女神の間と別れ
世界の成り立ちと転移させる理由を新しく追記しました。
(私の肉体と種族を再設定させてください)
再設定が正しい表現かは分からないが意図は伝わった筈だ。できるかな?
「はい、できますよ。ですが、具体的にする必要があります」
要求が通った。肉体を一度分解しているなら、できないとは思えなかった。それなら、
(まず異世界にどんな種族がいるか教えてもらえますか?)
ーーーーー
色々聞いたのですが、時間が足りなくなりそうなので概要だけです。ですが本当に心踊るような話を聞くことができました。
種族は変えられなくても、髭やニキビ、肌荒れをどうにかできればいいと考えていたので、再設定できるのは最高の朗報でした。
種族についてですが、様々な種族がいるようです。人間種族だけでも、人族、複数の獣人族、エルフ族、ドワーフ族、ハーフリング族に巨人族。魔族、鬼人族、吸血鬼族、竜人族、海人族が存在するようです。人族が最も多いそうです。それと、過去に獣人族の幾つかと天使族が滅びたようです。本当に多く、前の世界とは比べものにならない多さです。種族間関係は良くも悪くもなく、人族の国の評価はあまり良くないらしいです。
他種族で交配すると、ほとんどは両親のどちらかの種族になるみたいです。稀に先祖帰りやハーフが生まれるそうです。先祖帰りで滅んだ獣人族や天使族も生まれてくるらしいです。交配と言った女神様の顔が赤らんでいました、可愛い。
妖精、精霊、ドラゴン。他にもいますが、そういった、人間や魔物とは違う彼らを幻想種、幻獣種と言うそうです。意思の疎通もできるみたいです。人化できるなら子を成すことも可能らしいです。
魔物についても聞いてみましたが、こちらは更に多く存在するみたいです。魔物は他の種族に敵対的で、群れを作ることもあれば、同種でも殺し合うこともあり、危険な存在らしいです。人に飼われる魔物や共存する魔物もいるみたいですが。魔物を討伐することが冒険者の存在理由の一つみたいです。
ついでに世界の成り立ちや異世界に転移させる理由を聞いてみたのですが、女神様がこの世界を作って少し発展させた後は此処で見守っているようです。というよりは眠りについてるような状態です。転移が行われたときには転移者の肉体の作り変えと説明をする為に起きますが基本は休眠している状態らしいです。
異世界から人を転移させる理由ですが、ある程度発展した世界の危機的状況に毎回女神様の力で安易に手出しをするのはどうかと思い、転移の道具を作って授けたそうです。神の力でどうにかするのは人々にとって良くないことが分かったので、自分のいた世界で条件に合致して、問題にはなりにくい人を対象に救済目的で異世界に転移させる魔法の術式や、呼ばれた人を世界から集めた魔力で強化できる術式を道具に描いて。自分が教室で見た術式は転移の術式だったみたいです。
過去に何度か正当な理由で転移道具が使われていたのですが、今回の転移で起きて、異常な状況を把握して急いで転移魔法に介入したみたいです。ですので、現在の異世界の状況は詳しくは知らないようです。現在の種族の状態や問題の転移を行った国の周りは軽く調べたようですが。
自分達を転移させた後は転移道具の不具合の修正を、転移時に生じる時間や空間のズレの間に直すそうです。転移を行った者達がどうなるかは霧散した魔力の影響で女神様が直接裁かずに済むとだけ。現世に介入できるのは色々を考えてそれだけなので女神様はとても暗い顔をしていました。
種族概要や異世界の成り立ちを聞けたので再設定の話ですが、肉体や種族を新しくするのは容易だそうです。質問で肉体を分解、再構築中ということが分かったのでこの話も思いつきで出てきました。ええ、塞翁が馬というやつです。
種族の容姿やら能力を女神様に聞いてみましたが、こちらも大まかです。外見や能力の特徴から、寿命の長さ、身体能力、魔力や魔法の適正を種族平均ですが教えてもらいました。種族固有の能力もあるそうです。
天使族が身体能力以外の種族平均がトップだったので天使族にしました。身体能力も上位で弱点がないです。容姿は美形で白い翼がありますが天使の輪は有りません。性別を自在に変えることができるみたいで、男性女性は勿論のこと、無性が存在するみたいです。無性は性欲がないみたいなので、凄く便利という印象です。
