休日にイケメン様はいらない3〜金森勇side〜
「はぁ…。」
隣から小さく聞こえてくるため息に顔がひきつる。
石原からはベタベタと甘い空気が、そして神月からは陰鬱とした空気が漂ってくる。
この差がとてつもなく恐ろしい。
どう頑張っても表情筋が引き攣るのだ。
だが俺はこの恐ろしい空気を醸し出している女に話しかけなくては行けない。
俺と神月は今恋人の振りのためにデートをしないといけないのだが、俺はデートなんてしたことないっ!
だからどこに行けばいいのかとか何もわからないっ!
「さ、サヤカ。」
「なに?勇先輩。」
何だか責められてる気がする。
「ちょっといいか?」
「え、うん。」
あー、石原の前でする訳にはいかないな。
んーと、どうすれば大人しく距離を置いてもらえるか…、あ、そうだ!
神月の真似をすればいいんだ。
多分こいつなら…
「石原、ちょっと待っててくれ。その程度の分別くらいあるだろ?」
どうだ?
神月の顔的に間違いではなさそうだが…。
「えぇー!…はやくしてよ!」
よっしゃ、上手くいった!
石原の気が変わらないうちにさっさと移動する。
神月の手を引いて…こいつ細すぎないか?
だがそんなことを気にしてる暇はない。
念には念を入れて神月の耳元で話す。
花の香りなんてしない。
そんなのしない。
「勇先輩?」
ハッとして慌てて聞く。
「サヤカ、これからどこに行けばいいんだ?」
「は?」
何言ってんだこいつみたいな目で見られた。
「何も考えずに歩いてたんですか…?」
「なんか、テキトーにどうにかなるかと思って。」
咄嗟に言い訳が口をついてでる。
「なるわけないじゃん!」
だよな。
「す、すまん。」
「馬鹿なの?アホなの?」
ぐうの音も出ない。
「悪かったって…」
「考え無しにも程があるよ!」
でもさすがにむかつく!
「し、仕方ねーだろ?!デートなんてしたことないんだからよ!!」
開き直って言い切る。
したことないこと分かるはずねーだろ?!
「へ?」
お、おぉ…。
ポカンとしていらっしゃる…。
「うっそぉ…」
そんなに驚くか?!
こいつの中の俺ってどうなってんだよ!
「なんだよその反応は!!」
「え、だって、えぇー」
マジでなんなんだよ!
そんな反応するってことは、こいつは経験あるのか…?
「お前はどうなんだよ!」
「いや、あるはずないじゃん。私みたいなモブ女がデートなんてしたことあるはずないじゃん。」
「は…?モブ…?」
こいつが?
モブって、これといった特徴がないとかそんな感じだよな?
え、こいつが?モブ?
マジでこいつなに考えてるのかわからねえ。
こいつの目は俺たちと違うものでも写してんの?
でもそんなことを問い詰めている暇はない。
「…あーまぁいい。でも、それならお前も人の事いえねーだろ!」
「は?イケメン様と一緒にしないでよ。」
はぁああ?
今こいつなんてった?
「イケメン様…?え、それ俺の事か?」
「先輩以外誰がいるって言うの?いい加減にしてよ、石原さんがイライラしだしてるじゃん。」
「え、あ、あぁ…」
え、イケメンってあれだよな?イケメンだよな?え、え?こいつ俺のことイケメンって言ったの?てか様ってなに?は?俺のことイケメンだと思ってんの?
思ってるのにあの態度なの?え、こいつ新人類か何か?
「何をモゴモゴ言ってるのさ!それよりもどこいくか早く決めないといけないんでしょ?」
は!パニックに陥っていた。
危ない…。
多分気にしたら負けなやつなんだ。
「そ、そうだな。どこかいいとこあるか?」
「うーん…公園?」
公園?!
あのアスレチックのとこか?
