■堀瀬由衣-楽観
大会が近いこともあって、由衣はしばらく部活に専念しなければならない日々が続きました。
心身共に疲れ切って帰宅し、家では食事と寝るだけの生活です。そんな事もあってゆかりへの興味も頭から次第に薄れていきました。
大会に出場できるレギュラーは六人で、控えを入れても正式なメンバーは九人です。
うちの部の総人数は四十名近い大所帯で、由衣の選手としての技術を考えるとレギュラー入りはかなり難しかったりもします。
それよりも由衣自身、自分より上手い子がたくさんいるので『その人たちを蹴り落として何が何でも』という気もありませんでした。
レギュラー入りが難しいといわれる、同じ境遇の子が何人かいるので、彼女はその事にそれほど苦を感じていないのかもしれません。
実際には心の奥底で悔しい思いをしていますが、表面上の由衣はいつもそんな感じで乗り切っているのでしょう。
中でも仲の良い成美と慶子と浩子は、彼女と同じく身体を動かしたりバレーの話をしたりするのが好きな人たちなのです。
練習の後に歓談をしたり寄り道をしたりするのは決まってこのメンバーだったりします。
そんな半ば諦めに入っている由衣達とは別に、レギュラー入りができるかできないかの瀬戸際の人たちもいるのです。
例えば水菜香織と川島美咲は、選手としてそれなりに優れてはいるものの、同等の技術力を持っているので常にレギュラーの座を争っていたりします。
しかも、今年入った一年生の中にはかなり実力を持つ子もいるので、その子がレギュラー入りしてもおかしくない状況なのです。
果たしてどうなるか? 誰がレギュラー入りするのかを予想するのも由衣達のような『諦め組』の楽しみでもあったりします。
「堀瀬ってさぁ、欲がないよね」
成美はよく由衣に向かってそう言います。
「へ?」
「だって、あんた見かけの割には運動神経悪くないでしょ。それなりに努力すればレギュラー入りも目指せるのに」
「それなりの努力はしてるんだけどな」
「それは凡人の努力の仕方でしょ。もっと気合い入れてだね」
「マイペースでやらないと精神的にまいっちゃうから」
「だぁ! あんたって子は」
「ほんとは私、もっと別な事がやりたかったんだけど……」
由衣は思わずぽろりと本音がこぼれてしまいます。だからといってバレーが嫌いなわけではありません。
「別な事?」
成美が訝しげな顔をします。
「え? うん。そんな大したことじゃないし。そう……話すほどのことでもないから」
由衣は苦笑いしながらなんとかごまかしました。この年になってあの事を話したら笑われてしまうに決まっています。
そんな子供じみた願望は誰かに話すことなく心の奥底に沈めてしまいました。
すぐにいつものお喋りに戻ります。学校の話、TVドラマの話、芸能人の話に他人の色恋沙汰。
たわいのない会話は嫌いではありません。誰かに話を合わせるのだって、楽しければそれでいいと彼女は思っています。
たまに、そんな由衣の性格に気付いていろいろと忠告してくる人もいました。
「八方美人ってさ、誰からも愛されるようでいて、結構損する場合も多いよ。本当の自分を理解してもらえなくて『何考えてるんだかわからない』とか『調子がいい奴』とか勘違いされたりもするし」
でも、彼女は今のままで満足しています。楽しいことだけ感じて、嫌なことは忘れてしまえばいいんですから。
ノンキだねって、友達にはよく言われます。
でも、心の奥底では、そんな上辺だけの楽しい世界から一人、抜け出したくなることも……。