寿命が千年位で、身体能力が高く、美形であり、魔法を扱うことが容易になる。夜目が効く、性別も変えられるという夢のような種族です。
エルフ族や吸血鬼族、竜人族が対抗馬に上がりましたが天使族の圧勝です。
なぜ滅びたかは、細かく聞きませんでしたが、戦争や病、災害で滅びたわけではないみたいです。異世界で生きていけるならそれで充分です。
肉体の再設定ですが、一番時間をかけました。天使族になった自身の肉体を立体映像で見せてもらいましたが、手作業と思念で変えていくので大変でした。
全ての性別の顔のパーツから骨格、手足の形の長さと、隅々まで決めていったのでえらく時間がかかりました。ですが、どれもその時間に見合う容姿になりました。
どの性別でも共通の髪や眼の色、肌の色は最初に決めました。髪型はショートヘアーで後ろに流し、サラサラにしました。髪色は灰色にも銀色にも見える色です。シルバーグレーと呼ぶそうです。
眼の色は色々試しましたが、思い切って銀眼にしました、とても綺麗です。肌の色は透き通るような白い肌です。
そして、歯並びや髭、視力、ニキビ、肌荒れ、ムダ毛の問題が消え、お肌はツルツルになりました。
天使族の翼は収納可能なのであまり気になり、いえどう見ても邪魔です。それに翼で空を飛ぶ気がどうにも湧かないので取ってしまおうか考えましたが、翼は魔力操作で出し入れ自由なのでそのままにしました。
空を飛ぶのは練習が必要なので、気が向いたときに練習しましょう。翼を広げるだけでも落下速度が緩やかになるそうなので事故も減らせるでしょう。
完成した肉体を見ますが、無性体は男性体とほぼ同じです。元が男性なので。雑念を払いたい時になりましょう。
男性体は、中性寄りで美顔です。背が高く、無性体より若干筋肉質ですが、以前の自分よりはスマートです。手足が長くなったからでしょうか?筋肉質で逞しさはありますが、美しくもあります。自分の理想的な男性像そのものと言えます。
それ以上に嬉しいのは男性体でも髭が生えなくなったことです!これで髭剃りをする必要がなくなりました!最高!
女性体は、美人顔の中に可愛さが映るようにしました。女性の印象から背は低目に、小顔で身体つきは細めに、細すぎにならないよう調整が大変でした。元の自分が男性だったので、女性体になる気はまずありませんが、これだけは言えます。絶世の美女です。
作成前は女性体になる気はありませんでしたが、作成しなければならなかったので、作り込みました。これだけの美女を作っておいてならないのは勿体無い気がします。こちらは、必要なときや気が向いたときになりましょう。
客観的に見ると自分は、裸の人間をじろじろ見ているヤバイ奴です。
以前の自分と比べると、どの肉体も大変魅力的な容姿になりました。元の自分に愛着がないわけではありませんが、なってみたい自分になれるのです。素直に喜べます。
異世界転生で容姿や性別が変わっている話もあるのです。好きな姿になれた自分は幸運でしょう。懸念していた性別変更時の痛みなどはないそうなので安心です。
身体能力も異世界基準になり、天使族になったので元の肉体より上昇しているらしいです。期待しましょう。転移すればすぐに確かめられますが、まだ終わっていません。
肉体の作成も終わったので次に行きましょう。念の為女神様に聞きましたが、相手の力を奪う力や虜にする力などの力は駄目だそうです。安心しました。
(女神様、何もない空間から物の出し入れをする力はありませんか?)
「他の方達も聞いてきましたよ、あります」
俗に言う、アイテムボックス、マジックボックス、インベントリだ。あって良かった。
「収納と言いますが、こちらは魔法に近い力で、魔力量と習熟度で収納内の大きさや取り出し速度が変わります。そして収納内の時間の流れは緩やかになります」
(どのくらいの大きさになりますか?)
「初めはこれくらいです」
修学旅行に持っていくバッグ位の大きさだ、充分だ、持つ荷物を減らせる。
(収納内の時間経過速度は?)
「一年で一日分です。これも伸びます」
時間経過もほぼ無しと言えるでしょう。
(では収納を。再設定と収納でどれぐらい力を使いましたか?)
