■香村ゆかり-遭逢
ゆかりの放課後は、ウインドーショッピングが日課となりつつあった。比較的大きなターミナル駅が近くにあるため、最近オープンした中規模のショッピングモールへとついつい足を運んでしまうのだ。
結構有名なお店も入っているので、見ているだけでも飽きない。
彼女のお小遣いではこんなかわいい服は買えないけど、それでもショーウインドウを眺めているだけで満足であった。
そんなゆかりの口からは独り言がこぼれてしまう。
いつか自分で稼げるようになったら、こんな服を着てみたいなぁ。
あの白い姫袖のワンピースとかシャーリングリボンのジャンパースカートとかかわいいなぁ。
こっちにあるピンクのギンガムチェックのティアードスカートもいいなぁ。
はぁ……。ため息しかでないよぉ。
店の中に入っていく勇気のないゆかりは、店頭だけで我慢している。ガラスに手をつけてうっとりと眺めているだけで時間は瞬く間に過ぎていった。
でも、気が付けば外が薄暗くなっていたりするから注意しなくてはいけない。
適当なところで切り上げてショッピングモール内から出ると、ウインドーショッピングの余韻に浸りながら家路へとついた。
途中の小さな公園で、見覚えのある後ろ姿を見つける。
日が落ちて暗くなった公園のブランコに、その子は一人腰掛けていた。
気軽に声をかけられるほど親しくはないとゆかりは躊躇するが、でもたとえ一回きりでも助けてもらった縁があるのだからと、思い切って名前を呼んでみることにする。
「川島さん」
一瞬間があって、彼女はこちらを振り返る。思った通り川島美咲だった。
「……あ。ああ、香村さんか」
その表情は少し元気がない。教室で見せた陽気な彼女とは別人のようだった。
ゆかりは近づいて隣のブランコに座る。
「どしたの? こんなとこで」
横顔はちょっと寂しそう。
「……ん? うん、ちょっと疲れたから休憩」
言葉は重い。喋ることさえつらそうだった。
「バレー部だったよね? 練習きついの?」
「……」
彼女は無言で首をふる。
「なんか悩み事があるなら」
「ごめん。……疲れているだけだから」
ゆかりの言葉を遮って、彼女はそう答える。何かをあきらめてしまったかのような口調。
「うん、わかった。でも、なんかゆかりが相談に乗れることだったらなんでも言って。力になれるかはわかんないけど」
誰かのしょんぼりした姿なんてみたくない。ゆかりはもどかしくて、そう返事をするしかなかった。
「律儀だね」
美咲は目を細めて彼女を見る。
「あ……あの」
ゆかりは何を言っていいかわからなくて、言葉だけが空回りする。
「香村さんてさ」
気怠そうだが、何かを訴えたいかのような瞳が彼女を捉える。
「え?」
鼓動が少し高まった気がする。
「思ったより人なつっこいんだね」
ゆかりにはその言葉にどんな意味があるかがわからない。
「え? どうして」
「だって、もっととっつきにくい人かと思っていたから。教室じゃあんまり誰とも話そうとしないでしょ」
「それは……」
(ゆかりが臆病だから)
彼女の答えを待たずに美咲は視線を逸らして、ぼそりと言葉を漏らす。
「まあ、ひとそれぞれ理由はあるよね」