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■堀瀬由衣-日常


(あれ? 川島さんと話しているのって香村さん?)


 ようやく放課後になり、部活へ行く用意をしながら由衣はふと窓際の席に視線を移します。


 すると、同じ部の川島さんが楽しそうに香村さんと談笑しているではありませんか。あの二人って仲良かったのかな、と彼女はふと疑問に思います。


 でもきっと、彼女の与り知らないところで二人は仲良しなのかもしれない、そう考えることにしました。由衣が知っている二人の日常なんてほんの一欠片なのですから。


 由衣はいつものように部室へと向かいました。途中、一年生の矢上紗奈を見かけます。


「あ、矢上さん。部室行くトコ?」


 紗奈は一年生の中ではかなり実力がある方です。ポニーテールが似合っていて、由衣より頭一つ大きい子でした。


 一緒に並ぶと、どちらが先輩だかわからなくなってしまうほどです。


「先輩、こんにちは!」


 由衣を見つけると彼女は背筋をまっすぐにして、大げさに挨拶をしてきました。


「ふふふ。そんな堅苦しくしなくてもいいんだよ。私どうせ補欠だしね」


 ちょっと冗談っぽく彼女は言います。卑下しているわけでも、別にいじめているわけでもありません。


 なにも考えずに出たのが今の言葉なのです。友人に言わせれば「ほっちゃんらしい」となるそうです。


 そんなわけで、無自覚に紗奈を困らせてしまったようで、彼女は返事に困っています。

 そんな姿を見て『かわいい』と思ってしまう由衣は、さらに無自覚で質が悪いですが。


「ねぇ、部室の鍵は持ってきた?」


 相手の事にはおかまいなく由衣は自分のペースで話を続けます。


「はい。今取ってきたところです」

「じゃ、行こ」


 二人でそのまま部室へと向かいます。紗奈は由衣を慕うかのように、トコトコと後ろに付いてきました。由衣の悪い癖が頭に浮かびます。


(子犬みたいで、なんかかわいいな)



 部室で着替えていると、続々と部員達がやってきます。


 さすがに全員が一度に入れるほどの広さではないので、着替えたらすぐに出て行かなければなりません。部室でゆっくりと歓談をしている暇はないのでした。


 おまけに大会の予選を控えて練習には少しぴりぴりとした空気が漂っています。


 部の顧問の教師は、厳しいのは当然ですが誰にでも平等に接します。それは由衣のような補欠が確定した生徒にも同様です。


 顧問としては『誰もがレギュラーになる可能性を秘めている』と考えての事なのかもしれません。


 それはそれで、平等にチャンスがあると思って励みにもなるのですが、やはり才能の差というのははっきりと表れるものです。


 それに身体的特徴、特に身長差は今の由衣には超えられない壁でもあります。


 成長期なのでこれからに期待できるのかもしれませんが、彼女の親からして背はあまり高い方ではないのです。


 ちょっとだけ絶望的な要因はありながらも、微かな期待を彼女はするのでした。身長が高くなりたいのは部活の為だけではありませんから。


 練習が終わると三年生から順に部室へ戻って着替えを始めます。これは部屋に一度に入りきらないために決められた優先順位です。


 急ぎの予定のある子は、前もって荷物を持ってきて、空いた教室で着替えてしまうこともあったりします。


 片付けはほとんど一年生の仕事ですので、二年生その短い間に自主練習をしたり歓談をしたりするわけです。


 由衣たちはいつもの歓談です。くだらない話は尽きることなく、ほんの些細な話題でもそれを膨らませて楽しみます。


 いつも一生懸命な美咲と香織は二人で協力して、お互いに練習を続けます。


 パスリレーといって、直上にボールを打ち上げながら交互に立ち位置を交代していくものです。狭い範囲でできるので、練習直後の空いた時間にはもってこいなのかもしれません。


 端から見ればライバル同士なのに仲が良いのはとても微笑ましいことだと、いつも由衣は思ってしまいます。


 そんな二人を少し羨ましく思ったり、そう考える自分はいろんな意味で欲張りなのかなと反省もしたり、練習直後のこの時間は歓談に加わりながらも考えさせられてしまう時間でもあったりします。


 部活終了後、いつもなら何人かでどこかへ寄り道をすることもありますが、今は大会前の大事な時期で練習が厳しくなっていることもあって、由衣の身体はクタクタです。彼女は誘いを断って家路へと向かいました。



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