唐突の破門状!
前回のあらすじ
シェリンガムによる嫌がらせ(破門状)
※10/12 21:30改稿
裁判の日程も決まり、裁判当日まで半日を切った頃。
私は『モンタント』として発表するための官能小説のネタ出しをしていた。
判決では、『反社会的』かつ『猥褻』な文章を指摘された為に、今度は『社会常識に照らして』問題ない範囲で『直接的な単語』を使わずに性行為を描写することにしたのだ。
不倫、それはつまり婚姻関係にあたる二人が第三者を交えて性行為を為すことで子供が生まれた際に、親権で揉めない為に法律で禁止しているのだ。
避妊具はあるが、世間一般で浸透しておらず、また世間体を慮って購入する人は少ない。
また、この世界では、まだ出産以外で親子関係を科学的に証明できるものがない。
魔力の性質なども血筋に関係がない為、似たような魔力を持つからといって必ずしも親子だとは断言できない。
だからこそ、女性側の再婚禁止期間も一年と長く設定されているのだ。
前世に照らし合わせれば、憲法違反と人権軽視のダブルコンボだが、この世界にはそうするしかなかっただけの歴史や事情があるのだ。
話が逸れた。
つまりは、だ。ヒューゴ裁判官の言葉を借りるなら『不倫』でなく、裁判で指摘された言葉を使わなければ取り締まられる謂れはないと反論できる。
なにせ、こちらは事前に年齢確認を設け、前書きで『架空の出来事であり、あくまで娯楽上の目的を果たす為の文章です。法律は遵守しましょう』と断りまで追加したのだ。
もしまた訴えてきたら確実に勝てる。
なにせ、あのネクソンも私の計画を聞いて「ヒューゴ裁判官には同情せざるを得ない」と漏らしていたからだ。
なにやら、ヒューゴは元々、検事の言う通りに判決を下してきた人間らしく、いわゆる検事から天下ったお飾り裁判官らしい。
それでも仕事を失わずにいられたのは、彼の検事としての経歴とコネクションが強力だからだとか。
司法まで腐敗しているとは、この国もなかなか極まっている。
これは国王の傀儡になる未来が見えた。
考えたら頭が痛くなってきた。
もういっそ国王を暗殺した方が早いんじゃないかとも思うが、民主主義者かつ法律を重んじる一国民としては血で血を争うような権力闘争は避けるべきだ。
まあ、私にそんな権力も魔力もないのだけど。
そんなことを考えながら作業をしていると、郵便受けに何かが投函される音が響いた。
「あら、教会から?」
確認してみれば、差出人の代わりに見覚えのない住所。
どうやら教会からのようだ。
封を切って便箋を取り出し、内容に目を通す。
そこには信じられない文字が書いてあった。
「破門!?」
便箋には不信心であることを理由に破門に処す、と書かれた文章の下に、期日までに所定の教会に寄付を納めれば反省していると見做すとも記載されている。
「あぁ、この世界には信教の自由もないんだっけ……」
生まれた頃に施される洗礼によって信者になったとしてリストに書き込まれる。
教会に訪れた数や貢献度がカウントされ、教会本部に管理されるというプライバシー零の仕組みだ。
辟易としながらどうしたものか考える。
別に私はこの国教から破門されようが、死後地獄に落ちようがなんら怖くない。
けれども、共同体の一員として生きていく以上は……。
あれ、破門されても問題ない?
雇用関係にあるのはアランだけだし、破門されたとしても彼は関係なしに関わってくる気がする。
セシルは信心深いから関係が切れるだろう。
家族は勘当されたから、破門されたとしても面倒はかけないはず。
寄付してまで破門を撤回してもらうメリットが一向に見当たらない。
「いやいや、何かの間違いかもしれないし、神父に相談だけしてみますか」
そうして、教会からの手紙を片手に神父の元へ訪れた私。
白を基調とした教会内部は、裁判所とはまた違った“神聖な”厳かさがある。
シスターに事情を話したところ、すぐに受付に通されて待つように指示され、神父を呼んできてくれることになった。
事情を話し、手紙を見せた神父は一言、私にこう告げた。
「なるほど、事情は分かりました。それでは明日までに五千レルスお支払いください」
「五千レルス!?」
神父から突きつけられたのは、平民ならば半年は暮らしていけるだけの金額。
例え今から銀行に行ったとしても引き出し限度額に引っ掛かるほどの大金だ。
前世の感覚に照らし合わせるなら、十万円といったところか。
すぐに融通できる金額ではないのは勿論のこと、それを明日までに支払えというのはいくらなんでもおかしい。
訝しむ私を『金がないから』と判断した神父が一枚の書類を取り出して見せてきた。
「現金でご用意ください。もし工面できないようでしたら、こちらに署名を。猶予期間を設ける代わりに契約を結んでもらいます」
猶予期間を延ばす代わりに、手元の財産や権利を教会に一任するというふざけた契約だった。
メリットとデメリットが釣り合っていないどころか、書類上だけでもとんでもない契約を吹っ掛けられていることが分かる。
「待ってください、神父様。いくらなんでもこれはおかしいではありませんか? 何故猶予期間を延ばす代わりに財産を教会に一任しなくてはいけないのですか?」
「あれこれと理由をつけて寄付金を拒む輩がいるからですよ」
「寄付金とは自ずから差し出すもので、徴収するものでは無いと思うのですが」
「なら支払わなくて結構。異端者として惨めに暮らした末に地獄に堕ちろ」
……今、この神父はなんと言った?
『異端者として惨めに暮らした末に地獄に堕ちろ』?
宗教に疎い私でも、その発言はかなりマズいと分かる。
「神父様、その発言は聖職者として如何なものかと」
「平民の貴女に指図される謂れはありません。さあ、早く署名するかどうか決めてください」
「……遠慮しておきます」
「なら明日までに五千レルスご用意ください」
これで話は終いだと神父は言い残して立ち去ってしまった。
あまりの出来事に私は呆然としたが、すぐにはっと我に帰る。
思っていたよりも破門状はややこしいことになりそうだ。
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