「再設定が二割で、収納が五割です」
後三割だ、なら、
(魔力と魔法の説明をお願いします。使い方や増やし方があるならそれもお願いします)
ーーーーー
聞きました。魔法は火水風土光闇無の基本属性魔法と種族固有魔法が存在しており、無属性の魔法は身体強化のみ。他は色々ありました。自分の魔法適正も聞きましたが、転移者はどの属性も使えるそうです。強くないですか?それ?
身体強化は魔力消費がほぼ無く、誰でも使えるので、異世界の人々は使っている自覚がないそうです。異世界の人々の素の身体能力は高いですが、この魔法のお陰で更に高くなるようです。
具体的には、普通の成人男性でも百メートルを十二秒台位で走れるそうです。とんでもない魔法ですね。
肉体の訓練や鍛錬をするほど身体強化の効果も上がるようです。それと使える者は相当限られていますが、一時的にそれよりも強力な力を発揮できるそうです。
その分、肉体の消耗も相当なものになってしまいますが。例えるなら、リミッターや火事場の馬鹿力でしょうか?
他の属性魔法も聞きましたが、向こうで試しましょう。魔力も魔法も、向こうでなら使えるようになっているそうです。やっぱり全属性は強い印象を受けました。
そして種族固有魔法は明確ではなく、エルフなら住んでいる場所の軽度の自然干渉、ドワーフなら、金属精製・加工に対する魔法の行使だそうです。ドワーフが採掘や金属に対して使う火・土魔法は他の種族には再現が難しいとされる程高度だそうです。
魔力はその日の体調によって最大量が変動するそうです。肉体精神の状態で魔法にも影響が出て、痛みや動揺、錯乱は魔法の威力を落とすことや発動できない状態にするそうです。気をつけましょう。
魔力量の増やし方は魔力を使うことです。半分以上使うと雀の涙程ですが増えるようで、魔力を使い切ることが最も増えるようです。普通なら体調が悪化し、使い切れば死に至りますが、魔力器官を改造された私達なら可能です。
更に言えば、成長の力が私達にはあるので魔力量は普通より増えます。私は天使族になったので魔力の回復も早いです。魔力量もその分増えるでしょう。女神様に感謝しましょう。
魔法適正や使い方はもう備わっているので、残りの力をどう使うか思案します。女神様に残り時間を時折確認していますが、差し迫っています。再設定に大きく時間を使いすぎた。
(健康の力をください)
「はい」
これで体調不良や病気は防げるだろう。魔力量の低下や寝不足や食事でおきる肌荒れとかも。
「毒や麻痺などにも強くなりますよ、耐性の力もあります。健康の力でまず大丈夫ですが、寝不足はダメですよ。食事もできる限りバランスよく摂ってくださいね」
(ありがとうございます)
(残りは?)
「一割です」
他に欲しい力がないか考えます。まったく知らない異世界で生きていけるように。まったく知らない?ええ、知りません。
元の世界ではなんて事のない挨拶から食事、当たり前に受け入れていた文化、風習、マナーがまるで分からない。種族も多い、種族間関係は聞いたが、どちらもタブーがあるかもしれない。
自分は、自身の容姿や能力にかまけてそれらをまるで気にしていなかった、その事実にゾッとした。それなら、
(異世界で生活する知識をください)
「範囲が広すぎます。容量オーバーです」
くっ足りない、でも女神様が微笑んでくれている、考えろ、言え。
(異世界の挨拶や食事、マナー、種族のタブーの知識をください。やると危険なことを優先で)
「分かりました、知識を授けます」
脳内に何かが入り込んでくる。その感覚に思わず目を閉じる。
「はい、授け終わりました、もう大丈夫ですよ」
目を開けたときに、女神様が大輪の花が咲いたような笑顔でこちらを見ていた。思わず見惚れた。
「これで知識は貴方のものです」
脳内に何かがある。本から知識を得たような感じがする。絶対に安全とは言えないが、これで危険は少なからず回避できる。
「残りは?」
「使いきりました」
女神様が笑いながら答える。何故?
「喋ってますし、心の口調がブレブレでしたよ」
「あっ」
仕方ないじゃないですか!酷い!
「ふふっいえ、すみません」
「残り時間は?」
「一時間程です、肉体を作っているときの集中力は凄かったですよ?色々と危なかったですね」
最後のは間違ってなかったらしい。そんなに面白かったですか?
