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なんということだ……! (白々しい)

感想ありがとうございます!

前回のあらすじ

 セシルの手料理美味しかった


 どこまでも広がる青空の下。

 裁判所の命令を受けて、勲章を付けた騎士たちが慌ただしく白狐出版社を出入りしていた。


「機材に傷をつけるんじゃないぞー!」

「年季は入っているが状態もいい。これなら見積もり通りになるな」


 『モンタント事件』で出版社は多額の賠償金を支払うことになったのだが、費用を捻出できないため、差し押さえられることになったのだ。

 印刷用の機材は高額なため、それらを献上することで恩赦が与えられる。

 これにて賠償金と相殺するのだ。


 ホクホク顔の騎士とうってかわって、悲嘆に暮れるのは印刷所に勤める従業員たち。


「あぁ、私たちの仕事場が……!」

「これからどうやって仕事をしていけば……」

「おしまいだ、何もかもおしまいだ」


 なかには地面に崩れ落ちてわんわんと泣き出すおじさんもいた。

 我が子を胸に抱きながら恨みがましく騎士を睨む女性、帽子を深くかぶって涙を隠す青年。


 そして、


「すまない、みんな……! 僕が不甲斐ないばかりにっ!」

「アラン様……!」


 悔しさを顔に滲ませながら拳を握るアラン。

 彼の周囲をわっと従業員が囲み、口々に慰め合う。


 嘆く従業員をよそに機材の運び出しは終わり、騎士たちが引き上げていく。


 機材を乗せた馬車が遠ざかるにつれて、アランの肩の震えが激しくなる。


「アラン、もう遠ざかったので大丈夫ですよ」


 私がそう告げてやると、アランは腹を抱えて笑い始めた。


「アハハハッ、あいつら馬鹿だなあ! 帳簿見れば一発で賠償金が払えるって分かるのに、確かめすらしないなんて!」


 アランの言う通り、騎士だけでなく役人まで杜撰な仕事ぶりだった。

 頭が回る役人はアランの顔を見て沈黙し、反抗してきた騎士は謎の転勤や汚職の発覚が相次いだ。

 印刷機についても疎いらしく、アランの言い分をほいほいと信じて引き渡しに合意したのだ。


 高らかに笑うアランもアランだが、彼の策略に悪ノリして演技した従業員も恐ろしい。

 劇団でも開けるんじゃなかろうか。

 少なくとも、演技はアランより上手かった。


「アラン様、機材の搬入は問題ないです。それにしても、アラン様も考えましたねえ。型落ち印刷機を運び出すのも金がかかるなら、献上ついでに引き取ってもらって最新の機材を買い付けるなんて」


 解体するにも金がかかる。

 なら、引き取ってもらおうというアランの抜け目ない計画によって騎士たちは利用されたのだ。

 まだあの騎士たちに運び出された機材でも印刷できるらしいが、最新型の方がより効率よく印刷できるらしい。

 さらには絵も印刷できるようになるとか。


 先ほどまで迫真の演技で泣いていた従業員は、アランからの特別ボーナスを片手に外食へと繰り出していた。

 名目は傷心手当て、どこまでも皮肉が効いている。


「それにしても、よく銀行から融資をとりつけましたね」

「『モンタント事件』が有名になったおかげで交渉も楽だったよ」

「……へえ」

「元から白狐出版社は有名だったけど、今回の件で更に名を馳せたって感じだ」


 裏で一体どんな交渉があったのかは知らないが、担当した弁護士がげっそりとしていたのできっと知らぬが華というやつなのだろう。

 改めて、彼が『キスは舞踏会の後で』で黒幕を担当していたという恐ろしさを痛感した。

 敵に回したら厄介なことこの上なし、仲良くするに限る。


「そうだ、レティシアさん。この前、法廷画家の方から是非とも新作の挿絵を担当させて欲しいと依頼されたんだ。この前の塩対応からは想像も出来ないな!」

「なるほど。法廷画家なら、サスペンス系が合致しそうですね。作品の概要と小説を送りましょう」

「話が早くて助かる」


 いつになく上機嫌なアラン。

 あの日以降、彼が笑顔を絶やした日を見たことがない。

 何故かは分からないが、彼と目が合うたびに背筋がざわざわするのは多分きっと気のせい。

 破壊するならあの施設、とか、逃亡資金、とか物騒な単語が聞こえるけれどもきっとこれも私の気のせいに違いない。


「打ち合わせまでには作品を書き上げないと」


 裁判の合間を縫って小説を書いているからか、いつもよりペースは落ちているがとにかく書けるようにはなった。

 転生直後に閃いたまま、熟成させていた入れ替わりをネタとしたサスペンス系の小説を今は書いている。

 進捗は九割といったところだ。

 あとは収まりが良くなるように話を追加したり、補足したりはするが概ね本筋は完成している。


 これまでハッピーエンドな話が多かったが、今回はサスペンス系なので少し考察の余地がある終わり方になる。

 果たして異世界の人にどこまで通用するか、それだけが心配だ。


「君の思うようにやればいい、大丈夫。何かあったら僕が()()()()()()()()


 わー、心強い言葉ー!

 けど何故だろう、冷や汗がどっと吹き出て止まらないやー!


「が、がんばりゅ……!」


 アランに任せたら確実に悪化する。

 確証はないが、何故かそうとしか思えない確信があった。

 自分で出来る範囲のことはどうにかしよう、改めて自分に誓いを立てながら私は空を見上げる。


 どこまでも澄み切った、深い青空が広がっていた。

退路を絶たれていくレティシアちゃん!

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