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放課後1~藍野聡side~

  神月は、本当に静かだ。

 そして、無表情。少し心配になるレベルだ。

 俺は今、神月と二人きりで作業をしているのだが、俺が話しかけない限り全くしゃべらない。

 俺は一応、自分の容姿というものを自覚している。

 だからあまり笑いかけたりするのは控えているが、ついうっかり神月に笑いかけたことがある。

 対する神月は無表情。

 はっきり言って驚いた。

 頭も触ってみたが、わずかに身じろぎしただけだった。

 これはと思って手伝いも頼んでみたが、本当にただ黙々と作業してくれている。


 「神月。」


 「はい、なんですか?」


 「これも頼む。」


 「...はい。」


 無駄な会話を続けたりもしない。

 俺のしていた仕事が終わる。

 神月ので最後だ。とても助かった。

 神月は思っていたよりもかなり優秀なようで、予想をだいぶ上回る早さで仕事が片付いてしまった。


 「神月。」


 そろそろ終わっただろうかと声をかけたが反応がない。

 

 「...神月?」


 はっとしたように俺を見て首を傾げる。


 「あ、なんでしょうか。」


 それでも無表情な神月。

 こいつは仮面でもしているのかと思ってしまう。


 「いや、さっきの終わったかな、と思って。」


 「あぁ、ちょっと待ってください。......はい、終わりました。」


 考え事でもしていたのだろうか。

 そう大変でもないやつだったと思うが、神月にしては時間がかかっていた。


 「そうか、ありがとな。これで終わりだから-」


 確か昨日買ったケーキがあったはず。

 冷蔵庫から箱を出して机に置く。


 「そうですか。それでは...」


 早々と帰ろうとする神月を引き止める。


 「お礼にこれ食うか?」


 [フェアリードリーム]のケーキはとてもおいしい。

 終始無表情だった神月の眉間にわずかにしわが寄る。


 「食べ...ます...。」


 興味を持ってくれたようだ。


 「おう、紅茶でいいか?」


 「はい、ありがとうございます。」


 無表情だがケーキをじっと見つめている神月に、せっかくだしサービスしてやろうと思った。


 「三つあるんだが、どれとどれ食べる?」


 「へ?」


 神月の口がモニョモニョと動き出す。

 笑いそうになるのを必死でこらえた。

 もしかして、少し気を許してくれたのだろうか。


 「二つ...ですか?」


 「あぁ、お礼だしな。好きなの選んでくれ。」


 「あ、ありがとうございます!」


 神月の背後に花が見えた。

 喜んでいるようだ。

 

 「なぁ、神月。」


 「なんですか?」


 「これからも、手伝ってくれないか?」


 「......。」


 俺としては割と普通のことを聞いたつもりだったが、神月は驚いたようだ。


 「え、なん、え?なんでですか?」


 「いや、神月はテキパキ仕事してくれるし、無駄なこと喋らないし、この学校仕事が多くてさ、これからもお礼するから、頼めないか?」


 それに、なんだかおもしろい。


 「お礼とは、ケーキってことでしょうか。」


 神月は甘党なのか?


 「あぁ、神月がそれがいいって言うなら。」


 少し高いが、問題ない。

 悩んでいる神月の様子を見てふとあることに気づく。

 神月の目を一度も見ていない気がする。


 「時間があるときなら...ケーキはたまにで良いですよ。」


 「そっか、ありがとな。」


 あ、神月の目について考えていたから、また笑ってしまった。

 どんな反応をするのだろう。


 「あ、はい。」


 「...。」


 俺がさっき思ったことは間違いだったようだ。


 「どうしました?」


 神月は俺に気を許したんじゃない。

 ただケーキが好きなだけのようだ。少なくとも俺のことよりも興味を持っている。


 「ケーキ、食べるか。」


 「はい!ショートとモンブランいただきますね!」


 ほら、一気にぱっと明るい空気を出している。


 「...。どうぞ。」


 「いただきます!」


 ショートケーキを口に入れて幸せそうにしている神月見てまた気づく。

 俺は神月の目を見てないんじゃない。神月の目が見えないんだ。

 そっと体勢を変えて別の角度から見てみても、眼鏡に光が反射して全く見えない。

 おかしい。

 物語でよくある、眼鏡を外したら美人みたいなのは現実ではほぼ有り得ない。

 若干印象が変わるぐらいだ。

 一度気になると、もうほっておくことはできない。


 「神月、一ついいか?」


 ショートケーキを食べ終わったタイミングで話しかける。


 「はい、なんでしょうか。」


 「お前の眼鏡、どうなってるんだ?」


 「ふぐっ!」


 神月がむせた。

 驚かせてしまったようだ。


 「お、おい、大丈夫か?!」


 「ゲホッ、平気、です。な、なんですか?急に。」


 「ふと気づいたんだが、その眼鏡、どこから見ても光が反射して目が見えないなって...おい、本当に大丈夫か?」


 神月がどんよりとした空気を醸し出している。


 「平気ですよ。あはは...」


 「そ、そうか?」


 全然平気に見えない。


 「気になります?」


 「あぁ、まぁ、少し、けっこう、かなり。」


 とても気になっている。


 「ちょっと事情があるんです。特注品なんです。」


 けっこうさらりと教えてくれた。

 となると、気になるのは中身になって。


 「外したりしないのか?」


 「え、なんでですか?」


 「いや、気になるとゆうか。」


 気になるよな?普通。


 「...先生、私のお願いきいてくれませんか?そしたら、外してもいいです。」


 「お願い?なんだ?」


 「約束してくださらないなら言いませんし、外しません。」


 んーまぁ、大したことでもないだろうし、いいか。


 「わかった。約束する。」


 神月が俺を見上げる。


 「本気ですか?」


 「あぁ。」


 さすがに、生徒相手にこんなうそはつかない。


 「はぁ、えっと、お願いっていうのは-」


 神月のお願いを要約すると、自分の眼鏡を外した顔を、神月だとばれないように協力してほしいというものだった。


 「わかった。」


 そのくらいなんてことはない。

 神月の正体を知っているのが自分だけだという優越感もちょっとあった。


 「あ、ありがとうございます。」


 「あぁ。それで、外してくれるかな。」


 わくわくする。

 いったいどんな顔なのだろう。

 隠すってことは何かあるのだろうか?あまり自信のもてる顔じゃないとか?

