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ハロウィーン アラン

よくよく考えたら改訂版を小説の後に載せる意味が分からなかったので消しました。これは書いたはいいが載せるタイミングを失ったSSです


 いつものように小説を書いていると、家の外からノックの音が響いてきた。

 窓から見える景色はすっかり夕暮れで、来客というには遅い時間帯だ。


「こんな時間にいったい誰かしら?」


 覗き窓から来客の姿を確認すると、そこにいたのは見慣れた金髪碧眼の青年アランだった。

 しかし、いつものバッチリ決めた正装ではない。

 もふもふとした白い毛皮を首に巻き、髪をオールバックに纏めている。

 シャツというには丈の短く、ヘソだしと形容するに相応しい格好をしていた。


「その格好はどうしたんですか?」


 扉を開けて、思わず上から下までじっくりと観察してしまう。

 ヴィジュアル系なファッションがこの世界にあったことに驚いていると、彼は髪をかきあげた。


「知っているかい、レティシアさん? 今日は君が不当逮捕から解放されてちょうど一年。慰霊祭(ハロウィーン)と君の解放を兼ねて各地ではお祭り騒ぎだ!」

「はろうぃーん……あぁ、なるほど」


 ついつい前世の価値観で考えてしまうが、ここは異世界。

 お盆といった日本古来の風習の延長線上にハロウィーンがあると思いがちだが、この世界では死者に対する概念が違う。

 死は身近なもので、死者は守護霊として遺族を守るという考え方があるのだ。

 死を恐れるということは守護霊を遠ざけるということ。

 死を肯定的に捉える文化が強く根付いている。

 その為、故人を忍ぶお葬式では大食い大会やら合唱団のコンクールが行われる。

 ハロウィーンとは、守るべき遺族を見失った死者への道標も兼ねた収穫祭なのだ。


「普段は清廉潔白を口煩く言う教会も、今日この日だけは口を噤む一大イベントだ!」


 どんちゃん騒ぎする口実を求めるエネルギッシュな若者に、このハロウィーンというお祭りが目に留まり、最近は『死者の道標になる為だから』という理由で奇抜なファッションを打ち出す裁縫店もあるとかなんとか。