「はい、真剣でしたから」
「うっ」
「転移場所の希望を教えてください」
「政情も治安もできれば安定していて、冒険者が始めやすいところを」
「分かりました」
「転移者だとバレないようにするには?」
「口外しないことです」
「残りでできること、剣の振り方を女神様が直接私に教えてくれますか?」
「はい!」
教えてくれるようだ。ファルシオンを渡す。時間も残り僅かだ。残りの時間を大事にしよう。
ーーーーー
短かったが剣の使い方を教わった。綺麗な太刀筋だった。綺麗だった。
「見事です」
「ありがとうございます、不安ですか?」
剣を返される。装備は整った。
「はい」
「その身体なら武器も問題なく振るえるでしょう、生きてください」
肉体も既に変わった。
「はい」
「転移して起きたら、真っ直ぐ進んでください、街があります」
「はい」
「残り時間はあと数分です」
時間だ。
「もう会うことはないでしょう。ですが大丈夫です、貴方は掴み取りました」
「そうですか」
寂しくなる。抱きしめられた
「貴方と居れて良かったです、楽しい時間でした」
最後に
「からかわな・・・」
「本当ですよ?」
自分から離れた
「・・・貴女を楽しませることができて光栄でした女神様」
「・・・」
「女神様?」
「アリステアです」
最後だ
「アリステア様」
「はい」
「本当にありがとうございました。生きてみせます」
「はい」
自分の肉体も既に変わっている。
「自分の新しい名前を決めました」
再設定でできたが決まらなかった名前だ。
「聞かせてください」
「ペスト、ペスト・エクスマキナです」
ペストは決まっていた。
「ペストは貴方がいた世界の病では?」
「はい、死の舞踏の印象が強かったので、この名前にしました。死ぬまで生きます」
「エクスマキナは?」
「今回の事態で思い付きました。異世界転移することに、アリステア様と会えたことに、自分を変えたことに、ご都合主義に思えたので」
「これは現実です」
「はい、生きて自分の力で掴み取るという意味で付けました」
そう言うと、アリステア様は笑った。
「もう時間です」
辺りが白く光り始めた。転移だ。
本当にこれが最後だ。
「アリステア様」
「はい」
「本当にありがとう、生きてみせるよ」
「はい!生きてください」
視界が真っ白になった、意識も途切れる。ありがとう
ーーーーー
「行ってしまった」
彼が最後で本当によかった。間違いはしなかった。彼なら大丈夫だ。彼以外のここに来た三十九人の疑問と感情と心の声を同時に聞きながら説明していくのは本当に大変だった。
混乱と憎悪、狂喜と絶望、不安と疑心、私に向けられた様々な感情と他に向けられた様々な感情を感じながら。
私の説明を聞いた人も聞かなかった人もいる。説明をし終わった後、寝ていた彼に気付いたときは驚いた。今までの転移者でここで寝ていた人はいなかったから。
彼等が終わったので彼を起こそうとした。起きた彼の突然の心の声に驚かされた。そのあとの対応には調子を狂わされた。
今回の事態を説明したときは冷静だったが浮かない顔だった。事実を聞いて恐怖一色の彼が心配だったので抱きしめた。彼の心の奥底は諦観と何かを求めていた。渇望だ。
代わりの力に感謝していた。物を交換したときは悲しげだった。種族や世界の話に心を躍らせた。新しい肉体に喜び、魔法の話に目を輝かせた。真剣だった。
異世界の生活に目が向かなかったことにヒヤヒヤしていた。気付いてよかった。最悪なことは避けられるだろう。喋って、心の口調が崩れていることを指摘したときの動揺と怒り顔につい笑ってしまった。
異世界で生きていくこと、武器を振るうことに不安そうだった。会えなくなることに寂しそうだった、また抱きしめた。
彼は決意がみなぎった顔で生きると言ってくれた。嬉しかった。彼が聞かなかった名前を教えた。呼んでくれて嬉しかった。最後に彼の感謝を聞けた。嬉しかった。
もう手を貸すことはできないが、彼ならきっと大丈夫だ。異世界でも生きていける。どうか、どうか生きていけますように。
神ではあるが、私はそう祈るしかなかった。
さあ、こんな事がもう二度と起きない様に始末を付けよう。
十秒は早すぎだと思ったので十二秒にしました。
人族のタイムです。