようなものでした。
「もう1個…!」
できたばかりのハンマーと、服のポケットから取り出した白い玉を布に包みこみ、取り出すと先ほどのハンマーが2つ、彼女の両手に握られていたのです。
少し離れた所から愛娘の様子を見ていたソフィアは、その術を見て目を見開いたそうです。
(今のは複製術……? 私は教えていないのに、あの子いつの間に……)
ゴーレムはもう1度ゆっくりと腕を振り上げエマに狙いをつけ、その重さを振り下ろしました。地面が大きく揺れ、土煙が舞い上がり視界が悪い中、ゴーレムの足元に駆け出し、爆弾が当たった脚を目掛けて魔力を込めたハンマーを思い切り叩きつけました。すると途端に、ゴーレムの頭上だけ黒雲が渦巻き、次の瞬間、雷が落ちてきたのです。肩に直撃したゴーレムは不自由な関節を動かし身体を悶えさせ、呻くような音を上げて膝をつきました。
「もう1発いくよ! えいやーっ!!」
エマはその時を逃さずゴーレムの垂れた腕を駆け上り、頭目掛けて、ありったけの魔力を込めて叩きつけました。すると、先ほどよりも厚く渦巻く黒雲が頭上に現れて、狙い通り、雷はゴーレムの頭に直撃しました。
「うわぁぁぁっ!?」
しかしそれは少し強すぎたようで、衝撃で彼女は吹き飛ばされてしまいました。
「エマ!」
それを見たソフィアは駆け出し、落ちていれば背中を強打していたであろう愛娘を見事捕え、そのまま強く抱擁しました。
「エマ、凄いわね。あのゴーレムを本当に倒してしまうなんて。そこそこ魔力を込めていたから、割と強い個体だったのに」
エマは母親の腕の中でもがきながら、何とか顔だけ出して、屈託のない笑顔を向けたのでした。
「この1年、本気で練習したからね!!」
「よく頑張ったわね。この結果でもって、エマ、あなたが旅に出る許可とします」
ソフィアはエマの頭を撫でながら、試験を突破したのだと、そう告げたのでした。
~数ヶ月後~
「地図よし、調合セットよし、お着替えよし、お金よし。うん、忘れ物はないかな! それじゃあ、お母さんお父さん」
試験合格の後、父親に何も言わずに行ってしまうのは少し気が引けて、帰ってくるまで待つことにしたら数ヶ月が過ぎてしまったのですが、無事に出立の準備を整えて、エマは両親と向き合っていました。
「エマ、父さんが帰れなかった内に、とても立派になったんだな。父さんはとても嬉しいよ…!!」
父カールは、涙を流しながらそんなことを言いました。
「エマ、これからの旅路は決して楽なことばりじゃないわ。それを忘れないでね」
「うん、わかってるよ。ありがとう」
エマは少し俯いて、でも直ぐに笑った顔を両親に向けました。
「それとエマ、これを持っていきなさい」
そう言って母親が手渡してくれたのは、何やら小さな箱。それと、
「日記帳?」
「この箱は、何でも1つだけ入れることが出来る箱よ。それとこの日記帳、出来れば、毎日書くのよ。楽しいことだけじゃなくて辛いことでもいいの。私たちは、あなたがいつか帰ってきた時に、その日記を読むのを楽しみにしているから」
彼女は、エマが自身の日記に影響されたことを嬉しく思い、自分が使っていたものと同じ日記帳を、この日の為にと用意していたのでした。
「……うん!」
「それから、覚えていて欲しいことが3つ。『危ないと思ったら、迷わず逃げること』、『人との出会いは大切にすること』、最後に『いつか必ず、帰ってくること』。いい?」
「うん! 絶対に帰ってくるから! だからその時を楽しみにしててね」
ソフィアは静かに頷くと、エマの目を見つめました。
「気を付けてね、行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃい…!!」
「行ってきます……。行ってきます!!」
ソフィアは微笑みながら、カールはなきながら、元気よく戸を開けて旅立つ愛娘を送り出したのでした。
「行っちゃったわね」
「……あぁ、行っちゃったな」
娘を見送ると同時に感じるこの嬉しさと寂しさを、ソフィアは自分の母親も、こんな感じだったのだろうかと、軽く考えたのでした。
「……」
一方で、家を出たエマの足は3軒ほど民家を通り過ぎたところで止まっていました。何度も何度も後ろを振り返り、戻ろうとする足を抑えながらも、エマは俯いて、今にも泣き出しそうになっていました。
「……お母さん、お父さん……」
脳裏によぎるのは、生まれ育った家での楽しかった記憶。しかし、彼女は抱きしめるように、大切に持っていた日記帳を見て、改めて決心を固めました。
「…行ってきます」
最後にもう1度だけ振り返り、両親のいる生家に別れの挨拶をして、反対側へと歩き出したのです。
こうして、私、エマ・ラインウェバーの旅は始まったのでした。
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