沙夜、気づく
「…黒木会長、何してるんですか?」
「ん?お前を待っていたんだ。」
キラッとした光が見えそうな笑顔で美少女に答えるイケメン。
とても心おどる絵ですよね。
…そのイケメン様がその手に三つ編みを掴んでさえいなければ…。
「そうじゃなくて!なんで神月さんの髪を持ってるんですか?!」
「あぁ、そっちか。」
「それ以外ないでしょう?!」
だよね、変だよね?!
でもこの人は変だと思ってないみたいなんですよ。
床についてたから拾う→手触りがよかったから触る…が当たり前の思考回路として存在しちゃってるんだよ!
ゲームではもうちょっと大人感あった気がするんだけどなぁ?!
「か、神月さん大丈夫?」
「大丈夫じゃないです。早くこの方を回収してもらいたいです。桃井さんが来る前にも何人かがギョッとした顔で見てきていたのにやめないんです。気づいてない可能性すらあります。」
私の死んだ魚のようなオーラを感じとったのか桜ちゃんが心配してくれた。
ほんとに優しいなぁ。
「うわっ!えっ?会長何してんの?」
「あ、白川先輩!」
あぁぁ、ついに生徒会が集まってきたー。
桜ちゃんにさっさとなんとかしてもらえば良かった。
掴み続けられるよりはいいけど、私は決して生徒会と関わりを持ちたくないのだ。
もう手遅れだとかゆうのは聞きません!
「あぁ、お前らもやっと来たのか。結構遅かったな。」
「いや、別にこれが普通ってゆうか会長が早すぎっ…て、そうじゃなくて!なんで会長沙夜ちゃんの髪つかんでんの?」
ついさっきどっかで見たような反応だ。
桜ちゃんと白石先輩って似てるんだ…。
なんか、公式の隠し設定を知った気分。
あんまりにもな状況についつい妄想の世界に逃げたって仕方ないと思う。
「はい?明良、何を言って……春人、あなた一体何を…?」
「副会長、どしました?…か、会長?!」
「え、涼君?会長がどうかし…ぇっ?」
次々と現れた生徒会の面々の視線が会長の手、つまり私の三つ編みに集まる。
もう机に突っ伏してしまいたい。
「なんだよお前ら、そんなに驚くことか?」
「なぜ驚かないと思うんですか?春人、生徒会長ともあろう人が何をしてるんですか。」
副会長、今だけは応援する。
もっと言ってやって下さーい!
「それ関係あるのか?だって、すっげぇサラサラでスベスベしてんだぜ、これ。」
誰も感触をおしえろなんていってなぁーい!!
何この羞恥プレイ?!
早く、早くこのイノセントを何とかして!
「だからって、触っていいことにはならないでしょう。場合によってはセクハラですよ?」
そーだそーだ!
「…セクハラなのか?」
「そこの彼女が訴えれば確実に。」
「…訴えるのか?」
「え?!」
きゅ、急に話しかけないでよ!
いや、ずっと渦中にいたんだけども。
「い、いえ、訴えるまではさすがにしないですけど…はなしー」
離してと言おうとしたら会長が遮ってしまった。
聞いてよ!
「創也、こいつに訴える気がないから、問題ないな。俺はセクハラ野郎じゃない!」
問題はあるわぁ!
「…そんなわけないでしょう。明らかに嫌がられてはいるじゃないですか。」
「嫌なのか?」
「嫌、とゆうか、居た堪れないとは言ったと思うんですけど。」
「触ったらダメなのか…」
触っていい理由がわからないよ。
「そんなに触りたいんですか?」
おい副会長、もう離してくれそうな感じだったじゃないか、余計な事聞かないでよ!
「当たり前だろ。」
どこの当たり前?!
「こんなに長いのに先まで綺麗なんだぜ?三つ編みだからなのかなんか柔らかいし。」
こんなモブを褒めるな!
イケメン自覚しろ!
そして長さには触れるな!
あらゆる意味で心臓がドキドキするぅ!
ってゆうか、あなたたち桜ちゃんに用があったんだよね?!
私知ってるんだよ?!
あなたたち学校のイベントの手伝いを桜ちゃんに頼むってゆう乙女ゲームとしてはあるあるだけどとっても大切なようでここにいるんでしょ?!
