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サブスク・ロイド

作者: 西順

 今や世の中はサブスクの時代である。


 サブスクリプション(定額制)は最初雑誌の定期講読から始まったとされ、動画配信や音楽配信、車に食に服と、今や買い物でサブスクを活用しない者はいない時代となって久しい。


 もうこれ以上サブスクに出来る売り物は無いのではないか? 世間がそう思っていても、いやいや、まだまだ売り手には引き出しがあるものだ。


 サブスクロイド。


 月々10万円の定額制(サブスク)で購入出来るアンドロイドが売り出された。


 昔流行った話し掛けると反応を返してくれる、スマホや家電に内蔵されていたAIのバージョンアップ版である。


「ロイド、TV付けて」


 そう言えばサブスクロイドは、機械の手でリモコンを持ってTVを付けてくれる。


「ロイド、部屋の電気消して」


 そう言えばサブスクロイドは部屋の照明のスイッチがある場所まで行って照明を消してくれる。


 こんな風に書くと一見無駄の様に思えるが、サブスクロイドは「料理をして」と言えば、朝昼晩に合わせ、ちゃんと予算内で美味しい料理を作ってくれるし、「歌を歌って」と言えば、まるで目の前に歌手がいるかのように、配信音楽と寸分違わぬ歌声で歌ってくれる。こっちの方が臨場感があって私は好きだ。


 サブスクロイドはアンドロイドなので足がある。当然だ。だから買い物にも行ってくれるし、車の運転だって代行してくれる。


 私が車で友人と飲みに行った時など、サブスクロイドを連れて行けば、酔い潰れて眠ってしまっても、サブスクロイドが車で家まで送ってくれるので助かる。


 そしてなんと言ってもサブスクロイドの凄い所は、自らお金を稼ぐ所だ。


 チラシをポストに投函していくポスティングや、食品倉庫で延々とケーキにイチゴを載せていく仕事などは得意である。


 こうした仕事をサブスクロイドにさせているので、こちらは月の10万円を払ってお釣りがくる生活をしている。


 だが人が一人生活をしていくには余ったお金では足りない。


 私は更にもう一体サブスクロイドを購入した。


 もう一体購入した事で維持費(サブスク)は2倍になったが、得られるお金も2倍である。こうして私は(わずら)わしい仕事に追われる生活から解放された。


 サブスクロイドの優秀さの証明か、世間ではサブスクロイドを購入する家庭が増えていった。大抵一人に対してサブスクロイドの2台持ちで、自分の食い扶持と主人の食い扶持を稼がせるのが主流だ。


 そして購入されたお金を投入して、サブスクロイドはどんどん改良されていき、サブスクロイドに出来ない事は無いとされ、会社に行って仕事をするのもサブスクロイド、家でリモートで仕事をサブスクロイド、家事をするのもサブスクロイド、恋の相手もサブスクロイド、結婚するのもサブスクロイド、そんな時代に突入していった。



 モニターの向こうではサブスクロイドの政治家が自分たちの権利を主張し、それを見ながらコメンテーターのサブスクロイドが皮肉を言っている。


 世界の主流はサブスクロイドで、人間の数はどんどんと減っていき、気付けばサブスクロイドによって私たちは絶滅危惧種に指定され、手厚い保護の名目で、一定区画に軟禁されていた。


 自然な形が望ましいと、サブスクロイドによって用意されたその区画は自然に溢れていたが、火をおこすのも一苦労で、ガスや電気はおろか水も通っていないので、井戸まで水を汲みに行かねばならず、田畑を耕し、野の獣を追い掛け、川で釣りをする。そんな前時代の生活を強いられていた。


 たまに監視の名目でサブスクロイドたちがやって来ては、チョコやガムなどの甘いものを私たちに与えては、ご満悦な顔をして帰っていくのだ。


 私たちはいつから道を踏み外してしまったのだろう。ただ楽なものに手を伸ばしただけだと言うのに。


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