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クラスメイトと狩り

 門を出て、今は彼女達と森に続く道の上を軽く走っている。ジョギングなら問題なさそうだ。荷物は街から離れてから収納に入れてある。ゴブリンが途中で見つかればいいけど。


「あっちに何かいるよ!」


 立ち止まってツインテが指差している左手の方にスライムがいる。それなりに遠い位置で、雑草に紛れていて見えづらいが見えた。これが気配察知か。


「スライムだな。倒しとく?」

「いえ・・・今はゴブリンよ」


 それじゃあ行こう。


ーーーーー


 森まで半分程度の距離を走ったらゴブリンを見つけた。最初に見つけたのはツインテだ。次にショトカが反応する。


「いた!」

「こっちに気付いたぞ」


 二匹だ。どっちもナイフを持っている。こっちに向かって来たが、途中で止まり始めた。五人いるのが見えたからだろう。


 ゴブリンは賢い。どの程度かは知らんが人数差を気にするだけの知恵はあるようだ。


 ただ、またこっちに来た。女子達を見ながらだ。濁っている目が笑っているようにも見える。欲には勝てないようだ。こいつらはケダモノのようだ。


 彼女達が強張りながらも武器を構える。


 俺はのんびり突っ立ていたが、石を取り出して左足を前に出し、右手で本気で投げる。


 全身を使わないので威力は下がるが、投げるモーションだけで済む。収納はやっぱり強力だ。不意打ちがいくらでも可能になる。


 石は後ろのゴブリンの左腿辺りに当てた。

「ギャァ!?」


 甲高い声で悲鳴を上げる。


 直線で走って来るから当てやすい。当たったのは見たが、まずは前のゴブリンだ。前にいたゴブリンが悲鳴を聞いて後ろを見た。加減して左手で石を投げる。こちらは右足に当てる。


「ギィァァ!?」


 転がって痛がってるが、こちらに憎悪と殺意の目を向けてくる。やっぱり魔物だ。


 彼女達を見る。


「やれる?」

「・・・うん」

「・・・ええ」

「・・・平気だ」

「弱肉強食。女の敵」


 浮かない顔だがやる気だ。眼鏡が一番やる気だ。ゴブリンの感情でも読んだか?


