休日にイケメン様はいらない2〜金森勇side〜
ついにこの時が来た。
肉食獣と毒蛇がそろう恐ろしい時が。
いや、俺が頼んだんだから大変失礼なことを言っているのは分かっているんだ。
でも仕方ないだろ?
色々予想外だったんだ!
「勇先輩、あの、どこにいるの、その人って。」
どこか怯えた様子の神月に声をかけられる。
流石のこいつも怖いのだろうか。
まぁ怖くない方がおかしいか、よく知らない女と敵対するのがわかり切っているのだから。
でもその顔やめて欲しい。
俺の理性が総動員で心を沈めようと頑張っている。
「もうすぐそこのショッピングモールの入口にいるらしい。」
「ショッピングモール…。」
神月の顔がさらに不安そうにしかめられた。
なぜだ、何かショッピングモールにトラウマでもあるのか?
なんかすげー罵られてる気がする。
…あ、うわぁー、見つけちまった。
あの軽そうな茶髪は確かにあの肉食獣だ。
「か…サヤカ。」
うっかり神月と呼びそうになったら半眼で見られた。
「なに?勇先輩、サヤカだよ。」
わざわざ強調するように言われる。
ムカつく!…が、俺が悪いからなんとも言えねぇ。
「…わかってる。それよりも、あいつだ。」
そう告げると一瞬また不安そうな顔をして、おそるおそる視線を上げたあと、目を見開いてゆっくりとその目を細めて呆れたような顔をした。
よく動く顔だなー。
「…美人じゃん。」
あー、まぁそーゆう反応になってもおかしくわないか、顔がいいのは確かだしな。
でも俺はお前のその見た目の方がずっと詐欺だと思う。
俺があの女からのアプローチを嫌がるよりもな。
しばらくじっとあいつを見つめていたかと思うと急にまるで仕方ないとでも言うような表情を浮かべた。
それを不思議に思いながらも一応理由のひとつは言うべきだと思ったから口を開く。
「タイプじゃないんだよ、ぜんぜんな。」
すると神月はさっきまでのしかめっ面が嘘のようにあっさりと言った。
「んー、そうだね。なら仕方ない、頑張ってあげるから、勇先輩も頑張ってよ!」
は?!
「そうだねって、俺のタイプ…。」
見た目で言うとお前なんだけど?
あくまで見た目はな、見た目は。
でもこいつのこの様子だとそれに気づいたわけでは無さそうだ。
こいつは一体何を考えてるんだ?
あーダメだ!考えるな、俺!
「いや、今はいい。」
こいつとは一度話した方がいい気がする。
なんかやらかしてきそうだこいつ。
「言われなくても頑張るさ、頼むぞ。」
「うん。」
今はこいつの変な無関心さがありがたい。
余計なことに気が回るくせにな。
「あ、勇!」
ちっ、ついに気づかれたか。
「よう、石原。」
こうして苗字でしか呼んでない時点で察して欲しいもんだ。
「あ、えっと、こんにちは。」
神月が俺の影から石原に挨拶をする。
一応俺のためにほんとに頑張ってくれようとしてるみたいだ。
石原の目が尖る。
「あぁ、ふーん、あんたが勇の彼女?」
「は、はい。」
おお、見事に石原と正反対のイメージを作っている。
スゲーな、あ、でも、学校のこいつの第一印象そんな感じだった気もするな。
あれ?なんか違和感が…。
考えても分からねぇことは気にしても意味ねぇな。
それよりもさっさと石原に諦めてもらって帰ろう。
いつボロが出るかわかんねぇしな。
「石原、あわせただろ、これで納得しただろ。」
すると石原はムッとした顔をした。
お前がそれしても可愛くねぇよ、薄ら寒いだけだよ。
「勇ってばー、エミって呼んでって言ってるじゃん!」
はぁ?
こいつ俺の話聞いてたのか?
「呼ばねぇ。勇って呼んでいいとも言ってねーし。」
「もー!勇つめたーい。そんなとこもクールでかっこいいけど!」
はぁあ?
訳わかんねぇ!ほんとにこーゆー女のゆうことって訳わかんねぇ!
てゆーか、神月静かだな。
…ん?なんか失礼なこと言われてる気がする…。
「勇先輩は、私の彼氏です。嫌がってるの、わからないんですか?」
いきなりだな!
石原に対してだからか敬語で話しているようだ。
いや、そんなふうにはっきりいってくれる方が有難いっちゃありがたいが、そんなふうに喧嘩売って大丈夫か?!
ギョッとしてしっかりと神月を見ると少し前に出て顔を上げていた。
さっきまで俯いててよく見えなかった目元があらわになる。
「は?あんたみたいなブス勇にあわ…な…」
途中で言葉失う石原。
気づいてしまったんだろうな。
そう、こいつは決してブスじゃないのだ。
むしろ綺麗な部類である。
流石の石原も言葉をなくすくらいには。
「?どうしたんですか?」
でもどうやらこいつは自覚が全くないみたいだ。
この中で一番自分の見た目に対する認識が甘いのはこいつなのである。
「あんたみたいなやつ勇にあわないんだから!私の方が勇のこと好きだし!」
…おい、やめろ。
その通りなんだよなぁみたいな顔やめろ。
いや、その通りなんだけどな!
幸い石原は気づいてないが、俺には伝わってるぞ!
引き下がる気がないようだからまだいいか…。
これでその通りだから、やっぱり辞めるとか言われたらシャレにならねぇ。
「勇先輩、はっきり言ってよ。私のことが好きだって、石原さんとは付き合えないって。」
俺に振るのかよ!
好きとか…言えるかー!
「お、おう。えっと、サヤカの言う通りだ。俺はサヤカみたいなのがタイプだから、お前とは付き合えない。」
これが限界だ。
一応ほんとのことも含めてやったんだ。
文句は言わせねぇ!
そしてさっきからしてる納得納得みたいな顔やめろ!
「その子のことは、サヤカって呼ぶんだ…。」
「か、彼女だからな。」
だからやめろ!
せっかく頑張ってんだからよ!
あと少しなのになーみたいな小馬鹿にした顔やめろよ!
妙に心がえぐられんだよ!
「とりあえず、その子が勇の彼女だってことはわかった。」
はぁ、やっとかって、ん?
とりあえず?
「でも、絶対私の方が勇が好きだもん!どうせこれからデートなんでしょ、私もついて行くから!」
「「は?!」」
俺と神月の驚きの声が被る。
なんでそーなるんだ?!
「付き合ってるでしょ?休日に会ってデートなしとかないよね?」
え、そうなのか?!
「あ、ああ!当たり前だろ!」
つい反射的にそう答えてしまった。
隣から非難の視線が刺さってくる。
どうやら俺は間違えたらしい。
でももう引けない、ここで呆れて断られたら全部台無しだ。
「サ、サヤカ、いいよな?」
頼む!もうちょっと付き合ってくれ!
絶対お礼するから!
必死に目で訴えると、神月はそっと眉間に皺を寄せた。
だ、ダメか…?
「仕方ないなぁ、勇先輩のためになるならいいよ。」
軽くため息をついてそう言ってくれた。
「あ、ありがとな。」
良かったー!
心からの感謝をこめて神月を見ると…
「ううん、気にしないでいいよ?」
目が、目が笑ってないんですけど神月さん…?
こうして恐怖にまみれた人生初デートが始まった。
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