■堀瀬由衣-嫉妬
帰りの方向が同じなので、由衣は香織と一緒になることもあります。
クラスが違うだけで同じ学年ではあるので、下校をしながらバレーの話をするのもめずらしくはないのです。
「トスを上げる時さ、堀瀬ってヒジが開くじゃん。こうやってさ。脇をしめる感じで力を抜くともっと正確なトスが上げられると思うよ」
彼女は動作を交えながら真剣に由衣に教えてくれます。
「水菜さんて、けっこう他人のこときちんと見てるよね。1年の子だけじゃなくて、他の子とか」
さっぱりした性格もあってか、彼女は部内ではそれなりの人望があります。
もちろん、こういう世話好きな部分に惹かれる子も多いのでしょう。
「他人の動作見ながら自分の動作を改善するんだよ。体育館は鏡がないから、あんまり自分の姿って見られないじゃん」
「でも結構熱心に教えてくれるよね。例えそれがライバルであっても、水菜さんてそうなんだよね」
「うーん……それはやっぱり、ほら、どんなときでもフェアでいたいじゃん。プロのスポーツ選手ってそういう人多いから。そういう部分にわたしも憧れてるのかもしれないけどね」
彼女は照れたように舌を出しました。
そんな香織に由衣は少しだけ嫉妬します。どうしてみんな、そんなまっすぐに生きられるのでしょう。
自分みたいにのほほんと生きながら上辺だけしか繕わない人間には、彼女のそういう部分がとても眩しく感じられます。
「堀瀬はレギュラー狙ってないの?」
話題を変えるかのように香織は唐突にそう聞いてきます。さっきの言葉が照
れくさかったのでしょうか。
「ん? レギュラーかぁ」
由衣は遠く空を見上げます。なんか、ちょっと芝居がかってきてしまって笑いがこみ上げてきました。
「え? なんで笑ってるの?」
「いや、私なんて無理無理って話。あと身長が十センチくらい伸びないといけないなぁって」
「わたしも昔はちびっちゃかったからね。背が高くなりたくて、好き嫌いなく食べるようになった。わたしらはまだ成長期だからね。どんどん伸びるよ、堀瀬だって」
「うん、ありがと」
気休めの言葉を言われたことはわかっていました。でもなんだかさわやかに言ってくれたから嫌味にも聞こえません。それが香織らしさでもあるのでしょうか。
「そういや、堀瀬って好き嫌いあるの?」
「ないと思うよ。あ、でも食べられないものがあるかも、冷やし中華とか」
「それって嫌いなものじゃないの?」
そう言って香織は笑い出した。