モブなんてさっさとほっといてヒロインとイチャイチャしてよ!
「…そんなにいいんですか?」
桜ちゃんんん?!
なんで今ここでそんな反応しちゃうの?!
好奇心を隠しきれないキラキラした目はたいへん可愛らしいんだけど、ここでその反応はよろしくない気がする!
「あぁ。桃井も触ってみるか?」
私の髪なんですが?!
「は、はい!触ってみたいです!」
だから私の髪…。
何故か恐る恐る会長の差し出した私の髪をそっと握る桜ちゃん。
「…わぁ、ほんとに柔らかい。」
フニフニと握りながら私の髪をしげしげと眺め始める。
「えぇ、うそ!こんなに長いのに枝毛がない!細いのにいたんでる感じもないし、サラサラスベスベする!」
やめてー!
褒められなれてないから!
は、恥ずかしいとゆうか、照れる!
顔が熱いー!
ついに机に突っ伏した。
いっその事もっと早くからこうしてればよかった!
「…私なんかを褒めないでください。絶対桃井さんの髪の方が素敵です。」
だって観るからに綺麗だもん。
絶対ふわふわでいい香りがする髪してるよ。
だからもう私のことはほっといて生徒会の皆さんで桜ちゃんの髪を愛でてください。
私はそれを眺めたいのです。
「へぇー、そんなにいいの?…わ、ガチだ。」
なんか増えた?!
ねぇ神様!
たまには私のお願いを聞いてくれてもいいんじゃないかな?!
別に誰かを不幸にすることを望んでいる訳でもないんだから!
「ですよね?それに、なんかお花の香りがするんですよー。」
桜ちゃん?!
嗅いだの?!
いや、なんか前、琉理ちゃんに言われた気がする。
花の香りがつくようなことをした覚えはやっぱりないのに。
そんなに強い匂いするの?
ほんとになんの匂いなんだろうか。
…今度から美月になる時は香水もつけるべきかもしれない。
また買いに行こう。
「ほんとだー、すごいね。ほら、真もおいでよ。」
また増えた?!
ちょっ、緑川君、水城君まで巻き込まないで!
水城君は引っ込み思案だから自分からは絶対にそーゆーことしてこないでいてくれるタイプなのにっ!
「あなたたちまで…。そんなに褒めるようなものなのですか?」
ついには副会長まで?!
何故か生徒会みんなに髪をにぎにぎフニフニされてる。
何故こうなった?!
そのうち止めるだろうなんて思って口を挟まなかったからか?!
でも、もう、なんか、無理!!
これ以上は耐えれない!
「あ、あの!」
ぴたっとみんなが動きを止める。
ゆっくりと突っ伏していた顔を上げる。
羞恥で顔が熱い上若干涙が浮かんでるけど幸いメガネで見えることは無い。
ほんとにメガネ最高です。
一生大切にする。
「離して、ください。皆さんは、桃井さんに用があってこられたんでしょう?」
ほらほら!
先生きちゃうし、早くイベント起こして帰ってー!
そしてさっさと私の髪を離しー
「…泣いてんのか?」
「へ?」
え、なんで…。
「わぁ!」
しまった!
会長の顔が思ったより近くにあったうえ、横から覗き込まれていた。
普通こんな距離感で人と接することがないからついつい油断してしまっていた。
たしかにこのメガネはすごいけどあくまでメガネなのである。
横から近くで見られると目が少し見えるのだ。
「っ!」
見られたこととイケメンの近すぎる顔に驚いてとっさに立ち上がって距離を取ってしまう。
誰かの指が引っかかったのかゴムが外れる。
あ、髪が!
バレる!
咄嗟に掴んで解けるのを防ぐ。
「わ、私、先生に言われてた用事思い出しました!」
唖然としている一同にそう叫んで背を向ける。
おかしい!こんなのおかしい!
だって、私はモブなのに!
あぁどうしよう!
テンパる頭に僅かに残った冷静な部分のおかげでなんとか地味子さんとしておかしくない速さで動くことは出来た。
でも確実にヤバい方向に進んでいる。
もう楽観視はできない。
何とか、何とかしなければ!
私が舞台に立つことはあっちゃいけないことなのです!
私はヒロインとイケメンのイチャラブを影から見たいんです!
だって、私は、モブですから!
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