ビビりがビリビリッと死にました
暗闇の中から、意識が浮かんで、今に繋がった。
何だか身体が軽い。
いままでずうっとあった頭痛を感じなくなっていた。
あぁ、とても気持ちが楽だ……。
そして過去が、目の前を流れていく。
俺の生き方は、あまり褒められたようなモノではなかった。
日常生活では平均を目指し、真面目な学生を演じ、傍目に普通の人であろうと装った。
そんな『当たり前』を選んできた。
小さな頃、友人達に『変だ』と言われた、あの日から。
見たモノ全部を覚えているのはおかしいのだと理解し、なるべく『普通』になろうとしてきた。
両親が必要としている『イイコ』であろうとしてきた。
……今のが走馬灯、かな。
それこそ、ドラマのような言葉だ。
そんな俺に無情な言葉が降りてきた。
[貴方は死にました]
………はぁ。
まさに死の宣告。
成る程、呼吸してないや。
溜め息のつもりが、続く息遣いは、なくて。
真っ白だが眩しくない地面と空、あ、俺自身も白い。
服装は上下長袖、無地で真っ白。
見下ろすとはだしで、靴はない。
……まぁ、たいした心残りはない、か。
いいよ、仕方ない。
[井上洸さん、91年間、お疲れさま]
……いや、ちげえよ?
[井上洸さん?]
名前はあってるよ。
漢字まではいいんだけれど、その、年齢が違う。
俺は19才。
[……19才]
うん。
[…………19才]
うん。
[すいません…… こちらの手違いです]
……故人情報が間違ってたってよ。
え?
死ぬはずじゃ無かったわけ?
[はい、仮死状態で発見される、筈の…… 案件…… でした]
うをっ。
生き返りワンチャン?
[その…… お身体が既に骨壺に納まっているので、それは……]
あぁあ、そうか…… もう無理か……。
ふぅっ。
また溜め息の気分だったけれど、息遣いがないから真似を繰り返す。
はー…… 俺は死んだのだから、仕方ない。
人の視線にビクビクしながら生きて、死んだなー。
何も、これといった事をしないまま。
でも…… 謎の声の気配が、何かを躊躇うように間を取っている?
[まだ何かを成し遂げたいと思いますか?]
うーん…… 何か、ね……。
まだ、というか。
成し遂げる、って経験がまったくない人生で。
知識欲はあったけど、それを何かに変えて、活用したりとか。
常に知識を集めるばかりで、詰め込むばかりで。
それに勉強は普通にやるべき事だったし、でも学力アピールはいけないコトだと思い込んでいた。
手段が目的になってぐちゃぐちゃな、思い違いのままだった…… 今なら解る、他人の視線を意識しすぎていた、と。
没自主性、没個性、無計画。
今となって悔やまれる、人間性の程度。
俺は、大したことの無いヤツだった。
[なら、やり直しませんか]
……人生を?
俺は大した事の出来ない奴だよ?
[いえ、全く違う世界で、全く違う環境での、生まれ直しです]
そっかあ……… 俺に、やれるかな。
[貴方は死にましたが、心や魂は死んでいない。生活の押し合い圧し合いに傷も負ってはいない。生まれ直しに適しています]
そういや、どうやって死んだんだろう?
[……ドアノブへ静電気放電時の、感電死です]
うわあ、凄い残念無念。
恥ずか死い…… というか静電気でもヒトって死ねるんだ?
[すいません…… 強制力もあったのだと思います]
あっ、最近流行りの異世界?
転生?
だよね?
コレ。
テレビアニメで見たことあるよ。
無双とか、だった、とか。
武器とか虫とか不定形生物とかは嫌だなぁ。
何かに変わってしまうモノなのかな。
[お望みの姿があれば叶えます、お任せください]
えー…… んー…… ほどほどに今のままならいいかな。
弱いかもだけど。
[肉体的な頑強さをそのままでも付与出来ます]
おぉ、流石?
か…… カミサマ?
あなたは神様ですか?
[いえ、代行者です]
あー…… だからかー……。
[……す…… いま、せん……]
あっ、イヤイヤ、仕方ないよ。
うん。
あるある。
俺の名前、よくあるし!
[貴方は良い人ですね……]
ビビりだけどね。
だからこそ開き直るのは得意なんだ。
諦めが肝心だと思ってる。
[他に、何か希望は有りませんか?]
