第一章 四話
それからと言うには俺等にとってはあっという間に感じる、おおよそ二時間程をぶっ続けで行われた個人ライブは終わりを告げ、その辺の喫茶店で奏音とお茶したりして。奏音を途中まで送ってから家に帰宅した。料理して風呂入って奏音と電話して駄弁ったり頼み事したりしてから、布団に寝転がる。
魔法使い同士の戦い、しかも連戦とか二日目にして早くもなかなかの激動じゃないか。前の世界程、ではまだ無いが。
「そういや、能力増えたんだよな」
充電中の魔導書をケーブルから取り外し、魔導書の魔王を起動する。いくつかの項目が表示された。
その中から能力の項目を選ぶ。既に埋まっている枠と空白の枠があった。埋まっている枠には予測・展開・反射が入っていて枠の色も金色になっている。固定の能力という事だと神様から教わっていた。空白の枠は銀色で取り外し可能な枠である。この枠は初期設定では二つのみで、全域魔法戦で勝利したり魔法を使い込んだりすると貰えるポイントで増やせるらしい。
「うーん、ポイントか」
上限などはまだ知らないが、早めに増やさないとこの先獲得した能力を入れる枠が無い。だが、ポイントが足りないので諦める事にした。何だよ十万ポイントって。今一万と端数しかないぞ。
一先ず手持ちの枠に、拡大と連結をセットする。これで使用可能な能力が増えたが、当然ながらこれ等を使用するには魔力を消費するので使うタイミングを考えないとな。しかも今は、まだ相手の魔法がどれ程の威力なのかの目安が神様の所と火の玉しか経験が無いから魔力の消費量に無駄が多い。
「解決方法はいくつかあるけど…」
ポイントを消費するのは枠だけでは無い。他の項目のカスタマイズにも使えるのだ。例えば威力という項目がある。これは攻撃魔法の魔力消費が基本一対一になっている。相手の魔法を打ち破りダメージを与えるなら、相手より多くの魔力を消費しないといけないが、この威力にポイントを使うと基本が一対ニとなり同じ魔力消費でも威力が上がるので、より相手にダメージを与えやすくなり全域魔法戦での勝率も上がりやすくなる。ダメージを与えられる能力が無い俺には、まだ意味のない項目だが。
「魔力の消費軽減か、魔力量の増大か」
どちらも一長一短である。
消費軽減はポイントを使用する度に軽減度が上がっていくのだが、最初の恩恵は少なく一パーセントも減らないので意味が殆ど無いに等しい。
だが量の増大だと、初めから一割程の増大が可能ではあるが、コレにはいくつかのデメリットが存在する。まずポイントを使用する時に注意文が表示される。これを読むと分かるのだか、魔導書も当然ながら電気を介して魔力に変換しているので専用のバッテリーが存在する。つまり、ポイントを使用してもバッテリーそのものは大きくならない。
その為、注意文を読んでから認証すると予約と共にバッテリーを交換する為の流れが説明されて、魔導書専門のショップに行く必要があるのだ。すぐには増えない。それとバッテリーの交換により魔導書本体が重くなるので、増やせば増やす程に普段使いの取り回しが不便になる。
「取り回しの変化はまだ早いな。消費軽減にしておくか」
庵は悩んだ末に、消費軽減を選んだ。まだ基本の魔力量にも慣れていないので、あまり変わらない方が良いと思った。何より奏音に頼んだ事を考えると使えるのはこの方が良い、筈だ。多分。きっと。信じているぞ。などと思いながら手持ちの内、一万ポイントを使い消費軽減を上げた。微妙な軽減率だが無いよりはマシ程度である。
「残りポイントは端数だけか。何もできないな。寝る…いや待て。確か魔導書で過去の全域魔法戦が見れるって神様が言っていたな」
項目の中に魔王の瞳・映像一覧というのがあった。選ぶと某動画投稿サイトのような画面になった。本日の全域魔法戦のピックアップ映像や、魔導書の仕組みの解説動画など、内容が魔導書寄りである以外は殆ど変わらなかった。
気になったいくつかの映像を見る。世界大会ではアメコミに出てくる様な超常的な魔法(重力やら雷系統やら威力が凄すぎて判別出来ない)で派手に荒ぶり、都市での大規模戦では大多数によるチーム戦(複数の魔法による連携技)に眼を光らせ、個人戦では新人の炎属性の使い手が素体具現化による武器で蹴散らしていたのにワクワクした。
「おー、俺と同じ新人なのに凄いなー」
火の玉兄弟とはレベルが違うな。にしても…予想通り魔法使いは固定砲台ばかりだな。火の玉兄弟の兄・ゴウを見てた時に違和感を感じたのは間違いじゃなかったのか。移動しないで魔法使っていた時点で何となくそんな気はしてたけど、明らかに近接系の魔法に対策した動きをしていない。そうだよな、だって近づく前に一方的に倒せるなら喧嘩慣れもしないよな。
「こんな所まで変わらないとか、勘弁して欲しいな」
どれくらい前から魔導書が出来たのか分からないが、固定砲台が殆どを占めているなら少なくとも十年では効かないだろう。そのスタンスが正しいと証明されたことで、他の魔法が不遇扱いになった。それが使えないという理由か。くだらねぇな。
「…よし、決めた」
俺がそのスタンスを変えてやる。不遇だとか使えないとかで価値を決めるなら、その価値を変えてやればいい。だってその方が楽しいだろ。なら、目指すは魔王か。面白くなってきたじゃないか。拳を握り、ニヤリと笑う。
「なら先ずやる事は、必殺技の開発だな!」
庵は気付いていない。映像を見ていた事で時間を忘れており、既に深夜である。テンションが変な方向に振り切れていたのは、言うまでもなかった。
三頭の門番「早くも必殺技を手に入れる時が来た…」