 その点では、前世でも今世でも意味は変わらないのかもしれない。


「というわけで、レティシアさん! 僕と一緒に街へ繰り出そうじゃないか!」


 満面の笑みで私に向かって手を差し伸べるアラン。

 数秒だけ書きかけの原稿と悩んで、日頃のアランの助力を思い出して執筆欲に蓋をする。

 キリのいいところまで書けたから、と自分に言い訳をして私は彼の掌に自分の手を重ねた。


「何も用意していないんですけど、それでも良ければいいですよ」

「問題ないさ!」


 私の手を握り返したアランが、もう片方の手で指をパチンと鳴らす。

 すると、側に控えていたアランの護衛の一人がさっとアランに赤い布を渡す。


「君がこの前、孤児院に寄付した絵本から着想を得て制作した赤ローブだ」


 私の手を離すと、アランはバサリとローブを広げた。

 前開きのポンチョで、被るとフードには三角に立つような仕組みになっていた。


「君がこれを着て、僕がこの狼のカチューシャをつければペアルックというものになる。……どうだろうか?」


 途中まで自信満々に説明していたというのに、後半では確認を取るようにチラリと私を一瞥するものだから、私はついつい面白くなってクスクス笑ってしまった。


「それはいいアイディアね。ところで、狼になるってことは私は食べられるのかしら?」


 アランから赤いサテン生地のローブを受け取って羽織りつつ、揶揄いついでに尋ねてみたが返答はない。

 不思議に思って顔を見上げると、ローブに負けず劣らず頰を紅潮させたアランがきゅっと口を閉じて私を見ていた。

 私の視線に気づくと、静かにカチューシャを頭に装着して顔の横に手を持ち上げる。

 そして、消え入りそうな声で呟いた。


「が、がおー、食べちゃうぞー……」


 普段は他の貴族に対して高圧的に接していたアランが、部下を顎で使っていたアランが、よりにもよって若者特有の軽いジョークを飛ばしてきたのだ。

 俯いてプルプルし始めた彼の使用人たち。

 唖然となる私と、顔から火が出そうなほど真っ赤になったアラン。

 これはどう反応するべきか悩みに悩んで、ここは紳士的な大人として軽いジョークに乗っかるべきと判断した。


「丸呑みするにはちょっとお口のサイズが足りないですね」

「丸呑みなんてもった……いや、なんでもない! そうだな、サイズが足りないなっ!」


 アランは慌てて取り繕うと、私の手を握って馬車に乗り込む。

 侯爵家の馬車というだけあって、使われているクッションはどれも質が高い。

 なによりも目を引くのが、内装もハロウィーン仕様になっていることだ。

 シックな色合いではなく、橙色を基調として可愛らしく飾り付けされていた。

 かなりの気合いの入れようだ。


「どうだろうか……? その、こういうものは嫌いだろうか?」

「いえ、可愛らしくてつい見惚れていました。アランさんが企画したんですか?」

「ちょっと商談の一環でね」


 ついつい忘れてしまいそうになるが、アランは侯爵家の三男にして爵位を金で買った『キスは舞踏会のあとで』の黒幕。

 幅広い人脈と権力で主人公たちを罠にかけていく人間なのだ。

 私からすれば、初心な青年にしか見えないがあと数年で謀略に長けた人物になるのだろうか。


「そういえば、その首に巻いている毛皮ってこの辺りに住んでいるという白狐のものですか?」

「ああ、そうだよ。僕の遠い祖先が白い狐を狩ったことでこの領地を賜ったという逸話があるんだ」

「なるほど。だから、白狐出版なんですね」


 エッシェンバッハの家紋には狐があしらわれている。

 何故、動物の狐なのか疑問だったが逸話から来ていたのだと分かって納得した。

 それと同時に、逸話が実在したことに興味が湧く。


「他にはどんな逸話があるんですか?」

「はて、他にどんな逸話があったか思い出せないな……家の蔵書を漁れば逸話を纏めたものがあるかもしれないが、レティシアさんの好みに合うかどうか」

「まあ、逸話を集めた書物があるんですか!?」

「あるかもしれないし、ないかもしれない。それは君次第だね」


 きょとんとした私の顔を見て、アランはクスリと笑う。

 悪戯っ子のように目を細め、向かいに座る私に身を乗り出したところで馬車がいきなり止まった。

 推進力に従って、バランスを崩したアランが私のお腹にタックルする形で突っ込んできた。

 腹筋で受け止めつつ(かなり痛かった)、漏れそうになる呻き声を我慢しながらアランの容態を確かめる。

 首を痛めてもおかしくはない角度と威力だった。


「だ、大丈夫ですか……?」

「だいじょぶ、だ……」


 強がっているのか、それともびっくりしているのか不明だが、本人が大丈夫と言っている以上は、食い下がっても意固地になるだけなので引き下がるしかない。


「なんで馬車は停まったんでしょうか?」

「あ〜、渋滞だな」


 アランがカーテンの隙間から様子を伺った外は人で溢れかえっていた。

 誰もが楽しそうに色とりどりの服を着て、手を繋いで往来を歩いている。

 その光景は、若者で賑わう渋谷を彷彿とさせた。

 向かいの座席に腰を下ろしながら、浮かない顔でアランが呟く。


「参ったな。この様子じゃ時間までに間に合わないぞ……」


 どうやら、この馬車然りこの後の予定も含めてアランは緻密にプランを練っていたらしい。

 突然、原稿を持ち込んで本にしてほしいと言ってもアランは二つ返事で引き受けてくれるので、こんな風に想定外の事態に一喜一憂する姿が新鮮だった。

 視線が合うと、アランは居心地悪そうに居住まいを正す。


「すまない、例年よりも渋滞が酷いようだ」

「構いませんよ。その分、お喋りできますね」


 安心させようと微笑みかけると、アランはボソリと呟く。


「……手強いなあ」


 その声は外の歓声にかき消されて聞き取ることができなかった。

 何を言ったのか気になって、尋ねようと思ったが馬車の中が七色の光で照らされる。

 光が差す方に目を向けると、星空に大輪の花が爆ぜていた。


「わあ、花火!」

「むう……」


 まさかこの世界でも花火を見られるとは思わず、食い入るように見つめる。

 前世では都会で暮らしていたこともあって、なかなか祭りや花火を間近で見る機会に恵まれなかったのだ。


「凄いわ、魔法で打ち上げてるのね」


 原理は不明だが、どうやら火薬の代わりに職人が魔力を使って点火して打ち上げているらしい。

 さらに爆ぜた花火を操って、それぞれ模様を空に描いている。


「アラン、今の見た!?」

「兎の形をしていたな」

「凄い……!」


 前世の私では思いつかないような、この世界ならではの花火を使った芸術大会が遥か上空で行われていた。

 楽しい時間もあっという間に過ぎ、花火は最後の大々的なフィナーレを迎えた。

 『帰り道には気をつけて』と筆記体で描かれた文字が星空に滲んで消えていく。


「知らなかったわ、毎年こんな催しをしていたのね」


 もっと見ていたいほど、素敵なハロウィーンだった。

 こんな素敵な催しを知らなかったなんて、これまでの私はなんて損をしていたんだろう。

 思い出してうっとりしていると、アランが遠慮がちに話しかけてきた。


「その、レティシアさんさえ良ければ来年も誘っていいだろうか?」

「もちろんよ!」

「そうか! やった……!」


 ぐっとガッツポーズをするアラン。

 その年相応の姿を微笑ましく思いながら、私は来年のハロウィーンはどんな装いをしようか考えを巡らせた。






 夕食を共にした後はアランに連れられて、ハロウィーンで盛り上がる街の中を歩いた。

 大道芸人や珍しい吟遊詩人を見かけ、たまに有名人ということで追いかけられたりもしたが楽しい時間だった。

 時刻は深夜になる少し手前になっていた。


「アランさん、今日は素敵な時間をありがとうございました」

「こちらこそ有意義な時間を過ごせて良かったよ。こんな時間まで連れ回した僕を許してくれ」

「私もすっかり時間を忘れてしまっていたのでどうかお気になさらず。アランさん、護衛がいらっしゃるので杞憂だとは思いますがどうかお気をつけて」


 労いの意味を込めて軽く会釈すると、護衛の人はさっと敬礼を返してくれた。


「ああ、気をつけるよ。レティシアさんも戸締りはしっかりとね」


 念を押すように手を握られる。

 前科があるので、「ルーシェンロッドの敷地に忍び込む輩なんていませんよ」と言い返しかけた言葉を飲み込む。

 代わりにコクリと頷くとアランはほっとしたように微笑んで私の手を放した。


「それじゃあ、また明日」

「ええ、また明日」


 手をひらひらと振って、家の中に入る。

 執筆机にまっすぐ向かい、新しい紙を取り出して私はペンを掴む。


「この世界のハロウィーンって文化は面白いわね。是非とも後世に残したいわ」


 ペン先をインクに浸して、私は今日一日体験した出来事を紙に綴る。

 『きっといつか、この経験が創作の糧になることを願って』という言葉で締め括った。

明日までにポッキーの日のせるよ

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