そもそも、俺、どんな所に行けるの?
異世界とか言われても、ゲームの『ファンタジー世界』くらいしか知識は無いよ。
[ええと、はい、そのゲームに酷似している世界線を開きます]
話が早い……。
でも助かる。
ありがとう。
じゃあ、何か目的とかはありますか?
[いえ、貴方の為だけのやり直しです]
それは、何をしても大丈夫なんですか?
[はい。しかし、次はありません]
それはそうデスとも。
命大事に。
keep my Life。
人の身のままでいられるだけでも有難い。
[細かな差異は有ると覚えておいてくださいね]
人種的に?
少しくらい構いませんよ。
[はい。貴方のパーソナリティーを維持した心と記憶と魂は、遙か彼方の死する筈の赤子に結びつけられました]
……赤ちゃん?
その子はどうなるんです?
[既に死産判定され、意識も無い状態です……]
……その子に、成り代わるんだね。
うぅん、ちょっと抵抗あるなぁ。
[これから産まれる子供の魂を壊す事はしません。この行いを気に病む事はありませんよ…… あなたはあなたとして、次の人生を楽しんでください]
それはそうだよね…… はい、分かりました。
これで…… 新しい、始まり、かぁ。
想像出来ないなぁ。
[私から、最後に贈り物をさせてください]
最後?
もうお別れですか。
何から何までありがとうございます。
贈り物なんて、体を強くしてもらってますから、もう大丈夫ですよ。
[これは、お詫びです。受け入れてもらえないと、多分私の進退窮まる事案に発展してしまいます……]
重っ。
……はぁ。
何をいただけるんですか?
[ひとつは生き残る為に役立つ『技能』や、戦いを有利にする『魔法』です]
おっ、ファンタジー。
うーん、魅力的ですね。
[どちらでも、気になる方を選んでください]
……どちらも気になるぅ。
[ではどちらも付与しましょう]
え、良いんですか?
[自由の幅も広がる事ですし]
……んー、それって、後から選べませんか?
[なぜ? 保留ですか?]
いや、目の前にやりたい事や目標がないとあまり動けないヤツなので、こう、レベルアップしたら次の魔法が使える様になる、って方がやりやすいんです。
正にゲームぽくなってしまいますが。
[分かりました習熟度はレベル方式を採用]
あ、あるんだそういう分類。
[他の職業別の技能習熟度などもレベル方式でいいですか?]
あ、はい。
[魔法については応用性が欠けると思われますが、いいですか]
そのままで。
為せば成るっていう格言を信じます。
格言じゃあないか。
希望的観測。
自分で進む先を導けるなんて、願ったりだよ。
[最初に欲しい装備品や、技能の希望は有りませんか]
最初、不慣れな場所、生き残る為に…… だとすると。
もらえる魔法の基礎知識とか。
その世界なりのサバイバル技能。
狩猟採集の技能。
行く先の敵から身を守れる位の装備品?
[それだけでいいのですか?]
あ、弓か銃器って、アリですか。
[銃器はありません。弓、クロスボウなどはあります]
それ欲しい。
ガチンコバトルは出来る気がしない。
[では、成長なさったら届くようにします]
はい、はぁー……。
色々、有難う御座いました。
お陰様で何とかなりそうな気がします。
貰い過ぎな位の贈り物です。
次の人生は、幸せを見付けたいと思います。
[はい、頑張ってください]
ホントに何も使命とか目的とかはナシ?
[ええ、お詫び、ですから。この不手際に対する報いは私が後から受けます]
不手際って…… 俺の心象とかは反映されないの?
[はい。型通りの当たり前が求められておりますので……]
お手紙とか書きたいんだけど、どうしたら良い?
[いえ、お気遣い無く]
うう、もどかしい。
この神の代行者さんは悪くないぞー!
むしろフォローが神対応だぞー!
って言ったって変わらないのかなー。
世知辛いあの世の中。
[ひいっ]
……あれ?
どうしました?
[いえ、私は自分の尻拭いをしている、だけなので、全く、は、御心配無く……? では参りますよ?]
え、ちょっと。
[お達者で~!]
代行者さんの言葉で世界が……
白から黒に……
そしてまたくろからしろに……
せかいが……。
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作者がハリキリます☆