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電撃逮捕

前回のあらすじ

 紳士もぶったまげた(後に酒の肴話になる)


 新聞で短編の小説を載せたり、新作の小説を配布して数週間。

 裁判が繰り広げられているが、ネクサスによればとても不利な状況らしい。

 実際に私も裁判に召喚されたが、弁護士の発言を遮ったり、少しでも反論すれば魔力を放出して圧力をかけてきたりと散々だった。

 そんなわけで、私の名前はたちまち有名になってしまった。


「ついに郵便配達人も箱で持ってくるようになったわね」


 呆れた私の前には、折り畳めるように改造された木箱が積まれていた。

 箱の中には手紙、はがき、そして中身のわからない小箱の数々。


 裁判以降、ぴったりと止まっていたファンレターもボチボチ届くようになって嬉しい限りだが、差出人が書かれていないので返信できないという困ったこともあった。

 差出人のない手紙は本来、配達されないはずなのだが、どうやら郵便社も銭欲しさに黙認しているらしい。


「差し入れ、なのかしら?」


 一体誰からなのかは不明だが、様々な種類の紙やインク壺が送られてくる。

 なかには私のいる首都では手に入らないような、地方でしか売っていないようなものだった。

 同一人物かも分からないが、ありがたいことだ。


「新聞掲載の小説も人気らしいし、創作の輪がどんどん広がっていくわね」


 アーズから送られてきた新聞には、私の他にもコラムを載せている作者や読者参加型のものが目立つようになってきた。

 最近の流行は『日常のささやかな幸せ』らしい。

 子供の成長を綴ったものから、単身赴任の夫に向けた言葉など、この世界の人間にしか現せられない物語があった。


 お気に入りの茶葉で紅茶を淹れながら、色んな物語が載せられている新聞を読んでいると家の扉がどんどんと叩かれた。

 セシルかと思い、扉を開ける。


「久しいなあ、レティシア容疑者! 今日はお前にとっておきのプレゼントを贈りにきたぞ!」


 そこにいたのは、今日も元気にオールバックに固めたアルバートだった。

 三つ編みにした襟足をなびかせて、彼は満面の笑みを浮かべている。

 背後にいるのは数人の騎士と檻つき馬車。

 彼らの表情はなにやら険しい。


「贈り物……ですか?」


 あの裁判以降、アルバートは私によく噛み付いてくる。

 出会うなり罵倒してくることが殆どだったので、さすがの私も苦手意識が湧いている。

 出来ることなら顔を合わせずにいたい相手だ。


「ああ、犯罪者にとっておきのプレゼントだ。捕縛しろ」

「ちょっと!?」


 アルバートの指示を受けた騎士が私の手を掴む。

 逃げる間もなく、地面に引き倒されて後ろ手に縛り上げられる。


「いたい、いたい、いたいっ!」


 捕縛したうえで、体重をかけて押さえ込まれているから頰が地面に擦れる。


「ふんっ、無様な姿だなあ。これで叔父の屈辱が雪げたと思うと愉快な気持ちになる!」

「保釈金も払っているのに、こんな強引に逮捕していいと思っているの?」


 私の言葉を、アルバートは鼻で笑う。

 裁判所に保釈金を支払っている以上、私を逮捕するには検事よりも上の首長の命令が必要になる。

 前世に照らし合わせれば、都知事のような役職だ。


「首長の委任状を提示しろ、とでも言うつもりか? ふん、あんな金に媚び諂う奴らなどアテにできるか!」

「つまり、違法逮捕……?」

「だいたい、何故そんなモノに従う必要がある! お前のような犯罪者を面倒な手続きを済ませないと逮捕できないなど間違っているじゃないか!」


 あろうことか、検事という役職についているというのに、アルバートは法を軽んじて強引な手段に出たのだ。

 火がついた彼は饒舌に語る。


「ああ、そうだ! そもそも我が一族の没落はあの忌々しい王妃が手を回したからだ。本来なら我が叔父が国王になるはずだったのだ。王位を掠め取った奴らが作った法律など、奴らにとって都合の良いように作られているに決まってるじゃないか!」


 叫ぶだけ叫んで満足したアルバートは私を見下ろす。

 先ほどまで興奮していたことが嘘のように、一瞬で真顔になった。


「その目だ、私の話を聞いたやつの殆どがそんな目をしていた。ふん、はなから理解など求めていないさ。連れて行け」

「はっ」

「いだだだっ!」


 気遣いの欠片も感じられない強引さで私を馬車に乗せる。

 騎士はさらに私の足を紐で縛り、猿轡を噛ませて目隠しまで施した。

 どこに向かうか分からないものかと耳を澄ませたが、同乗した騎士は終始無言だったため、馬車がどの留置場に向かっているのかも不明だった。

 そして馬車に揺すられること数時間。


「降りろ」

「むむー!」


 騎士に引っ立てられながら馬車から降ろされる。

 足が縛られていて歩けないので、両手を騎士に掴まれながら引きずられている。

 鉄の擦れる嫌な音が響いた。


「アルバート様の命令があるまでここにいろ。くれぐれも脱走するんじゃないぞ」


 そう告げた騎士はがちゃがちゃと鍵を掛けてその場を去る。


 両手両足を縛られ、猿轡に目隠しまでされた人間がどうやって逃げるというんだ?

 私の他に周囲に気配はなく、私はただただ呆れるしかなかった。

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