 想像が膨らむ。

 そんな俺の信条とは裏腹に、神月はあっさりと眼鏡を外した。


 「はい、どうですか?」


 ついマジマジと見つめてしまう。

 目とは、とても大切なのだなと痛感した。

 よくよく考えてみたら、眼鏡をしていても顔が小さくて、口は小さく色もきれいなことや、形の整った鼻筋であることはわかっていたのだ。

 そんな彼女が、不細工よりも、美人に近いであろうことは予想できたはずなのに。

 つまり、神月は、とてもきれいで、可愛かったのだ。


 「先生?」


 神月に声をかけられるまで、じっと見つめてしまった。


 「は!あ、いや、良いんじゃないか。」


 「は?何が良いんですか?」


 確かに。

 焦って適当な言い訳を口にする。


 「えっと、そこまで隠すってことは、顔にコンプレックスがあるかもとか思って、先生としてフォローしなくちゃいけないなーとか思っていたから。」


 それを聞いた神月の目の色が変わった。


 「あんなに目をキラキラさせてたくせに?」


 「え?!」


 ばれてたのか?


 「いや、そりゃ、ちょっと気になってたから。」


 「ほーん。つまり先生はコンプレックスがあるかもとか思っていながら、わくわくしてたわけですか。フォローとかついで程度にしか考えてなかったんじゃないですか?」


 「いや、五割くらいは...」


 「本当は?」


 「...二割くらい。」


 本当はそんなこと頭になかったが。


 「ほとんどないじゃないですか。」


 神月が目を細めて睨んでくる。


 「すまん。」


 「てゆーか、コンプレックスとかもけっこう失礼じゃないですか?」


 「すまん。...って、ん?」


 ここで違和感に気づく。

 神月ってこんなやつだったか?


 「どうかしたんですか?」


 いや、こんなに感情を態度に出すやつじゃなかったはずだ。

 眼鏡を外して、より表情が見えるようになったとしてもだ。


 「神月、キャラ変わってないか?」


 「あっ」


 神月がしまったとゆう風に顔をしかめる。

 だが次の瞬間には少しだけ顔に悔しさをにじませているが、仕方ないと言った感じで、俺を指差して釘をさしてきた。


 「こっちが素ですもん。内緒にしててくださいよ。あ、あと、もしこれから眼鏡を外した私を見かけても、名前呼んだりしないでくださいね。」


 それはそうだろう。

 だが、あってしまったときどうすればいいのか。


 「なんて呼べばいいんだ?」


 俺にそう聞かれた神月は目を伏せて考え込みはじめる。

 そうすると、まつげが長いことがよくわかる。

 あれでは眼鏡にあたってしまうんじゃないだろうか。



 「先生!」


 「わっ!な、なんだ。」


 ぼーっとしていたので、とても驚いた。


 「八坂美月って呼んでください。」


 「八坂美月?うん。わかった。」


 あ、もう一時間も経ってるな。


 「なぁ、神づ-」


 「先生?」


 神月が俺の顔をのぞき込むようにしながら、軽く睨んできた。

 まさか...


 「もう変えるのか?」


 「当たり前です。」


 八坂美月だったか。

 本来存在しない名前、俺だけが知っている。

 少し特別な気がして、普段はしない下の名前で呼んでみようかと思った。


 「あー、美月。」


 「はい。」


 「そろそろケーキ食べたらどうだ?」


 「そうですね!いただきます!」


 神月の顔がパッと輝いた。

 本当に幸せそうにモンブランを食べている。

 全然無表情じゃないな。

 むしろくるくると変わっていておもしろい。


 「ははっ」


 つい笑ってしまった。

 神月が不審そうな目で見つめてくる。

 なんなのかと聞いてくる神月に適当な言い訳をしておいた。


 「先生、LINEかメールアドレス教えてください。さっき言ったように事情があるので。」


 「え、わかった。」


 食べ終わるなりいきなり言ってくるから、少し驚いたが、約束もしたし、断る理由もないからすぐに了承した。

 LINEを神月と交換する。

 教師という立場上よくないが、もともとばれてはいけないらしいから同じだ。

 協力や手伝いの連絡は全てこれでするという神月に、ふと気になったことを聞いてみる。


 「わかった。そういえば、美月は別に目は悪くないのか?」


 「両目2.0です。」


 「そ、そうか。かなり良いんだな。」


 「はい。」


 神月が立ち上がる。


 「先生、さようなら。」


 「あぁ、また明日。」


 部屋を出ていく神月を見つめる。

 なぜ顔を隠しているんだろうか。

 あんなに、きれいな顔をしているのに。

 だが、神月にその自覚はないように見えた。

 強かで、賢さも伺えるというのに、妙に無防備なのだ。


 「あーあ、やばいなぁ。」


 神月の真剣そうな横顔と、パッと笑った幼い顔を思い出して、ため息をもらした。


 


 

 ありがとうございました。

 今は忙しくて、あまり投稿できませんが、頑張ります。

 すいません。

 これからもよろしくお願いします。

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