(いきあたりばったりな)悪巧みをするよ、シェリンガム!
前回のあらすじ
ニコラスくんの華麗なるフラグ建築
建国記念日のお茶会にて悪事が明るみとなり、失脚した男がいた。
ヘンリー・ド・フォン・シェリンガム。
公爵家当主として、また王妃の実弟として権力を振るって学問を探究してきた生粋の学者である。
そのシェリンガムは今、上機嫌に教会本部で椅子にのけ反っていた。
刺繍の施されたジャケットに代わり、今は白い法衣を身につけながらシェリンガムはほくそ笑む。
「ふふふ、あの『レティシア』とかいう小娘はじきに失脚し、ゆくゆくは悪書をこの世界から放逐されるぞ!」
そう言って高らかに笑うシェリンガム。
その手に握られているのは裁判所の大まかな情報が書かれた書類。
甥の検事に譲ってもらった写しである。
被告人の欄には、因縁の相手『レティシア』が書かれていた。
既に平民となったレティシアをこれ以上、どう失脚させるつもりなのかと同僚が首を傾げていることにも気づかず、シェリンガムはいそいそとスケジュール帳を取り出して、初公判が行われる日に印をつける。
「あの小娘の全てが法の名の元に否定されるのかと思うと愉悦が止まらんね!」
仕事しろよ、という同僚の視線を無視してシェリンガムははっと閃いた様子で机から台帳を取り出す。
信者の名前が書き連ねたリストのそれから、『レティシア』の名前を見つけ出す。
「おお、なんと不甲斐ない信者。今年一度も教会を訪れていないではないか! これは破門状を突きつけるしかあるまい! さすればあの小生意気な娘も改心するだろうよ!」
同僚は顔も知らぬ『レティシア』という少女に哀れみを向ける。
破門状を突きつけられた信者の取るべき選択肢は二つ。
撤回を求めて多額の寄付を納めるか、首を括るか。
少女であれば多少は減額してもらえるだろうし、まさか教会の神父が不正に手を染めているようなことはないだろう。
けれども裁判の日程が近い今、嫌がらせとしては最適だった。
「ふはは! ふははははっ! これは我が甥のアルバートの晴れ舞台を観に行ってやらねばな!」
「仕事してください、シェリンガムさん。ノルマが達成するまで休憩はナシですよ」
「ぐぬぬ……ちっ、平民の分際で」
上司の小言に小さく罵倒を漏らし、手元の写本に取り掛かる。
なんでも、聖書は聖職者が自ら写本することで神聖なる神の加護が宿る……だとかなんとか。
生粋の学者であるシェリンガムには全く理解できない話であった。
手書きの文字など個人差が出るし、なにより効率が悪い。
苛立つことこのうえない作業だった。
それでも文句を言わずに仕事に取り掛かっているのは、これ以外に彼ができる仕事がないからだ。
だが、そんな日々ももうすぐ終わる。
国王派が勝利し、議席の半数を獲得したことで、シェリンガムの手のものがより出世できる見込みが生まれたのだ。
空いた議席にシェリンガムさえ戻れば、また貴族の暮らしに戻れる……と彼は思っている。
実態は、国王を頂点とした中央集権化の強化と独裁政治への転換なので、血縁関係のあるシェリンガムはむしろ排除される側。
俗世を知っていれば、シェリンガムも危機感を感じただろうが、生憎と彼がいる場所は世俗と切り離された教会。
外からの情報は人伝による曖昧なものばかりで、加えて聖職者たちは噂話を良しとしない人間ばかり。
何も知らない彼は、自分のことを見下してくる上司を必ず見返してやると息を巻いて作業に取り掛かるのだった。
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