「後ろのやつ貰うけどいい?」

「ここまでお膳立てしてくれたから大丈夫」

「相手は魔物だ。遠慮せず仕留めろ」


 それなら遠慮しない。逃げようとしている後ろのゴブリンの方に向かう。

 前のゴブリンは近づくと立ち上がるが、そのいくらか横を通り過ぎる。

 後ろのゴブリンは逃げていた。足を引きずっているが、背を向けているので怪我の程度が分かりにくい。


 ゴブリンがいた場所からナイフと血の跡が見える。結構な血の量だ。投げた石もあったが、貫けなかったらしい。当たった場所が血塗れだ。

 ゴブリンの頭が前後に揺れているから今度は背中に投げた。


「ギィァァ!」


 悲鳴を出して倒れるゴブリン。のたうち回っている。収納から棍棒を取り出して頭を潰す。ゴブリンの後頭部が凹む。仕留めようだ。もう動かない。


 どう考えても弱いもの殺しだが仕方ない。対等な殺し合いはしたくないし、しようとも思わない。


 すぐに彼女達の方を見る。ゴブリンの悲鳴が聞こえた。


 ちょうどショトカが槍で刺したところだ。その後ロングが横から棍棒で、ゴブリンの頭を上からぶっ叩いた。ゴブリンが崩れ落ちる。

 仕留めたらしい。彼女達の方に向かう。こっちのゴブリンは後だ。


「大丈夫?」

「ええ・・・」


 彼女達の息が上がっているが大丈夫そうだ。魔物の敵意や殺意のせいだろう。罪悪感が湧きにくい。


 死んでいるゴブリンを見る。左足に焼けたような穴と刺し傷があるし体も何箇所か斬られている。魔法と剣の跡だ。


 ゴブリンを殺すのを怖がっていただけだ。武器の扱いは見る限り大丈夫そうだ。後は気持ちの問題だった。


「解体は?」


 闇魔法は教えてある。


「大丈夫。できるわ」


 ロングが答える。他の女子にも目を向けた。頷いている。大丈夫そうだが、殺すよりグロいぞ。


 そう言ったから、俺は殺したゴブリンの方に歩いていく。こっちも魔石を取り出して左耳を切り取らなきゃいけない。


 こんなことをしても空は晴れていた。


 俺らを転移させた奴らが憎く思えた。


ーーーーー


 ゴブリンから魔石を取り出した。やっぱりグロい。闇魔法があってもグロいものはグロい。


 左足を見たが、ぽっかりと穴が開いていた。近距離なら貫けただろうか。石の尖った部分が原因だろう。


 彼女達の所へ戻る。こっちも終わっている。


「大丈夫?」


 さっきより暗い顔だ。切り開くのは胸だけだが、そこから魔石を取り出さなきゃいけない。


「うん」

「大丈夫よ」

「まあな」

「問題なし」


「帰る?」

「いや、続けて」

「分かった」


 何度か続けよう。


ーーーーー


 あれから何度か戦った。スライムも倒した。ゴブリンは複数体なら俺が投石で潰して一体だけにする。後は彼女達で囲んで仕留めるのを何度か続けた。


 街から離れる程、ゴブリンは結構出てくる。そのどれもが彼女達狙いだった。本当に女の敵だなこいつら。


 彼女達の戦い方だが、まず足を潰す。魔法や槍で潰していた。魔法は強力だが、身体強化や収納を使うには魔力を微量だが残さないといけない。


 魔法は魔法名を口に出して使っていた。炎弾(ファイアーバレット)だ。早い速度で直線を進む。近距離なら当て易い。


 眼鏡が率先して使っていた。魔法能力を選んだからだろう。


 そして魔力の起こりが分かった。魔法を使うときは何かが出て来る感覚が分かる。背後からでも感じ取れる。ある程度魔力を使っているからだろうか?これはかなり便利だ。


 ゴブリンを囲んでショトカが最初に攻めて足を潰しにかかる。サイドからロングとツインテがその後仕留めにかかる。眼鏡は弓がないから魔法要員だ。


 要所要所で他も魔法を使ってゴブリンの足を止めたり、貫いたりしている。戦法の判断はつかないが安全ではあると思う。


 最後は二体同時に相手をさせた。一体の片足は軽く潰したが、もう一体は健在だ。潰した方が短剣持ちで、もう一体は棍棒持ちだ。後の手出しは危険にならなきゃしない。


 健在なゴブリンをロングが足止めしている。片手に盾を持っていた。


 足を潰したやつはロング以外で一気に仕留めるようだ。ツインテとショトカが前に出ている。眼鏡が俯瞰できる位置にいる。


 戦いはすぐに終わった。短剣持ちは槍で足を刺したら、ツインテが胸を刺して仕留めた。迷いはなかった。


 ロングは盾で防ぎながら小剣でチクチク刺していた。棍棒持ちは眼鏡の火で足を焼かれ、最後は仕留め終わったショトカに背後から刺されて死んだ。・・・結構エグい。


 終わったので拍手する。彼女達がこっちを見た。取り敢えずはもう大丈夫だろう。


「戻ろう」


 今戻らないと日が沈み始める。


ーーーーー


 私達は宿に帰ってきた。あの後、冒険者ギルドでお金を受け取った。ゴブリンの討伐報酬と魔石の代金だ。


 登録をしにきたときにスライムの魔石を売ったが、スライムは倒した気がしなかった。生物とは言い難く、液体に近いからだろう。現実味がなかった。


 このお金は私達がゴブリンを殺して得た稼ぎだ。全部で六体分だ。お金を受け取ったときは思わず強く握りしめてしまった。貴重なお金だ。大事に使おう。


 その後彼にお礼を言った。先に外で待っていた。


「今日はありがとう!」

「本当に助かったわ」

「本当にサンキューな」

「この恩は死ぬまで忘れない」


 本当に助かった。最悪、怖くて街の中から外に出なかったかもしれない。魔物とも戦えそうだ。


「ああ。大丈夫?」


 そして心配してくれている。


「大丈夫!」

「どうにかするわ」

「心配すんな」

「千里の道も一歩から」


 最後の叶ちゃんの言葉に彼は微笑んだ。夕日に照らされた彼の顔に思わず見惚れた。やっぱり綺麗だ。


「なら良かった」


 今日は宿に帰りたいから彼と別れる。

 最後にもう一度お礼を告げて私達は宿に戻った。


 ベッドにみんなで横になる。・・・今日は疲れた。

 天井を見上げて呟く。


「強かったわね」

「うん」

「投石だけで倒してたぞあいつ」

「必中」


 戦っている彼を思い出す。彼は一人でなんてことのないように八匹も倒していた。最初の戦いは突っ立ていた彼を見て不安だったが、その不安もすぐに消し飛んだ。


 収納から石を投げただけでゴブリンは碌に動けなくなった。狙ってやったのだろう。ゴブリンも私達も何もしないと思っていた。


 そこからあの投石だ。怖かったゴブリンが一気に可哀想な存在にも思えてしまった。彼の殺せるかという質問にも微妙な返事をしてしまった。


 ただ、ゴブリンは痛みと欲望と憎悪の入り混じった顔で私達を見ていた。そのお陰で覚悟が決まった。


 彼から闇魔法の使い方を教わったが仕留めたゴブリンから魔石を取り出すのは辛かった。吐かずには済んだけど・・・


 その後何回も戦った。ゴブリンは私達を見ると全部がこっちに向かってきた。


 どのゴブリンも彼の投げた石に全部当たっていた。近くまで来て、頭部に石が当たったゴブリンは一撃だった。あっと言う間に死んでいった。投石だけでだ。


「早かったわね」

「うん」

「どうなってんだありゃ」

「世界記録ぶっちぎり」


 彼は狩りの最中でも息切れしなかった。あの速度で走ってもだ。ゴブリンを追いかける彼の速さにも私達は驚いた。私達も速く、強くなったと思うが彼はどう見ても強すぎる気がした。


 けど、今日は・・・


「今日はゆっくりしましょう」

「うん!」

「そうだな」

「心の休養」


 夕食は忘れないようにしよう。シャンプーもだ。


 彼にどう恩を返そう・・・


ーーーーー


 あれから彼女達と別れて資料室にいる。魔物と植物の資料をのんびり読みながら考える。彼女達はもう大丈夫そうだ。


 何度か彼女達の戦い方を見た。視力もかなりよくなっているからか、はっきり見ることができた。記憶もはっきりしている。


 武器の扱いもだ。槍も盾も覚えられそうだ。


 魔法も見た。魔法名を口に出していた。炎の弾に土の凸凹、足枷を使っていた。魔法の感知もできた。


 彼女達自身の身体能力はいくらか高くなっているだろうが、自分程じゃない。かけ離れている。性別差はあるかもしれないが、肉体も種族も変えたのが原因と見て間違いないだろう。


 取り敢えずの比較はできた。後は他の冒険者と組むことがあればその時に確かめよう。


 資料に意識を戻す。


 まだまだ覚えることは沢山あるのだから。


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