「公園?あの少し広いとこか?」
「多分そこであってるよ。ちょっとアスレチックとかあるとこあったよね?」
やっぱりか。
「あるにはあるが、お前そこで大丈夫か?」
とてもアスレチックするようには見えないが?
「え?…あー」
ちょっと考える仕草をみせる神月。
そんな悩むこと聞いたか?
ちょっと不安になり始めた時、ぱっと顔を上げられて驚いた。
何やらいい笑顔を浮かべているが、何故かイラッとする。
「うん、大丈夫だよ!心配しないで!」
「なんだかその笑顔ムカつく気がするんだが…」
「気のせいだよ。」
食い気味で言われる。
これはだいぶ失礼なこと考えてたな…。
「それよりも、ほら、行こーよ。石原さんが怖いし、ね!」
納得は行かねーが仕方ねぇ。また時間がある時に問い詰めてやる。
「…そうだな。」
ごまかせたとでも思ってるのか意気揚々と歩き出す神月について行った。
「は?ここでデート?」
「あ、あぁ。」
呆然と言う石原。
すげぇ気持ちはわかるぞ。
神月がまさかここをデート場所に選ぶなんて思わないだろう。
見た目的に図書館デートとかの方がしっくりくる。
いや、それは俺に合わないと思われるかもしれないが…。
「ふーん、あんた運動できんの?」
それ気になるよなぁー。
「えっと、一応。勇先輩には敵わないけど。」
ね?と微笑んでくる神月に心臓が跳ねる。
お前…それは…反則…。
つい視線を逸らしてしまう。
「は、はは、まぁ俺と比べたらなぁ。」
石原が何それみたいな顔をしている。
神月は俺たちのそんな反応にちゃんと気づいている様子はない。
無自覚かよ…。
「石原さんは?こーゆーの好き?」
「まーね。」
ま、バスケ部なんて入ってるやつだから、体を動かすのは好きだろうな。
今日だって、服はヒラヒラしてるが靴はスニーカーだ。
「そ、そっかぁー。」
ん?なんか神月動揺してないか?
服の裾を軽く引っ張られる。
なんだ?
「石原、待っててくれ。」
何やら慌てている神月と少し移動する。
「え、あの人まさか運動する系の人なの?」
あ、なるほど。
「あれ、言ってなかったか?あいつバスケ部なんだ。」
神月の目が少し丸くなる。
少し幼くなるな。
「聞いてないよ!聞いてたらこんなとこ選ばないよ!もっと早く帰ってくれそうなとこ選ぶよ!もっと早く言ってよぉー!!」
ぼやっと顔を見ていたら思いっきりまくし立てられた。
え、お前そんなこと考えてたのか。
「す、すまん。もしかしてここを当てにしてたからここに来たのか?」
「まぁ一応ね。デートスポットなんて知らないのは確かだけど。」
ま、マジか。
ん?それじゃあ…
「そ、そーなのか。…大丈夫か?」
やっぱりこいつ運動できないんじゃ…。
それならやばいぞ?石原にいじめられるのが目に見えるんだが…。
「ま、それなら仕方ないから諦めてくれるまで恋人ごっこ続けるしかないね。」
「いや、そうじゃなくてー」
「大丈夫だから!早く行かないと、またイライラしてるよ。行こ!」
そう俺の言葉を遮った神月に手を引かれる。
ん?なんかテンション高くね?
「石原さん、勇先輩に聞きました。バスケ部なんですよね?なら、一緒にアスレチックしませんか?」
は?!なにかんがえてんだ?
可愛い子アピールとかゆうやつか?
そいつにはきっと逆効果だぞ?!
「別にいいけど。」
ほら、石原の目がランランとしてる!
そう焦って神月を見た俺はゾッとした。
「はい、よろしくお願いしますね!」
神月は、とても楽しそうに笑っていた。
何か企んでる顔だ…。
また表情筋が引き攣り出すのを止めることは出来そうになかった。
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