ビビりがベビーに成りました。
意識が浮かぶ。
体も、浮かんでいる。
……無重力って、こんな感じかなぁ。
とか思ったけど無理。
綿毛になったかの様に風の中、空の中。
流されている。
落ちて行く様に、流される。
風に吹かれて、飛ばされている。
わりと早い…… いや比較対象がないから分からない。
コントロールの術が、無い。
つかまるにも腕がない。
つかまるトコもない。
うぁあっ、コエエェ!
たぁああすけぇてぇええええ……ッ!!
光る雲の中、進み続けて、暗転。
水の中に飛び込んだ様な、感覚。
静寂。
いや、泣き声が、聞こえる。
暗いのは、瞼が開かないから。
聞こえるのは涙を流し、悼む声だ。
ゆっくりとして、しかし痛ましい音。
言葉として伝わらないこれは、何語だろう?
疑問の濁流があふれるが、何より寒い。
感覚が、ある…… でも喜べない。
体から熱が、逃げていくのを感じる。
凍える…… 冷えていく……。
マジでヤバイ?
また、死ぬ?
寒い、寒い、寒い、寒い、ヤバイ、死……?
震える身体に、勢いを込め、吐き出す。
叫んだ。
助けを求めて。
「ァアアァア……っ」
口の端から何かが零れ落ちていくが、それを見る事も出来ない。
今、願うのはただ、ただ、これだけ。
寒い、助けて!
「うぁあっ! ああっ!」
言葉にはならなかった。
誰か!
誰か!
「んぎゃあ! んぎゃあ!」
先ほど聞こえた泣き声が、何か答えた。
「……っ? ………! ……!!」
もう一人、男?
更に何かを言うが、解らない。
「……!! ……!! ………!!」
とても大きな誰かに抱き上げられ、体を拭かれ、毛布の様な物に包まれた。
やっと、寒さから免れた。
「ァアァア……」
自分の声に、理解する。
ああ、これが、新しい始まりだったのか。
暖かさが周りを包むと、凄く眠くなった。
……いかん、安全確認も出来てないぞ。
せめて、今の両親の顔くらいは見ておかなくては!
顔をしかめたり眉間に力を入れたり、目蓋をどうやって動かすのかを探る。
周りの声を聞き流し、やっとで目が開く。
ぼんやりと焦点を結ぶ生まれたての眼球が、その姿を捉えた。
大きくて白い羽根。
翼が生えた人!!
青い瞳。
銀色の髪。
今、抱き上げてくれている、男性。
浅黒い肌、長い耳、黄色い瞳。
金の髪の隙間からウサギの耳が!!
横たわりながら、こちらを見て泣いている女性。
手を伸ばしてきた。
俺も、手を、伸ばす。
掴んだのは、今の手では人指し指が精一杯。
「……っ!! ………~っ!!」
暖かな手が、頬を包んだ。
暖かな…… 暖かな…… 暖かい……。
眠い……。
もうむり…… おやすみなさい。
ぐーっ……。
ぐーっ。
ぐーっ。
……zzzZZ……。
眠った。
体中が軋む。
体全体が重たく、煩い位に疼く。
眠いのに、何かをしなくてはならないような、焦りを感じる。
[おめでとうございます]
はっ、この感じ!
えと、神様…… の代行者さん。
[うまく繋がってくれたみたいですね]
有難う代行者さん。
起きる前にちょっとだけ死の危機を乗り越える必要があるとは知らなかった。
[あぁ、説明不足で送り出してしまいましたね]
うそうそ。
大丈夫だよ。
それより、さっき、何か慌ててたでしょ?
失敗を誰かに咎められたりでもしたのか、ちょっと心配だったよ。
[すいません、神に罰を受けてきました]
かっ、神!!
……で罰!!
[そうです、私の雇い主です]
……うぁ…… 大丈夫だったの?
[まぁ、何とか。 話を全て伝えて判断を仰いだところ、貴方のサポートを為べしと告げられて参った次第ですが]
え。
え、何言ってんの。
神の使い、代行者ですよね?
[ご安心ください。 こちらに来ているのは分霊ですので、そこまで大きな咎というわけではありません]
いや?
え、何それ。
[本体は元の場所のままで、縮小コピーされリンクした私が遣わされたのです]
えーと、固定電話の子機?
それとも、ハンディ型無線機?
みたいなモノかなあ。
本体とは繋がっているの?
[はい、感度は良好ですよ]
じゃあ、ホントに無事なんだね。
良かったよう。
[ふふっ、本当に良い人ですね]
それより、こちらの両親!!
何かエラい美形に見えたんだけど。
しかも何か耳が長かったり、羽(?)が生えてた。
[種族は多少の差異がある、と申し上げていましたが…… 問題ありでしたか?]
いや全然。
気になるのは美形の方。
俺、パッとしない見た目だったからさぁ、あの二人の子供だと、格好よくなりそうで不安。
[はぁ、そういうモノでしょうか]
身体は眠りながら、過去を少し思い返していた。
まぁそれはそれ。
俺がこの世界に生まれ直せた事に感動と感謝を。
しかしそれを捧げるべき神の代行者への不思議な親近感を抱いていたので混乱もしていた。
あー、体が重くて関節とか疼くぅ。
そして腹減った。
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