ビビりの噂で西側は大騒ぎ
両親のオロオロが他国に影響を及ぼしたりしないだろ。
……あれ、してるじゃん。
☆
ここは極西の大渦。
水底の街ツィーガートは、海の国の貿易拠点。
地上の者はまず辿り着けぬ場所だが、珍しく客人が訪れたと聞いて、門を開いてみたら。
赤児が、病気かも知れない。
そう相談してきたのは有翼型の魔法使い。
海に泳ぎ入れぬ部族だ。
この海域沿岸にある村の住民であったか。
多種族の村が幾つか在るが、一番大きな村の筈。
彼処の村長は先々代からの顔馴染みよ。
木札も随分、草臥れておるの。
帰りには差し替えると良いな。
なんと、子はもう一週程元気がなく、言葉が少ない、と。
なれば、我らの出番であろ。
どれ、詳しく話しや。
既に、離乳食を良いモノに替えてみた。
品数を増やし、豪勢にした。
村長に相談した処、毎日ジャムを持って来てくれた、と。
ふむ、栄養素は過多気味か。
だが少量の不足を補う事も考える冪。
海の幸こそ極上の命。
魚を食わせて賄え。
我がアッギシー家の半魚人かトパメルエッゾ家の海人類に魚を届けさせよう。
後は…… そうさの。
感性へ刺激を受けやるも、小さい内は重要よな。
珍しき色合いの華花を見せえ。
連れて来ておるのか。
ならば、帰りに珊瑚礁の回廊を通ると良いぞ。
珍しきも色合いも、世界一を約束しよう。
で、その赤児は何処や?
有翼型の魔法使いが肩掛けにした抱き帯から、興味深気に此方を見入る、小さな顔が覗いた。
「……にぃ、にゃ、人魚!」
こ、コレはっ!
ゴゴゴゴ……。
いかん、余りの可愛らしさに驚き、余剰に渦潮を引き起こしてしもうたわ。
我と為た事が、端無い。
鎮めよ。
しかし何じゃ。
雛、かの。
有翼型の魔法使いに目鼻立ち似ておるが、髪も羽根も金色…… いや、ヒヨコの色合いじゃ。
愛のう、耳が横長に、もう一つの羽根のよう。
可愛らしい男の子よ。
……元気に、見えるがの。
血色よい頬、煌めくが如き金髪は、赤児なれど将来有望であろ。
目も良い。
晴れ渡る海原の青。
「……人魚さん、こんにちわ」
応、すまんの。
人型の言葉は話せぬのじゃ。
聞いて理解は出来るが、発声出来ぬ。
こう、蝋板に書いて示すが、許せ。
読めるかの?
無理じゃろうが。
フワフワした頭が左右に揺れる。
おお、解るのか。
賢いの。
「ありがとうご、ざいます」
上目遣い効くっ。
銛に撃たれたかと思ったわ。
ええい、有翼型の子よ、何処が良くないのじゃ?
お腹か?
頭か?
あんよか?
お手々か?
妾が健やかにしてくれようぞ。
んん?
怖がらせてしまったかの。
そうか、口数が減っている、だったか。
しかしこの体の大きさ、まだ赤児としても未熟。
喋り始めたばかりではないか?
ふむ、喋り始めであるが、急に話さなくなってきて不安、大地母神の神殿で祈祷を受けて、しかし効果は見られない、か。
大地母神が無能とは思わぬが、何故なのであろ?
ならば、我がアッギシー家伝来、健勝祈願の祭りだ。
我こそ古代人魚の長、医療と薬膳の女王よ。
先ずは…… ぬ、脱がさぬとな。
灸を付けるだけよ。
他意は無い。
あ、熱くはないぞ、油薬の上に据えるからの。
祈願に王鋏蟹の肝を生で…… は子供にはキツいかの。
後で料理してやる。
代用案でミソを顔に塗し…… は可哀相じゃ。
額に載せる位でヨシとしよう。
「ぅうっ、臭ぁ~あぁッ」
やはり生臭いか。
この部屋の香程度では如何かったな、許せ。
後は…… 篝火に囲み、三日三晩祈れば…… いかんな。
赤児にそんな無理はさせられぬ。
許せよ。
肝は土産に持って行け。
ぬぬぬう、如何。
この様な為体では、医療と薬膳の女王とは名乗るに価せぬ。
ならば赤児向きの治療方法だの。
山羊人の牧場に渡りを付けよ。
牛乳風呂に入れてやれ。
血の巡りを促進し体を温め、腧をなぞり、悪い滞りを押し流すのじゃ。
翌日には新しい血液を作り出す為に薬膳料理を振る舞うぞ。
先の肝、使い途が出来たわ。
そうさ、二日に亘り列べて食せば、肌も張り出す料理よ。
我自ら腕を揮わせて貰おうかの。
……………………………………………
……後日。
言いたい事を言えて元通りとなった赤児に、それでも薬膳料理は届けた。
また遊びに来やれ。
伝言はその一言だけ。
何じゃ。
我は役にも成らぬか。
そう感じていた次の日に、彼の子は来てくれた。
「ありあとーございます。美味しかった、です」
その言葉言う為だけに遥々と?
父に無理を言うたと?
母を連れて家族全てで感謝したいと?
何と。
出来た子だ。
出来過ぎた赤児よ。
不思議も有り余る。
有翼型の魔法使いよ、この子は何者ぞ?
解らいでか、摩訶不思議に惹かれる存在感。
あの村長が気に掛け、木札を貸し出すも不思議と納得よな。
……神の愛し子?
不埒な。
神降りがこの幾百年、触りも無いのは知って居る。
異界人では無さそうだが、見知らぬ力が宿るは確か。
何、神の業篭もる武具が証?
この槍が?
……た、しかに。
此は「不壊の秘術」!!
何と。
何と、何と!!
巫女を喚べ、神降りを、執り行うぞ!
…………………………………………
眼福よ。
神はまだ此の海原を愛して居られた。
皇子を担ぐは禁じられてしもうたがよ、遣れんならば、従うや遵うは自由であれ。
あの赤児、何としても海の民に導きを授ける主人と成って、貰わねばの。
あの村に、貿易協定の更新を持ち掛けよ。
何を於いても関係を築け。
我々は味方で在ると知らしめよ。
忙しく、成ってきたの。
スライ・オーニス Level=1
状態=育ち盛り
職業=乳幼児 称号=誠実な徒弟(神の愛し子)
ギフト=「壁無き友垣」対話、心理学、人類学、生物学、多言語の優良性
「狙い違わぬ指」目星、回避、隠密、追跡、投擲、技能数値への補助
スキル=「?」
精神力向上(大)
集中力向上(大)
身体強化(小)
魔法=?
アッギシー・ワーボゥ・セレニア Level=611 古代人魚
状態=狂乱(使命感)
職業=女王 称号=薬膳の創始者
ギフト=「移ろわぬ掌」医学、生物学、応急手当
スキル=水族の長(支配下の人数分精神力向上)
交渉術向上(大)
集中力向上(中)
白魔術増幅(小)
水泳特化(極大)
魔法=白、黒、自然界強化魔法、古代白魔術、アクアスクリーム




