第2話 いや、授業中に眠くなるのは仕方なくないか?
一昔前までは魔法といえばオカルトな話の代名詞だった。
そもそもにオカルトという言葉が
「怪しく胡散臭いもの」という意味で使われていたという。
私、魔法使いなの、などと言った日にはさぞや白い目で見られたのだろう。
--西暦2068年現在
魔法使いなどという呼び名は今もない。
ただし、「ない」という言葉の意味合いは昔とは大きく違っている。
魔法が使える人口が全体の99%を超え、
魔法を使えることが当たり前となった今となっては
わざわざ魔法使いと呼称することがないのだった。
科学文明は、魔法科学文明へと進歩を遂げ、
生活の多くの場面に魔法は浸透していた。
その中で、僕、阿頼耶 識は残りの1%
まったく魔法を使うことができないはぐれ者なのだ。
さて、そんなことはどうでもいいのだ。
それよりも何よりも、僕のパブリックイメージの為に、朝から妹の指を舐めて血を吸っていたことの釈明をしなくてはなるまい。
人としてあるまじき行為ではあるけども、止むに止まれぬ事情があったんだね、識君、それは仕方ない、君は悪くないね!と読者の方々に理解してもらうのが最優先なのである。
話を10日ほど前に遡るとしよう。
--※--
「西暦2051年を境に世界の大国を中心に魔法の雛型とも言うべき、サイキックを使える者が現れ始めました。」
魔法学教師である河合先生が黒板の前で滔々と説明を続けていた。
高校教育における学習内容は時代が変わってもそう大きくは変わっていないが、
昔にはなかった教科が二つあった。
その一つがこの「魔法学」の授業である。
魔法を使うことができない僕にとっては延々と
あなたはなぜ魔法が使えないのか?と、問い詰められているような授業だ。
「なぜ2051年に魔法が発現する者が突然現れたのか、その解明は未だなされていません。」
「諸説ありますが、先生は世界に満ちる霊気が閾値を越えたからだ、と思います。」
ぜひ残りの1%の僕が魔法を使う方法も解明してもらいたいものである。
そうしたらこの他人事にしか聞こえない授業も多少は身を入れて聞けるようになるだろうに。
「魔法の発現は、日本や中国、アメリカなど、人口密度が高い国から始まりました。」
「人口密度が高いということは、狭い範囲で多くの人が亡くなるということですから。」
…ダメだ…眠くてたまらない…。
「人は肉体・霊体・精神体が組み合わさって出来ています。」
「多くの人が亡くなることで、肉体という枷を失った霊体・精神体は大気に放出されます。」
…ごめんよ、河合先生…あなたは悪くない、悪いのはさわやかな初夏の日差しなんだ…。
「大気に満ちた霊気が人々の霊体を活性化させることにより、魔法の力が発現したのだと推測します。」
「魔法が発現して以後は…阿頼耶君?居眠りはダメですよ??」
…zzz…
「阿頼耶君!!起きなさい!!」