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治癒院と鍛錬

 ギルドを出てから街中を歩いて見て回っているが、人通りも多くなってきたので色々と大変だ。


 街の構図は門の近くに兵士の宿舎に宿屋や飯屋に露店がそれなりにあり、進んでいくと市場の通りがある。ギルドは街の南側だ。外壁と中心部の真ん中近くに存在する。工業地帯は街の南側の外壁近くにあり、家はそれ以外の場所に存在する。 北や南に門は存在しないが、十字の道があるので進みやすい。


 中心はこの街を統治している貴族が住まい、その回りには裕福そうな家や店が立ち並んでいるのだ。貴族御用達の商家や服屋などがあるそうだ。ホッヘルでもそうだったがまだ中心には行っていない。


 南、西と回って今歩いているのは街の北側だ。北西から流れる水路の橋を渡って来た。家が多いからか少し静かというか、殺風景にも見える。外壁近くに行く程その傾向が強い。路地裏みたいな通りもあるが、やめておこう。いい感じがしない。東を回って宿の方に戻ろう。





 また北東辺りにある橋を渡って歩いている。街の北東部の通りは北側より活気があり、広場や市場がある。住民街といった感じだ。


 その中に治癒院があった。それなりの大きさだ。


 治癒院かー。病院に近いと前に言ったが、孤児院や教会の側面も持つ。簡単な読み書き計算もここで習える。光魔法を使える者は勧誘されるらしい。誰でも入れるから取り敢えず中に入ってみよう。


 石の低い段差を登り、左の大きな木の扉を開く。中に入り扉を閉める。


 長方形の石が並べられた床に壁、木の柱、奥には木の長椅子が縦に二列、五つずつ並んでいる。窓から陽の光が入り、柔らかな感じがする。質素とも言える広間からは冷たい印象を受けるのに、陽が差し込むだけでここまで変わるのか。神聖さというのが分かった気がした。


 中を進む。この広間だけでも百人、二百人は入れそうだ。光を一番浴びている教壇みたいなところまで進んでいく。そこに黒い修道服に身を包んだ女性がいるのだ。


「こんにちは」


 あれ?話しかけた女性は無表情に近い、目を大きく開いた状態だ。瞬きすらなくて少し心配になる。


「こんにちは」



「神、様?」

「違いますよ」


 はい?と思ったが即座に否定した。


「フフッ冗談です。こんにちは」


 相好を崩して柔らかい挨拶を返される。女性は優しそうなお姉さんという感じだ。ベールがないので顔がよくわかる。長い金髪を伸ばしている。背中辺りで髪を結んでいて、フワリと広がっている。


「教会には何のご用で?冒険者様?」

「少々祈りを捧げに来ました」


 やっぱりないよな。


「あら、ではそちらの方でお祈りください」


 椅子の方を手のひらで示される。本当に残念ではあるが、顔は完璧に覚えている。ここなら祈りも届きやすそうだ。


 ファルシオンを置いて右の椅子にすわ・・・、


「貴女も祈るのですか?」

「はい、お隣の方に座らせていただきます」


 先に座って女性も座る。


 祈ろう。


 目を閉じ、胸に付かない位置で両手を組み、頭を少し傾ける。


 音のない今この瞬間は心がなによりも澄み渡る。


 アリステア様に祈る。






 暫く目を閉じていたが、目を開けた。また祈る。






「かなりのお時間を祈ってましたね?」


 目を開けると女性が話しかけてくる。音がしなかったので動いていないのは分かっていた。


「そうですか?」

「ええ。一度で終わりかと思っていたのですが、また祈っていたので。信心深いのですか?」

「いえ、祈ってみようと思う気分でしたので」

「何にお祈りを?」


「大変優しくしていただいた人への感謝を」


「二度目は?」

「巡り会えた人達への感謝と無事を」

「三度目は?」

「全部見てたのですか?」

「どれも大変綺麗なお祈りだったのでつい・・・」


 少しばかし悪いことをしてしまったような顔で言われる。

 あらら?全部見られてたのね。


「最後は私自身の心への祈りです」


 立ち上がって剣を背負い頭を下げる。


「長い時間祈らせていただき、ありがとうございました」

「ええ、貴方の感謝に、感謝と無事を」


 手を組まれて祈りを捧げてくれた。陽光で照らされた姿はとても綺麗だ。


 目を開けた女性に軽く頭を下げて外に向かう。


 さあ、昼食を摂って鍛錬だ。


ーーーーー


 とても綺麗な青年だった。顔も心も。剣を背負っていたが戦う人間にはとても見えない。冒険者だと荒々しい雰囲気やそんな姿が少しはあるのだが、それがまるでなかった。


 姿を見て固まり、のんびりとした様子で微笑んで挨拶をする姿に固まってしまった。


 どうにか立ち直って言った冗談にも微笑んで返された。終始同じ様な雰囲気だった。


 私は祈らずに彼が祈りを捧げる姿をずっと見てしまった。白い光を浴びて光る灰銀色の髪と完成された顔、目を瞑り祈る姿が余りにも綺麗で音を立てたくなかったという思いもあるが、ただただ圧倒されていた。


 質問にも一切嫌な顔をしなかった。全部をずっと見ていたのにちょっと驚いて優しく笑うだけだった。本当に冒険者なのだろうかと思ってしまう。


 お礼を言うときも、私の祈りが終わった後も。


 どの笑みも違っていたが、優しげで、ずっと見ていたくなるほどの美しさだったが、最後の嬉しそうな微笑みが一番綺麗だった。


 冒険者様と言わずに素直に名前を聞けばよかった。


 彼が去った後、思わずまた会いたいと祈ってしまった。


ーーーーー


 昼食を露店の串焼きとスープで済ませ、街の外に出た。暫く南の道を走って逸れる。


 暫く目を閉じたお陰か、世界の景色が更に見えていた。心も清々しく落ち着いている。風が心地いい。


 さあ、鍛錬だ。


 伸びをしてから、体に弾みをつけて跳んで解す。終わったらグローブを着けてスプリガンソードを取り出す。この剣は魔力を注いで念じると大きさが変わる魔法剣だ。最大で二メートル以上になる。


 この剣を使っていたと思うあのオーガは怪物だ。振れている自分もだが。


 剣を背と同じ大きさに変える。長さも厚みも重さも増えていく。大剣になるとかなりの重みになる。50キロは優に超えていると思うのだが、これが良いのだ。鍛えられる。バランスが崩れずに早く振れるようになったので、もっと早く振れるようにしよう。


 持ち手をしっかり握りゆっくり振っていく。両手で縦横五十、片手で縦に五十ずつだ。ゆっくりと早くで五百だ。終わったら他の武器も振ろう。


 振り返って後ろから近寄ってきたゴブリンの首を切断する。例えはあれだが、紙でも切るような感触だ。頭が回転しながら地面に落ちる。


 魔物の気配もある程度感じ取れるようになった。他の気配がまだまだ感じ取りにくいのは、魔物ではないからだろうか?ゴブリンから左耳と魔石を取り、また大剣を振り始める。


 強くなっている。もっと強くなろう。


*百キロ以上はあります。どこまで強くなるのでしょうか?

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