旅路
走る走る走る。街から出発して少しは経ったと思う。
体を動かすのは楽しいから走る。少し速くなっている気がするし疲れない。照らされた世界がよく見える。左右で同じ様に見えてピントがブレることもない。
アリステア様に感謝しよう。これだけでも凄いと思える力だが、それ以外にも沢山もらった。最高の贈り物だ。
街から西への道以外は平坦な草原だ。ある程度整えられた平坦な道をずっと走っていたが景色が変わった気がしない。何度か人や馬車とすれ違っている。
この道を行くと街がある。ペルンの街だ。途中に大き目の村が二つあるらしい。時間次第ではそこで泊まろう。
お昼手前だから一旦休憩だ。立ち止まってグローブを外し、ハンドソープを取り出し手を泡立て洗い流す。四、五人は座れる大きさの布を広げて座る。作ってもらった弁当と水筒、ティーポットとカップに小さめのティースプーン、茶葉にクッキー、ポプリを取り出す。
沸騰させた水筒の水でティーポットとカップに注いで温める。ティーポットの水を捨ててスプーンで三杯分の茶葉を入れて熱湯を注ぐ。蓋をして待つ。二分半から三分だ。時計が欲しい。時間を超えすぎると苦くなってしまう。茶こしが付いているから途中で外すこともできるが。
カップやポットは温かい状態を保つと美味しいのだ。時間も喫茶店の人に聞いた。ポットもカップも陶器製の物で、白にいくつか赤い花が咲いた絵が描かれていて綺麗だったので買ったのだ。
喫茶店は木造で雰囲気のある店だった。おじさんおばさんがやっていたお店で軽食と果物のケーキとクッキーに紅茶があったのだ。ケーキにはクリームがなくて酸味が強かったが、後から甘みが出て美味しかった。値段は高めだったが満足だ。
紅茶の待ち時間の間に、先にお弁当の包みに入っていたサンドイッチを食べる。パンの柔らかめな食感にパリッとしたレタスと肉の味、付いていた甘じょっぱいタレの味を楽しむ。美味しい。
西のこの道には魔物の住む場所はなく、人通りの多いから魔物は殆ど出てこない。出てきてもゴブリン程度だ。更には魔物避けの香りがするポプリを出しておけば弱い魔物からは襲われずに済むのだ。
サンドイッチを食べ終わったら、ティーポットの蓋を開けて茶こしを取り出し、ティースプーンで中を一混ぜする。
ティーカップのお湯を捨てて紅茶を注ぐ。良い香りだ。まずはクッキーを食べよう。これも美味しいのだ。
受付嬢さんに渡したクッキーと茶葉だが、喜んでもらえると嬉しい。
クッキーを食べる。甘くて美味しい。あの喫茶店を見つけられて良かった。
紅茶を飲む。ハァー美味しい。幸せだ。
食事を終わらせたらまた出発だ。ポットやカップを水魔法で洗い、水分を飛ばし収納に仕舞う。
そうしてまたしばらく走っていると景色も少し変わり始める。遠目にだが右手に小さな丘が見える。
ちょうど右手側の四十メートル程先に棍棒を持っているゴブリンが現れたので収納から複合弓と木製の矢を取り出し、引き絞り、射る。矢が飛び、狙い通り額の真ん中を射抜いた。ゴブリンが仰向けに倒れる。
理由は分からないが、オーガを仕留めた時から戦闘時に時間が少しゆっくり目に感じることが多い。接近戦が一番ゆっくりに感じられる。最大で1秒が1.2秒になった感じだ。もっとこの感覚を磨こう。
仕留めた場所に向かい、ゴブリンを見る。矢は折れてしまっていたが貫いていた、弓の感触はコンパクトで取り回しが簡単だから凄くいい。
耳と魔石の回収を行う。魔黒鋼の剣鉈で切り裂いた感触が少し軽い。手早く耳を切り取り魔石を取り出す。どうにかこの一月以上の間で闇魔法を使わずとも解体が行えるようになった。これを慣れと言うべきか、精神の摩耗や成長と言うべきかは分からないがありがたい。
済ませたら頭を潰して出発だ。棍棒も重くなっている以外は変わっていない。ガレスさんに感謝だ。
さて、小さな丘が見えたし、もうそろそろ村に着くだろう。歩いて二時間だ。スピードをもっと上げよう。
この日ホッヘルに着いた旅人や馬車の御者は語った。とてつもない速度で走る人とすれ違ったと。馬のような余りの速さによく見れなかったが、明るい灰色の髪の美しい青年が走っていたと。
二十分位走っただろうか?村が見え始めたのでペースを落とす。身体の火照りもすぐに収まる。全力疾走の軽い息切れ(苦しくない)も数度の呼吸で収まっていく。
木の柵で囲われていて門も見える。規模も大き目で、農村と言うよりは人通りの多い中継地に近いかもしれない。
近くまで来たので歩こう。
誰もいない門を抜けて歩いて行く。
何かあるかな?
村を通り抜けた。発展はしていたがそれぐらいだった。村人や商人や冒険者が見てきたが特に話しかけては来ないのでそのまま歩いて村を出たのだ。
水が引かれていて家畜も畑もあり、のどかだった。ホッヘルでもそうだったが、悪臭があまり無く、汚いものも殆ど落ちていないのだ。バルザスさんの宿の洗面台の水の魔道具も蛇口だったし、この身体だと排泄する必要がなかったが、トイレは前の世界のトイレと同じだった。過去の転移者のお陰だろうか?衛生面の発展度は異様に高い。
村は木造建築が多いがどれも絵になっているし、街の家々や道もそうだったが、大きくて伸び伸びとしている。開放的な印象がとても良い。前の狭苦しい感じがしないのだ。これは心にも良い。
ああ、この身体だが排泄行為をする必要はない。余程食べ過ぎなければ大丈夫だし、食べ過ぎても尿だけで済む。三日間食わずとも(水は必要)変わらず行動できるし、疲れは殆ど出ない。前の感覚だと人間からかけ離れていると思ってしまうがかなり便利だ。
さてと、村からある程度離れたしまた走ろう。此処から次の村まで馬車で三、四時間はかかるらしい。街までは倍だ。夜でも夜目が効くから街に着くまで走ってみよう。外に出て初めての夜だ。楽しもう。
・・・着いてしまった。まだ夕方だ。国境近くのホッヘルの街よりは小さいと思うが、外壁は同じような造りだ。もう一つの村はあっさり過ぎ去ってしまったし、不味いと思って鍛錬をしてからのんびりと来たのだが着いてしまった。
着いてしまったのだから仕方ない、街に入ろう。
せっかくの野宿が・・・。
主人公の速度と街までの距離を考えると色々おかしいので村の数を一つ増やして、鍛錬と時間をかけて来たということにして、追記修正しました。
修正前だと時速四十でも200〜下手すると300キロは走っている。距離感覚がおかしすぎる・・・
普通の追っ手からなら絶対に逃げ切れる主人公。
馬を使っても馬の持久力的に短距離で捕まえないといけない主人公。
フルマラソンを一時間以内に終わらせてしまう主人公。ヤベェ・・・。